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ゲーマー歴35年のダンジョン紀行#06『D&Dのランダム作成から学ぶ』

▼ローディング。前回崩した本の山の隙間から。


 ゲームの秋、真っ盛り。
 コロナ禍久しく、屋内で遊ぶアナログゲームに需要が見込まれて久しいです。コアな楽しみに足を突っ込み始めた方々に、是非お届けしたいのが当『アナログゲームマガジン』です。来月11/20,21にはゲームマーケットも間近に迫り、アナログゲーム界隈も非常に賑やかな時期になってきました。
 当マガジンはそういったアナログゲームを掘り下げていく執筆陣が集まり、一ジャンルを詳しく解説する記事から、攻略記事、ルールの記事、はては第一線でアナログゲームを制作している方々の最新記事まで、多角的にゲームを語っております。
 そしてこの
記事は『ダンジョン』を焦点にコラムを書かせてもらっております。マガジンの中でも異色のコラムとして、楽しんでもらえたら幸いです。

 さて、前回の#05では、国産TRPGのダンジョンを掘り下げました。それから一ヶ月の間に、ダンジョンの祖『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下D&D)で、大きな動きがありました。
 1つ目は、イベント「D&D Celebration 2021」(2021.9/24-26)で、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)の新版が発表されたこと。
 2つ
目は、『アイスウィンド・デイル:凍てつく乙女の詩』『TASHA'S CAULDRON OF EVERYTHING』、日本語版を含め、2021年の新商品は、諸事情により発売取り止めとなったことです。
 (実際の本文は以下をご覧ください)

 事情通ではないので、この伺った事実二点だけをお伝えするに留まります――ネガティブな雰囲気つきまとうニュースから始めてしまいましたが、つまり、ダンジョンの祖としてその発祥を取り上げたD&Dは、いまなお最先端を進むTRPGと言うことです。

そしてまた、D&Dの実際の内容については触れずにおりました。それと言うのも、全世界で遊ばれ多くの識者がいる中、何を取り上げるかが難しい所だったためです。
 ――そう、前回までは。
 前回で何を語らせてもらったか。迷宮キングダム』の"ランダム表"を取り上げさせてもらいました。それが『D&D』にもあるのです。しかも、ダンジョンを作る為に特化したランダム表が……!
 今回はこのランダム表を使い、実際にダンジョンを作ることで見えてくる視点に、大きく迫っていきたいと思います。

※D&D第5版 ダンジョン・マスターズ・ガイド日本語版より

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▼B19F:D&Dランダム表の描くダンジョン。

 現行D&D5版のダンジョン・マスターズガイドには、付録Aとして290pから12pに渡ってランダム・ダンジョンの作成表が記載されております。まずはこちらの要素を一覧にまとめました。

290p-291p
・開始エリア
 開始エリア形状 10種※表内の項目数
・通路
 通路 11種
 通路の幅 8種
 通路の向こう側 8種 
・扉 
 扉の種類 10種
 扉の向こう側 5種
・部屋
 部屋 12種
 部屋の出口の数 10種
 出口の位置 4種
 出口の種類 2種
・階段 
 階段 14種
292p-293p
エリア同士を繋ぐ
・部屋の用途
 ダンジョン:死の罠 6種
 ダンジョン:住処 18種
 ダンジョン:迷路 9種
 ダンジョン:鉱山 12種
 ダンジョン:次元界の門 27種
294p-295p
 ダンジョン:城塞 29種
 ダンジョン:寺院またはほこら 28種
 ダンジョン:墓所 12種
 ダンジョン:宝物庫 12種
 一般的なダンジョンの部屋 59種
・部屋の現況
 部屋の現況 9種
296p-297p
・部屋の中身
 ダンジョンの部屋の中身 14種
・モンスターの目的
 モンスターの目的 8種
・ランダムダンジョンの危険要因
 ダンジョンの危険要因 6種
・ランダムな障害物
 障害物 12種
・ランダムな罠
 罠の作動条件 6種
 罠のダメージの深刻さ 3種
 罠の効果 31種
298p-299p
 しかけのついた物体 20種
 しかけ 32種
・ランダムな財宝
 →第七章財宝の表とガイドライン
・空き部屋
 →記述のみ
・ダンジョンの飾りつけ
 物音 55種
 空気 10種
 におい 14種
 一般的な目につくもの 52種
 一般的な家具や備品 88種
300p-301p
 宗教的な物品や調度品 40種
 魔法使いの調度品 60種
 日用雑貨と個人的な持ち物 77種
 容器の中身 27種
 本、巻物、書物 50種

 ……潤沢!
 12pとは思えぬこの情報量。
 列挙させてもらいましたが、全貌を把握できた方はいらっしゃるでしょうか? もし把握できたら、すでにダンジョンマスターの方かと思います。お間違いないでしょうか。
 まとめさせて頂くと、大きく分類して3+1の四段階でランダムダンジョンができるように表が用意されていました。

