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買うしかなかったアサヒカメラ

アサヒカメラが休刊した。

ご存知の方は多いと思うが、90年以上も発行されてきた老舗カメラ雑誌で、誰が言ったか「写真界の芥川賞」とも呼ばれることもある木村伊兵衛写真賞を発表する媒体でもあった。

写真に興味があった私にとっても、定番の参考書のようなものだった。本誌の月例コンテストに応募して入賞したこともあったが、その結果が1位でなかったことに失望し、「見る目ないな、オッサン雑誌め」などといきがって、その後あまり読まなくなった。

アサヒカメラの休刊を知り、とても寂しくなったことは間違いない。と同時に「いよいよか」という感覚もあった。気づけば、青春はずいぶん前のことだった。

自分自身もアサヒカメラを見なくなって久しかったここ数年。とはいえ仕事上では毎日のように顔を合わせていた。

本や雑誌を扱うことが多い自分にとっては、カメラ・写真関連コーナーでは外せない存在だったアサヒカメラは、永遠に店じまいすることのない商店のようなものだった。いつもは行かないが、風景として当たり前に存在するというか。

以前、職場での雑誌購読について聞かれたことがあった。予算が減り、雑誌の講読を縮小する検討時のこと。

「写真・カメラ誌の『アサヒカメラ』と『日本カメラ』、来期の購読はどちらか一誌に絞ろうと思う。そもそもこの二誌、違いは何なのでしょう?」

何を言うかね、と思ったものの、よく考えると言葉に詰まる。

「アサヒカメラは木村伊兵衛写真賞も発表するし、まだ広い層をターゲットにした内容も多い。日本カメラは、写真というよりカメラ雑誌っぽくて年齢層高めです。残すならアサヒカメラがいいと思います」

答えてはみたものの、自分の中でもやもやした。愛読していた頃から10年以上も経っていて、今はたまにしか覗かない程度なのだから。

それでも、毎日のように見かける背表紙には、今も私の心を射抜くような名前が連なっている。森山大道、荒木経惟、石内都…。年代で括ろうとしても括れない、ずっと活躍されている写真家たち。その影響を受けた世代の写真家たち、そしてさらにその世代の写真家から影響を受けた若手写真家たち…。「この号はモノクロ写真特集、この号はヌード特集、まだルーティーンが残ってるんだな」などと思ったりもして。

アサヒカメラの最終号を改めて読んでみた。

誌面は思っていたよりあの頃と変わらない。個人的に青春を思い出し、感傷に浸りそうになる。ただ何かが違う。質感?いや紙も変わっていない。もっとこう、堂々としていたような…。もう一度手に持ってみて気づいた。

とても薄い。広告の量が、あの頃とまったく違う。

休刊の理由は様々だとは思う。本も雑誌も売り上げは年々減少している。活字離れ…。聞き飽きるほど聞く、出版業界のネガティブな現状。それはわかる。しかし、それを承知の上でも、自分は何もできなくて、何もしてこなかったことに、今更ながら気づかされた。もう、最終号を買うしかなかった。

月例コンテストに入賞し掲載された号は、今でも家の本棚に並んでいる。入賞通知の葉書を挟んで。賞金の8000円は、すぐフィルム現像代に使ったはずだ。

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