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共同親権導入をめぐり、賛否 一方、ひとり親の貧困、深刻 家裁の体制に懸念も

  共同親権をめぐる動きについて、賛否が激しく対立している。
 
 共同親権への賛成意見としては、離婚後も子どもの意志と生き方を守りたいという声がある。また、共同親権が選択肢として提供されることで、多様な家庭の状況に対応した支援が行われるかどうか注目しているという意見も
 
 一方、反対意見としては、個々の家庭の事情を考えるとどちらともいえない、という意見が多い。

 また、離婚の理由が単に「性格の不一致」だけでは片づけられないことも多く、一概に「共同親権」が適切かどうか判断できない、と考える人も多いようだ。
 
 シングルマザーサポート団体全国協議会が実施したアンケートでは、ひとり親の約8割が共同親権に消極的な回答だった。
 
 
共同親権とは、父母が共同して子どもの親権を持つ制度。 日本では、父母の婚姻中は共同して親権を行使するが、離婚後の共同親権はこれまで認められていなかった。

 しかし、海外では離婚後の共同親権を認めている国が多く、日本でも導入が検討されている。
 
 3月14日、衆院本会議で共同親権の導入を柱とする民法の改正案について、趣旨説明と質疑が行われる。
 
 法案では、離婚後の「単独親権」のみを定める現行法を見直し、父母が協議していずれかを選択可能にする。今国会で成立すれば2026年までに新制度が始まる見通しだ。

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子どもの利益は守られる? 法案をめぐり激論も


 現行法では、父母のうち一方を親権者と定めなければ、離婚できない。

  1月30日に法制審議会が出した要綱案では、まず父母の協議により、離婚するかどうか決め、離婚に合意すれば、次に父母のうち一方の単独親権にするか、双方の共同親権にするかを話し合いにより決める。

  なお、家庭内暴力(DV)などで共同親権の合意を強制されないよう、離婚と親権の協議を切り離す。

 このことのより、親権の協議で折り合わなくても、離婚だけを成立させ、後から家庭裁判所が親権者だけを定めることも可能。

  このときに出された要綱案では、離婚後の共同親権が子どもの利益にかなうよう想定。離婚後の共同親権では、子ども人生を左右するような決定には父母の両方が関わることになるとみられる。

  一方、子ども入学手続きや緊急的な医療行為のような一定の期限までに親権の行使が不可欠であるときに、父母の意見が割れた場合、「子の利益のため急迫の事情がある」とみなし、単独で親権を行使できる仕組みもつくった(1)。

  他方、法案をめぐる法制審部会は2021年の春以降、離婚後の親権のあり方などについて、実に37回にわたり激論を繰り返した(2)。

ひとり親の貧困 深刻


 日本は、先進7カ国(G7)の中で、唯一離婚した後の共同親権を認めていない。離婚は主に話し合いや調停によって解決されるが、合意に至らない場合は裁判になる。

  この際、親権を得るのは8割以上の場合で母親。調停や裁判を通じた離婚では、この数字はさらに上がり、9割に達す。

  過去には、20世紀前半まで、ほとんどのケースで親権は父親に与えられ、離婚した妻は実家に戻ることが一般的だった。これは、19世紀まで続いた父系中心の家制度に基づくもの。

  第二次世界大戦後、母親が親権を持つことが多くなる単独親権制度が導入されたが、養育費の未払いが問題となっており、離婚して子どもを育てる女性の生活を困難になる。

  この40年間で日本の母子家庭は46%増えるも、うち養育費を常に受け取っている家庭はわずか28%で、養育費の総額は月平均5万485円。養育費は母子家庭の家計全体の16.2%を占める。

  こうしたこともあって、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でひとり親世帯の相対的貧困率が最も高い(3)。

家裁の体制、懸念


 共同親権の導入に関しては、家庭裁判所の対応能力についての懸念もある。

  政府が3月8日に衆議院に提出した改正案によると、離婚時には両親が協議を通じて共同親権か単独親権かを選べる。もし合意に至らない場合は、家庭裁判所がどちらかを決定。

  また、家庭内の暴力(DV)や虐待が「子どもの利益を害する」と判断された場合、家庭裁判所が単独親権を適用すると明記。

  しかし、現在のところ家庭裁判所が暴力や虐待の事実を正確に認定できるかどうかは明らかではない。DVや虐待の被害はしばしば「密室」の場で発生し、関係者が適切な証拠を提出するのが難しいケースも少なくない。

  そして法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会でも「調停委員や調査官は複数の案件を抱えており、丁寧なアセスメント(評価)とは程遠いのが実情だ」といった意見が相次ぐ(4)。

  共同親権の導入により家裁が取り扱う案件は増加する見通しであり、立憲民主党幹部は「家裁の業務がパンクするのではないか」と指摘。自民党関係者も「『家裁が大丈夫なのか』という懸念は全員が共有している」と認め、家裁の体制拡充の必要性を訴える(5)。


(1) 飯田憲「両親の養育責任 離婚後も」毎日新聞、2024年1月31日、3項

(2)大野暢子「子どもの利益 議論不十分」東京新聞、2024年1月31日付朝刊

(3) 片沼麻里加「親の離婚で子どもが板挟みに-共同親権導入に賛否の声」Bloomberg、2023年1月25日、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-01-24/RP0A8TT0AFB401

(4)時事ニュースドットコム「共同親権、DV防止が焦点 家裁の体制懸念、拡充求める声」2024年3月11日、https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031000239

(5)時事ニュースドットコム、2024年3月11日

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