今月も生理が来た-250円以下の私-
私は、基本的にポンコツだ。コンビニで買ったおにぎりをポケットに入れたまま洗濯したり、3万円の入った封筒を落としてしまったり、ドアの鍵を開けようとしてSuicaを当てていたりする。
夫には「最高の面倒くさがり」と評価されている。畳んだ洗濯物をクローゼットに仕舞う様子を全く見せない私を見かねて、「ベッドの上に畳んだ洗濯物を置けば、さすがに邪魔だし、仕舞うだろう」と思ったところ、畳んだ洗濯物の上で寝始めるくらいには面倒くさがりである。
しかし、良いところもある「明るい」。
そんな、基本的にポンコツな私が、10倍くらいポンコツになり、その上、明るくいられなくなる日が月に1回くる。
生理だ。今月もやってきた。
朝、セブンイレブンで買った、ちょっとお高めのおいしい冷凍ピザを食べるために、解凍し、オーブンレンジを予熱し、焼き上げた。
熱くなったオーブンレンジからピザを取り出す、この段階で、すでに3回ほどヤケドした経験があるので、気をつける。
ここまではよかった。
熱々のピザを4等分にカットする。
まずは縦に。次にお皿の向きをクルッと変えて、また縦に。
その時だった。何が起こったのかわからなかった。私の右太ももの内側と、左足あたりに痛みを伴う熱を感じた。
「あっ!!!」
目の前のカットしていたはずのピザは上半分、半月の形になっている。
飛び散ったチーズが、太ももとハーフパンツの裾についている。
落ちた半月型のピザがひっくり返って、私の左足の上にある。
「モウ、イヤダーーーー!!!!」熱々のピザを足に装備した私は叫んだ。
ただならぬ雰囲気を感じた在宅勤務夫が「どうしたの?」と声をかけてきた。
返事をしている余裕はない。
私の頭の中は忙しい。飛び散ったチーズとピザを片付ける。ヤケドしたかも、なんて思っていたら、頭の中の私が話しかけてくる。
『あーあ、無駄にしちゃったね。あんたは昔からそう。母親にも『抜けてる、抜けてる』って言われてきたじゃない。何にもできないダメなやつだね。朝ご飯抜きだよ。失敗したんだからさ。仕方ないよね?失敗したんだよ、あんたは。不良品だよ。そのぐちゃぐちゃになったピザがお似合いだよ。死んじゃえば?』
うるさいうるさい、頭の中の私
「私は朝ごはん食べないから食べな!失敗しちゃったから!」と、夫に言い放つ。
左足の指が痛い。やっぱりヤケドしたかも。水かけなきゃ。
『ほら、あんたが騒いでも夫は助けてくれないじゃない。大事にされてないんだよ。どうせあんたなんか、そんな価値もないんだよ。朝からピザ落としてヤケドする嫁なんか要らないだろうよ。あんたと結婚するなんて、なんて可哀想な夫』
うるさい、うるさい
ダイニングに戻ると、パソコンと睨めっこを終え、「うーん、ひと段落」と言いながら、伸びをした夫が「食べよ」と話しかけてくる。
我にかえる。
「食べよって言ってるんだから食べよう」
『そりゃ、集中する必要のある仕事してるときに、夫は私を構ってる場合じゃないだろう。私だって、数字の確認してる時とか、話しかけられても応えられない時あるし。たぶん、ちゃんと助けを呼んだら駆けつけてくれたと思うな』
さて、私は、自分に心理療法をかけることができる。
そのスキルを身につけてから、ひどい精神状態に陥ることはなくなった。
生理1日目以外は。
生理が来るたびに、元彼に言われた「毎月来るんだから、なんらかの対処法を取る必要がある」を思い出す。毎月同じことが繰り返されるのに、何の対処もできない私がいけないと思い込んでいた。
だから、夫が「俺にはわからないけど、血が出るのは痛いと思う。痛いのは嫌だ。休め」と言われたのに、目がテンになった。
確かに、毎回、痛い。痛みには鎮痛剤で対処しているが、ポンコツがひどくなるという点には薬がない。
ポンコツにならないように気をつけるのではなく、ポンコツになってる自分を受け入れ、気持ちを切り替える、くらいが、生理による気分の変化は乗り越えるにはちょうど良い。
しかし、どんな手を使っても、気持ちを切り替えられないほど、生理1日目は威力がすごい。
めちゃくちゃ落ち込む私を見かねて、夫は散歩に連れ出した。
生理1日目で、朝からピザの半分無駄にするイベントを発生させた私は、なかなか話したい気持ちがわいてこない。お腹も痛い気がするし、「後ろから自転車きてるから気をつけてね」なんて夫に言われてから、『そうか、私、周りの状況も見えていないのか、余裕ないな』と気づいてみたりしている。
「ねぇ、私、今日、生きてるように見えてると思うけど、死んでるから」と夫に言った。
「屍に見えるけど、生きてる、じゃない?」と返してきた。
「あそこにハナミズキ咲いてる」とか夫が言ってる声が聞こえてたけど、『500円のピザの半分を無駄にしてしまったことで、『死ななきゃ』と思った私の値段は250円以下だった。ちょっと安すぎやしないかね?』と冷静に考え直したりしていた。
「私、今日やることは、血と二酸化炭素を排出することだから」
「それがいいね」夫は言った。
ご興味を持っていただきまして,ありがとうございます。 実はまだ学生です。もし,よろしければ,サポートいただけますと嬉しいです。ちょっと美味しいものを食べたいです。