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2023年12月2日のクワズイモ

ラジオで人間の興味は動物から植物、更に鉱物へと変化すると言ったのはたしか安住紳一郎アナウンサーだった。
確かに、春の水辺に並ぶ桜を見に散策する程度にはここ数年で植物に興味を持つようになった。
ただ自室に植物を置く気にはなれなかった。
過去に大して興味もないくせに買った幾つかの植物を枯らしていたし、何よりその時の俺は汚部屋在住だった。

でだ。去年の秋、蔵前に引っ越した。
俺は沼みたいな風呂場や通りから丸見えのベランダから解放され、築年数は古いがリフォームされたばかりの部屋と追い炊き可能な風呂、三口コンロのキッチン、そして南東向きのベランダを手に入れた。
それ以来、植物を買い漁っている。
守備範囲は観葉植物と盆栽、それに多肉植物がちょっとだけ。
誰のせい? それはあれだ、老いのせい。多分ね。

俺の新居に最初にやって来たのはクワズイモだった。
昔、1巻ばかりを繰り返し読んだジョージ朝倉のピース オブ ケイクで印象的な役割を果たすクワズイモ。ハート型の葉と特徴的な幹。
園芸初心者の乏しい植物知識の中でも心のベストテン第一位は奴だったし、多少小賢しくなった今でもそれは変わらない。
だから俺は散歩がてら奴を求めて彷徨った。オランダ人みたいに。ユダヤ人みたいに。蒼い弾丸みたいに(彷徨える三段活用)。

代官山で見かけたかっこいいクワズイモ

浅草橋から隅田川を渡って両国、錦糸町を抜けて亀戸を見て回りそこから南へ向かった。
北十間川を渡ってホームセンターを覗くも奴はいなかった。
更に南へ。曳舟まで徘徊した所でワイヤレスイヤホンの充電が切れて家の方面へと踵を返す。
その店は押上の、けれどスカイツリー商圏外の人通りもまばらな商店街にあった。

店主はこの時期にクワズイモはほとんど売っていないと言い、って事は前シーズンから売れ残り続けている2株がそこにはあった。
俺は植物に関しては完全なるルッキズム野郎なので、少し小さいが幹の模様がかっこいい方の1株を買った。
値札から数百円割引いてもらって800円だった。
2万5千歩近く歩いてほうほうの体で家にたどり着き、用意しておいたスリットポットに植え替えようと鉢から取り出すと奴の根は死ぬほどサークリングしていた。

その日から奴は我が家の窓際の一番いい場所を占拠した。
無事冬を越えて、スタンダードプロダクツで買った500円のかっこいい鉢をカバー代わりに鎮座している。ドープネスに。


俺のクワズイモ

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