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入管難民法改正案の何が問題か? 在留資格がないことは犯罪ではない 恣意的に選ばれる参与員 国連の特別報告を無視する日本政府

 外国人の収容・送還のルールを見直す改正入管法が9日、参院本会議で、自民、公明、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。

 今後は、入管施設の長期収容の解消を目的に、難民申請中の強制送還の停止を原則2回目までに制限する。

 立憲民主党と共産党は、本国での迫害を受けるおそれがある人を帰してしまうとし、反対した。法律は公布後、1年以内に順次施行される。

 入管当局の狙いは、送還を逃れる意図で難民申請を繰り返すケースが多いとし、不法滞在などで強制退去を命じられても送還を拒む外国人の退去を進めることだ。

 3回目の難民申請以降は、「難民認定すべき相当の理由」を示さなければ、送還される。

 送還を拒み、航空機内で暴れるなどの行為は、刑事罰の対象に(1)。一方、収容の長期化を防ぐために「管理措置」を新設、支援者ら管理人の下で社会での生活を認める。収容中は、3ヶ月ごとにその必要性を見直す。

 また、認定基準に満たなくても、紛争地域の住民らを難民に準じる「補完的保護対象者」として在留を許可。これらは、ウクライナ避難民らが想定される。

 改正案は、2021年の通常国会時にも提出されたものの、名古屋出入国在留管理局で同年3月、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)が死亡した問題をめぐり与野党が対立、その後、廃案となった。

 ただ今回の改正法は、そのときの旧案を大筋で維持している(2)。

 日本の難民受け入れは、1981年に難民条約の加入により始まった。しかし当初は消極的であったものの、流れを変えた事件が。

 2002年、3歳の女児を含む北朝鮮からの脱北者一家5人が亡命のため、中国・瀋陽の日本総領事館に逃げ込みながらも、現地警察に拘束された問題だ。

 敷地から引きずり出される姿がテレビでも流され、保護を求める外国人の救済に後ろ向きだとして、政府に批判が集中した。

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在留資格がないことは犯罪ではない


 日本では、よく在留資格のない移民をさして「不法滞在者」や、「不法在留者」という表現が使われる。

 しかしNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)は、「正規の在留資格をもたずに日本に滞在するのは行政法の範疇に属する『違反』で、それを理由に『不法』とするのは不正確」としする。

 移住連によると、海外では「非正規」(irregular)や「無登録」(undocumented)といった表現が使用されるのが一般的だという。

 1975年の国連総会において、

「国連機関および関連専門機関に対し、すべての公的文書において『無登録の』あるいは『非正規の』移住労働者という用語を使うよう要請する」

と決議したことを踏まえている。実際、アメリカは「無登録移民」という呼び方を使っている。カナダでは、アメリカから越境入国して難民申請する人を「非正規入国者」とする(3)。

 AP通信社などの海外メディアも、2013年から「不法移民」という言葉の使用を禁止している。

「行動ではなく人物に対して、一律に『不法』というレッテルを貼るのは正確さに欠けるという判断」

に基づいているという。

 一方、ハフポスト日本版が調べたところ、日本で6月14日までに配信された国内の大手メディアのニュースでは、「不法滞在」という表現を使っている例が複数確認された。

 移住連は、「不法滞在者」や「不法移民」という呼び方は不正確なだけでなく、

「彼らが生活者としてこの社会に暮らしている事実を見えなくし、彼らの尊厳を奪う点で有害」

との認識を示す。そのうえで、

「特定の移民・難民を『不法』とみなす認識は、外見や民族、宗教などが異なる人にたいする不信感や差別意識を助長し、人種差別や排外主義、ヘイトクライムを引き起こしたり、社会の分断を深める危険もある」

と警鐘を鳴らす。

恣意的に選ばれる参与員


 入管難民法改正案の審議をめぐっては、難民申請の審査に関わる難民認定参与員たちの”違和感”も問題が。

 政府が改正の根拠とする、「申請者に難民がほとんどいない」という特定の参与員の発言を取り上げていることに、他の参与員たちが「違和感がある」としたからだ。

 違和感の矛先は、NPO法人「難民を助ける会」の名誉会長であり、2005年から参与員を務めている柳瀬房子氏の発言だ。柳瀬氏は、2021年の衆院法務委員会の参考人招致で、

