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RTOを全社員で実験して効果を4つの要素で測ってみた

パンデミックの終わりが見えてきたことで世界も日本もオフィスへの回帰が始まっています。RTO(Return to Office)と呼ばれている動きですね。

会社に来て働くことが当たり前であった状態から、2019年初頭に始まった新型コロナウィルスのパンデミックによって半ば強制避難的に在宅勤務やリモートワークがスタートしました。
それから2年半以上経った今、在宅勤務やリモートワークに慣れてしまった人達は働く場所と時間の自由を主張し、それが得られないならば勤め先を変えるケースも出てきているようです。

そんな中で私のいる会社でも、今年の年明けぐらいからパンデミックが終息した後の働き方について活発な討議が行われてきました。リモートでほとんどのことができるようになったとしても、会社に集まって仕事をすることは絶対になくならないし、無くすべきではないというのが基本的な考え方でしたが、問題はどのくらいの頻度が妥当なのか、その判断が悩ましいところでした。

そして、出社頻度が低くなるのであれば全員出社前提となっている現在のオフィスは縮小するか移るかする必要が出てくるので、そのための投資の大きさとタイミングも決めなくてはなりませんでした。

そこで、働きの変化によるオフィススペースへの投資の意思決定に必要な検証を目的として、全社員参加の実験をすることになりました。
このnoteでは、その実験の際に、効果を測るために使った4つの要素についてご紹介してゆきたいと思います。

実験の概要と効果測定基準の考え方

実験は今年(2022年)の4月半ばから7月上旬の3ヶ月間で行いました。
それまではパンデミックによる感染リスクを鑑みて、出社はその必要がある時のみ社員が自分の判断で上司に申告して行うスタイルでしたが、部門内の話し合いで出社日あるいは出社頻度を決めてそこで全員が顔を合わせて仕事をする機会を作ろうという呼びかけを時間をかけて事前に行いました。

何曜日は出社とか、週何回出社とかを会社が決めてやってもらうのではなく、各部門が話し合いの中でそれぞれの個人の事情と業務ニーズを鑑みて出社する日を決めることができるようにしたのでした。
その上で、「実験なので全部リモートというのは無しにしてください。実験なので週一回が良いのか、週二回が良いのか、出てくる曜日はいつが良いのかなどをいろいろ試してみてください」と呼びかけを行いました。

オフィスへの出社頻度は簡単に決められるものではありません。
業務環境として在宅よりもオフィスが適している人や部門もあれば、他の社員のいない静かな自宅でしたほうが良い仕事や部門の事情もあります。それに加え、移動時間やその手間、家庭状況など個人の事情もあるのです。
つまり、会社が指定できる働き方の正解というものはおそらくはなく、皆が納得できるスイートスポットのようなところを探らないといけないと考えました。

そのスイートスポットを見つけるための指標として挙げたのが今回ご紹介する4つの要素です。
それは、帰属意識(Belonging)、生産性(Productivity)、独りではない感覚(Loneliness)、ウェルビーイング(Well-Being)です。
実験の中で試行錯誤をしながら、これら4つが重なる部門ごとの働き方を見つけてもらおうということにし、開始前(4月頭)と期間の半ば(6月上旬)と終了時(7月上旬)の3回、5段階評価でのサーベイを行いました

個人ではなく皆にとってこれら4要素の最も良くなる状態を見つけ出すための実験でした

それぞれの要素の定義と、実際にそれらがどのように変化していったのかをデータを見ながら説明してゆきますね。

Belonging(帰属意識)

あなたの会社への帰属意識を5段階で表すと何点でしょうか?」が質問です。
ずっと在宅で仕事をしていてそれが当たり前になると、普段見る景色が生活空間のみとなり、会社員である実感すら薄れるかもしれません。
会社に縛られるような窮屈な感じがなくなるのは悪いことではないかもしれませんが、その一方で会社としては「うちの社員である」という意識を失っては欲しくないですし、社員のリテンションにも関わるため確認する必要があります。

