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自己肯定感なんていらない、ウチらには禅がある。


 日本人らしさ、日本らしさ、みたいな言葉が若い時は大嫌いだった。社会人になってやっと仕事やそこで出会った人を通して、日本ならではの「美徳」を学んで、今はなぜ日本的なものが“クール”なのかを知っている。その話は今度にするとして、ここではみんながよく言う「日本人の心」の私なりの解釈を書いておこうと思った。(ナショナリストでも愛国者でもないので心配しないでねぇ!)

自己肯定感はいるのだろうか、という問い。

 私は自己肯定感っていうのが私たちミレニアルズやGen Zを惑わしてるんじゃないかって思っている。「#セルフラブ」や「#セルフケア」に見られるように、ありのままの自分を受け入れて愛すことがソーシャルメディア上のトレンドで、私たちは常に誰かに「自分を好きになろう!」というメッセージに晒されてきた。(2020年は私も #セルフラブ 全開だった) そして私たちは疲弊してしまった。自己を肯定することほどエネルギーが要ることはない。自分を肯定するのには努力が伴う。
 誰が輸入してきたのかまでは調べなかったけれど、「自己肯定感」という言葉は心理学の「Self Esteem」から来ている。学問的な価値はあるのだと思うけど、私たち日本にルーツを持つ人々には、別のレイヤーの価値観がある。近しい言葉で、Self Esteemの訳語にも使われる「自尊心」という言葉がある。辞書を引くと、「自分の人格を大切にする気持ち。また、自分の思想や言動などに自信をもち、他からの干渉を排除する態度。プライド」とある。(小学館『大辞泉』より)私だけかもしれないけれど、自分の思想に自信とプライドを持つことと、ありのままの自分を肯定することとはニュアンスがかなり違うような気がする。
 もう一つ、Identityからきた「アイデンティティ(自我同一性)」という言葉がある。これも自己肯定感と同じで、なんだか私たちを惑わしている。アイデンティティが流行り出してから、私たちはみんな自分たちのことを綺麗に説明できるようにならなきゃいけなくなってしまった。日本人は長らく曖昧さや流動性のなかに「美」を見出してきて、なんならはっきりしない素性が魅力そのものだったのに。

ウチらには禅がある。

 日本で育ったカルチャーで「自己肯定」する必要も「自我同一性」も想定されていなかったとしたら、私たちには何があったのだろう。私は「禅的なマインド」がその答えだと思っている。(禅エキスパートでもなんでもないので「的なもの」と書いている。)鈴木大拙の『東洋的な見方』にそのヒントを見つけたのだけれど、日本の文化は混沌の中に生まれる調和によって形作られている。そしてその調和の中で、日本人が自分という存在に向き合うとき、自己が主題なのではなくて自己と外との関係こそが主題なのである。言葉を変えれば、アイデンティティ的な自我は辞書を書く作業なのに対して、禅的な自己の形成は円相や庭にも表れるような線や絵を描くような作業なのだ。
 思い返してみれば、教室で同じ制服やスーツを着ていてもみんなが何かのオタクだし、色んな系統を縦横無尽に行き交えて色んなバージョンの自分がいる。意見はないけど推しの色があって、自分の世界観がある。それが自分を取り巻く半径100m以内で調和しているならそれで十分、禅である。
 私がここで言いたいのは、日本人は日本人が思っている以上に、自由でしなやかなマインドの持ち主だってこと。そして私たちは、そこに悦びを見つける術を知っている。風が吹いて、葉が落ちるのも、蛙が池に飛び込むのもおかしい。意味はないけど価値がある瞬間を愛せる世界線にいる。
 これが2024年の私が思う「日本人らしさ」。世界と繋がることは素晴らしいけれど、すべてを世界基準に合わせる必要はない。せっかく持ち合わせた価値観はTPOに応じて磨きをかけていけるところだって思うんだ。自分を無理に愛する必要も、肯定する必要もない。今好きなこと、人、物を好きなだけ愛して、それを貫けれるなら、それでいいではないか。(これがつまり推し活である。)

 なんでこんなことを考えているのかというと、先週と今週のLobsterrELLEの「完璧主義なウェルネス・トレンドの終焉」の記事が取り上げられていたから。私はマーケター(でありHSP)なので、去年あたりからセルフラブを推し売ることは避けてきたし、同僚にウザイほど言って回ってきたけど、こうやって改めて記事を読むと私たち大衆のエモーションが事実として整理される。ミレニアルズは自分の面倒を見ることに息切れしてきたし、Gen Zは毎日耳にするディストピア的な未来に向かうナレイティブに辟易としている。私たちはみんな疲れてしまった。

 私の周りには世界に距離が近い人がたくさんいる。世界で起きていることはとっても魅力的だ。だけど、ウチらには禅がある。もっと自由に、もっと気楽に、世界と向き合おうじゃないか。



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