〈秘書から見たトップの世界〉リーダーのわがままには 理由がある

異端会議からの転載です。(異端会議サイトでは無料です)

秘書の仕事とは

—–多くの外資系企業で秘書をされていらっしゃいましたが、秘書とはどのような仕事なのでしょうか?

   「秘書とは、経営者・リーダーが自分のすべき事だけに集中できるように、その他はすべてやるという究極の黒子のような存在です。ただ、本当になんでもやります。言われる前に上司の表情や所作から次の行動や相手の欲していることを察したり、トラブル解決法をいくつもドラえもんのポケットのように用意しておいたり。仕事そのもの以外でも必要ならばモーニングコールや具合が悪ければ薬の用意、ご家族のケアから時には別れる彼女へのプレゼントなど、守備範囲は公私にわたります。もちろん上司の仕事についてはすべて把握しておく必要があります。『あの案件のこと、わかってるよね?』と試されるようなこともありました。ですから上司のメールはすべて読んで理解しつつ、彼らの部下たちと連携して仕事を進めることも必要です。」

—–日本における秘書のイメージとは少し違っていて、より業務の幅が広いように感じます。

   「日本のリーダーで、秘書という役割を理解して十分活用できている方は、まだまだ少ないと感じます。日本の大企業の方とお話をすると『あまり色々頼んじゃいけない』と思われている方もいらっしゃいます。担当の秘書が自分以外にも複数人を担当していたり、そもそも秘書室という部署があり、まずは秘書室長に連絡をするなど、直接のコンタクトがない場合もあります。それだと秘書の力の2割くらいしか引き出せていないと思います。」

—–日本で秘書がもっと活躍するためにはどのようなことが必要でしょうか。

   「リーダーの中には、『秘書はいらない』『受付と総務と兼務でいい』と言う方もいらっしゃるのですが、私は『3日間無給でいいから私を雇ってみて下さい』とお願いしたことがあります。お手伝いしてみたら、最後に「秘書の必要さがわかった。」とおっしゃっていただけました。お試しでもいいので、まずは『自分の秘書』を持っていただきたいのです。会社からあてがわれた秘書ではなく。自分で秘書を選んで自分色に染めて、育てて自分の分身にする。そこまでがトップのやるべきことだと思います。私がリーダーだったら、人から・人事からあてがわれた秘書に『全て』を任せるのは難しいと思います。」

—–秘書として心がけていることはありますか?

   「秘書とは、自分の常識を持ってはいけない仕事だと思っています。上司も全員違う気質ですから、自分の常識を非常識だと心得て、なんでもアメーバのように『寄り添う』ことを心がけています。そして想定外を常に想定内にする仕事ですね。秘書がいるリーダーたちは、みなさん素晴らしい能力を持った方なのですが、一方ですごく孤独です。誰かが『こうした方がいい』と指示してくれて、責任を取ってくれるわけではないですから。秘書は経営に関しては具体的に何かできるわけではないですが、リーダーを支えることはできます。支える力が大きければ大きいほど、引き出しが多ければ多いほど、そのリーダーのパフォーマンスが上がるとともに、部や会社が成功していくのではないでしょうか。」

トップの信頼を勝ち取るには

—–トップとやり取りする上で重要なことは何でしょうか?

   「秘書は、とにかく360度に目配りをしていなければ、なにが致命的なミスにつながるかわからない仕事です。最初は、メールを共有してくれない方もいます。だからこそ信頼してもらい、情報を常に取れる状況にしておかないといけないのです。私の知らないところでトップ同士がお話していて、私が知らなければ失礼することもあります。 トップの立場から物事を考え、状況を見て行動することが最重要です。けれど絶対にイエスマンであってはなりません。常にイエスマンに囲まれているトップの環境だからこそ、秘書は俯瞰して客観的に状況を把握し、時にはどんなお叱りを受けようとも、言うべきことはトップと会社のために言わなければいけないのです。」

—–秘書として、トップとの信頼関係を築くために、どのようなことをされていますか?

   「私が新しい方を担当する時は、その方ととにかくコミュニケーションを心がけます。いわゆる雑談ですね。もちろん仕事ができるという能力は大事なのですが、同じくらい『こいつは気を許せる』という精神的な信用が絶対的に必要なのです。雑談でいかに情報を引き出し、分析して行動して、自分が役に立つかを知ってもらう。そして自分の情報も少しずつ伝え、『私はあなたの敵ではございません』『私はあなたに忠誠を尽くします』という姿勢を示し続けます。」

—–徐々に信頼関係を築いていくのですね。

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