3ヶ月の間の所属意識(帰属意識から途中で言葉変えました、その方がわかりやすいようだったので)の変化を表したのが以下のグラフです。

所属意識については目立った変化はありませんでした

3本の要素棒グラフは一番上が実験開始前の4月にとったもの、真ん中が6月、そして一番下が7月上旬のものです。
右側薄水色が5段階評価の5(実感が強くある)であり、左側の藍色が5段階評価の1(全く実感できない)になっています。

少し意外でしたが、これはほぼ変化がないと言って良いかと思います。
所属意識が高めの人が減っているようにも見えますけれど、これはおそらく始める時点の回答が高ぶれしていたのだと思います。
つまり、会社に行かなくても自分達は会社の一員だと実感を持っているよ、というアピールではないか、と。理由として書かれているコメントを読むとそのような考え方がしているであろうこと透けて見えてきました。

ただ、所属意識が低い人も一定数いて、その人たちはおそらく週一回顔を合わせるだけではダメなのか、それとももともと所属意識が低いのかもしれないですね。

Productivity(生産性)

あなたの仕事の生産性を5段階で表すと何点でしょうか?」が質問です。
出社することによりリモートでは行いにくかったことがしやすくなったり、コミュニケーションが円滑になることによって仕事が捗るかどうか、を問うています。会社の方が生産性が高いのか在宅の方が生産性が高いのか、それは仕事によって異なりますし、個人の価値観やスタイルの影響を受けます。労働環境によってもばらつきやすい項目です。

私個人としても最も気になっていた項目でした。というのもリモートで集中できるから生産性はその方が高いという意見が多く聞いていたのもありますし、私自身もそれは実感していたからでした。

生産性は低かった人が減り、高い人が増えています

なのでこのデータを見たときには正直ホッとしました。
明らかに生産性が向上してる実感があるようですし、しかも時間の経過とともに良くなって行く傾向があり、オフィスに出社してコミュニケーションをとる価値を社員が感じ始めていることが分かりました。
コメントを読んでも、気軽に声をかけられるようになったとか他の社員の人柄がわかって安心できたなどのポジティブな意見が多くなっていました。

かといって、出社頻度を上げるとこのデータも変わってくる可能性はあると思っています。内勤者は個人の業務に集中する時間が必要な人も多いため、話しかけられることが多いと仕事に中断が入り効率は低下するでしょう。

Loneliness(孤独感)

あなたの孤独感や寂しさを5段階で示すと何点ですか?」が質問です。
パンデミックの間に入社した人たちなどは同じ部門のメンバー全員とまだFace to Faceで会ったことがないという人もいました。深く知り合う機会もないので、わからないことがあっても誰にも聞けず悶々とすることもあるようです。
それでなくても他者から切り離されて独りで仕事をしているときに寂しさを感じる人は多く、孤独感からメンタルに不調をきたしたり退職にいたる人もいます。

リモートで仕事をしていると、ミーティングなどに出てる時しかその人のことを見れないのでその人の心の状態と言うのはなかなか伝わってきません
孤独感は心の健康上は最もリスクが高いと言われていますので、何らかの手を打つ必要は感じてきましたが、リモートだけだとなかなか難しいものがあります。

孤独感は高い人がいること自体を問題と捉える必要があります

このグラフは注意してみる必要が有ります。右に行くほど孤独感が高いことになるので濃い色が多いほど良い傾向ということになります。他のグラフとは見方が逆ですね。
まず、懸念してるような孤独感は低い人が半分以上、普通の人も含めると8割ほどになるのでそもそも孤独感の問題は小さいようにも見えます。

しかし、これは少なければ良いということではなく、本来は限りなく0であっても良いはずのものであり、孤独感が高い人がいることを問題だと考える必要があります。
そして、そういう意味ではこれは良い方向に改善されている、つまり孤独感を覚える人が減っていることが見て取れます。

ただ、出社したときに他に誰もいなかったので寂しかった、、というコメントも見受けられました。広いオフィスに独りでは在宅よりも状況悪いですよね…
やはり出社したときには仲間がいる状態を作る必要がありますね。

Well-Being(ウェルビーイング)