 まず、構造物としての『開始エリア~通路~扉~部屋~階段』、空間を構成する5項目を作ります。

 続いて、ダンジョンの中身として『部屋の用途~部屋の現況~部屋の中身』という部屋にまつわる3項目を作ります。

 そして、障害にまつわる項目として『モンスターの目的~ランダムなダンジョンの危険要因~ランダムな障害物~ランダムな罠~ランダムな仕掛け』と5項目が詳細に続きます。

 最後は『ランダムな財宝』を決めるとありますが、この項目は298p右段1行目に”君のダンジョンの各エリアに配置する財宝を決める際には、第7章『財宝』の表とガイドラインを使うこと。”と記述があるだけで、ランダム表はそこに用意されていません。

 この四段階をもとに、実際にランダム表でできあがるダンジョンを見ながら、ダンジョンの構造について見ていきたいと思います。

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▼B20F:広さと形で自然に見えてくる構造物の役割。

 それでは実際に、ランダム表を使ってダンジョンを作ったところです。実際には、三個のダンジョンを作っていきました。各要素毎に、それぞれのダンジョンを作っていて気付いた点をまとめています。
 それでは『開始エリア~通路~扉~部屋~階段』と、実際にキャラクターたちが移動のできる広さ、形を作っていくところのまとめです。

 一個目に作ったランダム表のダンジョンは、開始エリアは小さな部屋でした。ですが、正面の扉を開くと部屋よりも大きな幅の通路がまっすぐ伸びていきました。そしてそこには柱が左右に並びました。
 そのような場所を思い描いたとき、「おや『礼拝堂』に出たようだ。ここは教会か何かの跡地なのかな?」と想像が膨らんだのです。
最初一回ランダム表を使っただけで、思いもよらない想像力を働かされることとなりました。

 続いて二個目に作ったダンジョンは、はじめは十字路から始まり、その後細い道がうねうねと続く、道ばかりのダンジョンでした。扉もほとんど現れることがく、「ここは迷いの森か何か、或いは入り組んだ市街地の路地裏か……?」と頭を悩ませました。

 三個目のダンジョンは慣れたものとサイコロを振りましたが、複雑に道が入り組み、ランダム表特有の通路や部屋がかち合う不整合が起きはじめます。さらにはどこまで振ってもなかなか途切れるめどが立たず途方に暮れました。

そこでこの付録A:ランダム・ダンジョンの序文を思い出します。290p左段6行目から”本項の指示に従っていった結果、1枚の方眼紙に収まらないような巨大ダンジョンが出来上がる可能性もある。(中略)方眼紙に収まる大きさに縮めてしまえばよい”とあったのです。つまりランダム表は、あくまで想像の一助であって、作り手が望むように任意に改変をしようと言う記述です。
 その言葉に甘えさせてもらい、途中でランダム表通りに作るのを諦めました。その結果、幾重もの部屋と通路、扉が生まれ、階層も4階層。さらに最上階は円形の一部屋だけが待つダンジョン――まさしくラストダンジョンのような構造物ができました。これは、魔王城……!

 この項目をやり遂げるだけでも、アッと言う間にダンジョンらしい物が眼前に現れていることが伺えるのではないでしょうか。
 上記の通り、実際に建物の広さや形を提示されると、私たちは日常の生活で利用している様々なサービスに対して、シチュエーションが浮かぶようです。
 例えば”デパート”と言われれば、数階立ての構造物で、中央付近にはエスカレーターが配置されている。あわよくばそこは吹き抜けです。左右中央壁沿いにはトイレが配置されていることも多いでしょう。またエレベーターがどこか一箇所に数機陳列している……など。或いは”コンビニ”と言われれば、窓際には本が並び、飲み物や冷凍食品が奥の壁に配置され、レジ脇におにぎりやお弁当の冷蔵棚が並ぶ……など。
 それらとまったく同様に、上記のランダム表はその部屋の大きさ、通路、階段や扉の配置がなされることで、『それが一体どんな構造物なのか』を示す下地ができあがるものでした。

 逆に言えば、そうでないダンジョンは私たちの身体感覚から離れており、ファンタジーの世界へと誘う装置としての役目を果たすとも考えました。一方で、少しでも身体感覚にそぐう構造だと、人間の営みを肌で感じるような装置になる訳です。

 次のページに行くと、最後に『エリア同士をつなぐ』と言う項目があり、292p左段1行目からこう説明が書かれていました。
 "ダンジョンのマップが出来上がったら、隣り合っているが繋がっていない部屋や通路の間に扉を付け足すことを考えてみよう。扉を増やせばダンジョン内の通り道が増え、プレイヤー達の選択肢が増える。"と、このように選択肢を増やすことを肯定的に書かれているようです。ダンジョン紀行読者様には言うまでもないですが、やはりプレイヤーの選択肢が増えると言うことは、ダンジョンに置いて欠かすことのできないエッセンスと言えそうです。

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