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聞いてくれ、アグリーデリシャスが大好きなんだ

 ちょうど一年前。留年も明け研究室生活という服役期間も終盤に差し迫ったそんな時期、不真面目という罪を償うため研究室に寝泊まりする日々に精神がやられた僕は、何を思ったか、論文ではなく一本のnoteを書きます。
 時は下りコロナの影響で弊社も例にもれず在宅勤務となった2020年3月、肉体も精神も至って健全な現在の僕が、あの頃の僕の意思を受け継ぎ、加筆・修正を加えて公開ボタンを押そうと思います。アーメン。

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 「このnoteは一体なんのためのものなんだ」「誰に向けて書いてんだ」「そもそもお前は誰だ」という意見に対して一言だけ。
 「うるせえからとりあえず好きなもんを好きって言わせろ」

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 世はストリーミングサービス大海賊時代。高校時代、必死でTSUTAYAに通い、旧作になっているCDを漁っては(当時はディグる、という言葉すら知らなかった)アルバムを一枚一枚愛情を込めてiPodに曲を落としていた僕も、今やSpotifyのレコメンドの虜となっています。

 動画といえばもっぱらのNetflix派。たしかに過去の名作映画が見れることも一つ大きな理由ですが、それにも増してNetflixオリジナルシリーズがめちゃくちゃ魅力的です。とくに僕はSFが好きなので、良質なSFシリーズが揃っているのはこの上ない喜び。SFの金字塔:スタートレックの新シリーズ「スタートレック・ディスカバリー」に始まり、ブレードランナーの世界観を彷彿とさせる「オルタードカーボン」(アンソニーマッキー版S2楽しみ...!)、そして大本命・70sアメリカの小さな田舎で繰り広げられる少年少女の壮大な冒険譚「ストレンジャーシングス」(心静かにS4を待ちましょう)など、本当にどハマりしました。

 さて、他のジャンルにもオススメしたい作品はあるのですが、この卒論でクソ忙しい時期にわざわざnoteを書いているのは、「ネトフリサイコーーー」と言うためではありません。ましてNetflixに頼まれたわけでもありません。平成の終わり、インターネットの海に消えていったとしても、ここに一つ、「ネトフリサイコーーー」と言うためではありません。ましてNetflixに頼まれたわけでもありません。平成の終わり、インターネットの海に消えていったとしても、ここに一つ、僕がどうしても愛を叫びたい作品があるからです。(気が狂っていた2019.3記載)

 食ドキュメンタリーUgly Delicious(アグリーデリシャス)です。

 ※時間がない人は目次だけでも眺めてってください。愛です。

1. とりあえず、うまそうなのが大好き 

 これはもう、一旦、一旦トレイラーみてください。

 グルメ番組として重要なのは「うまそうで、映(バ)える画がたくさんある」ことではなく、「うまそうに食ってる人が一人でもいる」ことだと勝手に思っています。この番組はもうそんな人々が死ぬほど出てきます。わかりやすく言うと、映画ラピュタでドーラ一家の面々が飛行艇の中で晩餐をしているシーン。あれが延々と続きます。

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2. 甘辛病みつきスパイシーな料理たちが大好き

 こちらがシーズンのラインナップ。
 各回一つの料理(ジャンル)がピックアップされ、それについて掘り下げていくスタイルのこのシリーズですが、その料理のチョイスが素晴らしい。シリーズのメインターゲットはおそらくアメリカ人ユーザーでしょうから、"ピザ、タコス、バーベキュー..." という料理のチョイスはアメリカ人にとっては馴染みがあるものばかりだろうな...という作り手の意見は差し引いて、日本人的には「馴染みのあるもの・ないもの」がうまくミックスされたこの甘辛なラインナップはもう病みつきになります。
  

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シリーズ1は全8話で構成

 各回のテーマになっている料理の取り上げ方もポイント。
 たしかに「ザリガニ!?」とか思ったりしますが、エビと比較されると「おお〜ん?たしかに、すごいよだれ出てきた」となりますし、「フライドチキン」回なんかはオープニングで日本のローソンのLチキを取り上げてます。美食番組にありがちな「おいしいのはわかったんだけど味が想像できねーんだよ」「勝手に盛り上がんな」みたいな視聴者が置いてけぼりになってる感じがない。誰でも知ってる身近なところと、道を極めるスペシャリストの話を、どちらも必ず取り上げられているのもまた甘辛で堪らないです。

3. ホストのデイブがうまそうに食べるのが大好き

 食べ物のドキュメンタリーである以上、そこに映る食事がおいしそうなのは最低条件です。ただ、いくら食事がおいしそうでも、誰が食べるかによって食卓での食事のおいしさは変わってきます。そこのところ、ホストであるヒゲの大男・David(デイブ)が本当においしそうに食べる。マジでうまそう。そしておいしいものにはちゃんと心を揺さぶられて、たまに泣いたりする。

「バーベキュー」回での一幕

 「デイブは回によってすごいガキっぽくて見ててイライラするよね」というようなコメントも見受けられましたが、いやいや、むしろその子供みたいに純粋な食いつきが、登場人物たちのストーリーを引き出すいいスパイスになってるよ!と思っています。

4. 「美食」番組にない、コミカルで小気味良いテンポ感が大好き

 いや、ほんとにこれ。純粋に観ていて飽きないっていうのがすごい。

 美食番組のテンプレは

「集まる→オススメの店行く→見たことないもの頼む→おいしい→店主のエピソード聞く『いい味出してんな〜』→(日本ならここで)番宣」

だと思うんですが、そういうダラダラした取り上げ方や、予想ができる構成が一切ないのです。バンバン裏切ってくる。先ほどの取り上げ方の「甘辛」感もそうですが、緩急のつけ方が非常にうまい。バーベキュー回でなんかしらんブタとか出てくるの、意味わかります???なんなん????