「難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんど見つけることができません」

と発言した。これは、政府が改正のよりどころとする発言であっただけに、他の参与員たちが違和感を訴える。

 参与員は、入管当局の1次審査で難民不認定となった人の2次審査に関わり、意見を述べる。現在111人で構成。通常、3人で1組の常設班に分かれ、月に数回集まって審査する。  

 参与員らが発した違和感の対象には、入管当局が参与員に割り振る件数の差も。

 「申請者に難民がほとんどいない」とした柳瀬氏は、2005〜2021年に約2000件の対面審査をしたが、「難民認定をすべきだ」と意見したのは6人と説明していた。認定率は1%にも満たない。

 また、出入国在留管理庁が今国会に提出した資料によれば、柳瀬氏が2021年度に1378件、2022年度に1231件を担当し、全体の2割以上が同氏に集中していたことも明らかになった。

 一方、参与員のなかには、2年ほどで5件しか審査していないものもいた。年間約50件審査してきた参与員もいるが、それでも柳瀬氏との差は歴然。

 NPO法人「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長の小川隆太郎弁護士は審査対象者に偏りがあり、

「入管庁が恣意的に配分しており、参与員の審査に独立性がないことが表れている」

(4)

とする。

国連の特別報告を無視する日本政府


 入管難民法改正案については、4月、国連人権理事会の特別報告者らが、

「国際人権基準を満たしていない」

として、抜本的な見直しを求める共同書簡を日本政府に送付している。ところが将来的な国連常任理事国への就任を狙う日本はなぜか?、非協力的だ。「一方的な公表に抗議する」と反発。これでは常任理事国になれるはずはない。

 書簡は、国連人権理事会の移民の人権に関する特別報告者、宗教と信条の自由に関する特別報告者、恣意的拘禁作業部会が出した(5)。

 書簡は、

「若干の修正はあるものの、旧改正法案と基本的に同じで、国際的な人権基準を下回っている」

(6)

と切り捨て、

「国際人権法の下での義務に沿うために、徹底した内容の見直しを」

(7)

と求めた。

 一方の日本政府は、

「特別報告者個人の資格で述べられたもので、国連や人権理事会としての見解ではない。またわが国への法的拘束力もない」(斎藤健法相)

と反論する。

 国連特別報告者の勧告や書簡に政府が反発するのは今回だけではない。過去の共謀罪や特定秘密保護法などについても批判されたが、政府は強気な態度を示す。

 しかし、明治学院大の阿部浩己教授(国際人権法)は、

 「特別報告者の勧告は、どの国も痛いところを突かれる。しかし、人権保障に前向きの国なら、問答無用と切り捨て、特別報告者をおとしめることはしない。制度に対する信頼が薄まり、国際人権保障体制を弱めるからだ。日本政府の振る舞いは未熟で幼稚だ」

(8)

と厳しく批判する。


(1)西日本新聞「改正入管法が成立」2023年6月10日付朝刊、1項

(2)西日本新聞、2023年6月10日

(3) 金春喜「“不法滞在の外国人”という言い回しは不正確。「在留資格がないことは犯罪ではない」一体どういうこと?【詳しく解説】」HUFFPOST、2023年6月14日、https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6489242ae4b06725aee3170d

(4)木原育子・大杉はるか「こちら特報部 難民審査に携わる「参与員」たちが怒った 「難民見つからない」発言利用する政府に 不可解な実態も暴露」東京新聞、2023年6月1日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/253697

(5) 岸本拓也・中沢佳子「国連特別報告者の指摘をまた無視するの? 「入管難民法改正案は国際人権基準を満たさず」に日本政府が反発」東京新聞、2023年4月25日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/246026

(6)岸本拓也・中沢佳子、2023年4月25日

(7)岸本拓也・中沢佳子、2023年4月25日

(8)岸本拓也・中沢佳子、2023年4月25日

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