あなたのウェルビーイング(元気さや充実度)を5段階で締めると何点ですか?」が質問です。
ウェルビーイングは人事や人に関わる仕事をしている人の中ではよく聞く言葉かもしれませんが一般的な社員はそうではありません。そもそもこの言葉で通じるのかが懸念としてはありました。

私としては、この言葉に込めている意味は「心身の健康」にあり、疲れてしまったりストレスを感じているようであればウェルビーイングは低く、楽しいとか充実しているようであればウェルビーイングが高いと考えてもらおうとしていました。

その意味では他の要素と若干被る部分はあるかも知れませんし、個人の主観的な判断で回答するものになってしまいますけれど、生産性が「仕事のスタイル」だとしたらウェルビーイングは個人の「生活のスタイル」に関係するものであり、人によって何が良いのかが大きく異なってくるバラつきやすい要素だと認識していました。

ウェルビーイングは言葉への理解がそれぞれ異なってる可能性が高いです

ウェルビーイングは高かった人が若干減っていますが、低かった人が増えているということはないようでした。
頻度としては高くないものの、通勤(痛勤)が発生することで疲れてしまったり生活の時間を削られることに対するストレスが発生した人がいるので、ウェルビーイングが下がるであろうことは想定していました。
これで出社頻度が上がってくるとさらに悪化するのかもしれません。

コメントの中にも、久々に出社するのでその準備を含めてかなりの時間がとられていることに気がついたというものがあり、出社して人に会うという行為はその前後に付帯する拘束が課されており、それが疲労やストレスの原因になることが見えてきました。
出社したことで「出社したくないなぁ」とより強く感じることになった人も出てきていたようです。

実験からわかったこととこれから

4つの要素の変化を見ながらわかったのは、やはりフルリモートよりもハイブリッドで出社と在宅を切り替えながらの働き方が私の会社には向いているということでした。
オフィス出社をするという実験の中でわかったことを社員からもらったコメントをクラスター分析して整理すると以下のような図になりました。

三つの要素を取り巻いて二つのループが回っている状態になっていますね。
どちらもスタートはコミュニケーションです。

まず内側のループから見てゆきましょう。
コミュニケーションが良くなると、仕事の効率や生産性が改善する。そして仕事の効率が上がるので結果的に元気になってウェル・ビーイングが改善する。
そしてこのループは逆方向にも回っています。
コミュニケーションが良くなったことで、気持ちの上で元気になり、それが仕事の生産性を上げることになります。

このように整理をしたことで、オフィスに集まることの価値について明確にすることができました。オフィスへの出社は会社にとっても個人にとっても価値があることなのだと言うことができたわけですから。

パンデミックにより導入が加速したリモートワークは、それを続けざるを得ない状況が長く続きました。
そして、その中で私たちは二つのことを発見したと思います。

一つは、私たちがやっていた仕事のほとんど全てが実はリモートでできてしまうと言うことです。使い慣れなかったzoomやTeamsに慣れるとともに機能がより充実していったので、そちらでやった方が却って効率が良くなったり、集中できたりと言うことが起きていました。

もう一つは、私たちはやっぱり社会生活を営む生き物であると言うことです。
私たちには明らかにあって繋がる、密度の高いコミュニケーションで相互理解をすることで信頼関係を強く結ぶ。それがあることで共通の目標に一緒に向かってゆき、困難をも乗り越えることができるのです。

パンデミックが脅威でなくなりつつあり、「新たな日常」が始まろうとしています。
社員同士の交流によるコラボレーションを促進するために、おそらくオフィスに出社する頻度というのはこれから増えてゆくと思います。
そして私たちは、オフィス出社することの意味を理解するだけでなく、その価値をもっともっと高めてゆく必要があると思っています。

冒頭に、オフィスへの投資を判断し意思決定を行うことが実験を行う引き金になっていたことを述べました。
今ちょうど、オフィスのデザインを始めているところですが、この実験の結果も活かしてゆきます。個人でこもってやる仕事は在宅で、集まって交流してコラボレーションする仕事はオフィスで。そして、集まることが楽しくなるようなそんなオフィスを作ってゆきます。
「会社」は「会う」「社」なのですから。

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