 それから、映像作品に大事な音楽。これはSpotifyにプレイリストがあるので、ぜひ聴いてください。もちろん、ヘビロテしてます。

5. 地球最強のコンテンツである「食」でぶちかます、海賊精神が大好き

 はて。

 そもそも、なんでこの企画をやろうと思ったのだろうか...?家の掃除をするときにすらアグデリをもはやBGMとしてかけてしまう「アグデリ狂」な僕は、狂い過ぎてそんなことを考え始めました。いったい何が、僕の心をこれほどまでにざわつかせるのか?なぜ、アグデリのインスタはわざわざ「Not food porn(これはただのシズル感満載のグルメ番組じゃねえ)」と言っているのか?

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 そこでふとあの、甘辛スパイシーなシーズンラインナップを思い返してみました。ピザ、タコス、中華料理...

 そういえばこれってもしや、アメリカに住む移民ルーツの食たちでは...?
 もしかしてこれ、食、食文化を通じてアメリカの文化の多様性を考える番組、なのでは...?
 ラインナップを書き出してみるとこんなかんじ。

①ピザ:イタリア系
②タコス:メキシコ系 
③家庭料理:感謝祭=それぞれの文化圏の過ごし方 
④ザリガニ:ニューオリンズ(フランス系移民地域) 
⑤バーベキュー:アメリカ内の地域性/アジア系 
⑥フライドチキン:ブラック(アフリカ系とはちょっと違う) 
⑦中国料理:中国系 
⑧包み物:総括「どんな国にも包み物ってあるじゃん」

 そう考えてみると、ホストとして韓国系アメリカ人のデイブを起用したこともなんだか納得できます。

 もちろん、彼は世界的に有名なシェフであり、食番組にも多く出演し、コミカルであけすけな物言いがとっても魅力的な人物です。アメリカの食文化をコミカルに切り取るのには彼が適任だ!と白羽の矢が立つのは想像に難くありません。
 しかし、アメリカの食文化を「人種」という観点で語るなら、幼いころにキムチを食べることを笑われた幼少期を過ごし、また違った意味で文化が混とんとした日本で修業を積み...というバックボーンを持つ、「韓国系アメリカ人シェフ、デイビッドチャン」以上にふさわしい人物はいないのだと、そう思います。

 これはそうかもしれない...!と独り言ちたのでした。

 ここでまた、はたと思うのです。

 食事ほどストレートに、しかし複雑に、それが生まれた環境を表すものはありません。食されている気候、地域、コミュニティにいる人種。ひとつひとつの食事が、それぞれの背景を持って生み出されています。家によって飲むお味噌汁の味が全く異なるように、食事というのは非常に「ローカル」なものだと言えます。

 一方で、食そのものは非常にグローバルなものである、といえるでしょう。それぞれの食事が持つそれぞれの背景、その全てがぐるぐると混ざり合って、食されているそこだけにしかないたった一つの「おいしい」というアウトプットになります。この「おいしい」を感じることは、芸事や言語と違って誰しもができる「食べる」という普遍的な行為によってもたらされる体験である、と言い切れるでしょう。

 このように、地域性と普遍性を兼ね備えた最強のコンテンツこそ「食」。アグリーデリシャスという番組は、人種のるつぼといわれるアメリカだからこそ、あえて「食」をツールにして、トランプ政権発足以降顕在化してきた他者=自分と異なる文化への不寛容を、ちょっとずつちょっとずつつついていこうじゃないの、という試みに思えてならないのです。

 ...と、いうのはいつかのWIRED(たぶん)で前編集長・若林恵さん(だったきがする)が「食ほど、ローカリゼーションとグローバリゼーションの両極化が進んでいるものはない」と語っていた(はず)なのを思い返しながら、都合よく再解釈したものではあるのですが......

 とはいえやっぱり、これだけ沢山の不寛容があふれる世の中で、「おまえの言いたいことはわかった。わかったけど一旦、一旦これたべてみ?」「うまい」「だろ」ということができるのは「食」以外にないと思います。

 背景にまとまりはない、しかしただ一つ「おいしい」という通念でひとつになれる。そんな「とても強いメッセージを、マイルドに、広く伝える」ことができるのは、食しかないんじゃないだろうか、そう思います。

シーズン2がやってくるよ!!!!!

 そんなこんなで、ようやく、待ちに待った、シーズン2が今週3/6(金)に公開です!!!やったね!!!みんな観てくれ!!!たのむ!!!観て損はさせない!!!!!というのが結局言いたいことなのでした。よろしくお願いいたします。

Netflix公式サイト:UGLY DELICIOUS
YouTube:Ugly Delicious 2 | Official Trailer | Netflix





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