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コロナ禍下の出会い(短歌人 2022年2月号 三角点)

 きっかけは新聞歌壇だった。突然、夫が「投稿してみたら?」と言って差し出したのが「日経歌壇」。短歌を作ったことはなかったが、見様見真似で投稿を始め、数ヶ月後に初めて掲載された。

 前職はスーパーだった同僚の電卓の裏に手書きで「鮮魚」
  「日経歌壇」2021年1月16日 穂村弘選

 私が短歌と出会った時期は、たまたまコロナ禍の真っ只中であったが、結果的に幸運だったと思う。地方在住かつ幼い子どもを持つ自分にとって、郵便やメールなどでも参加しやすい短歌というジャンルはありがたい。
 新聞のほかにも、短歌総合誌の投稿欄や「NHK短歌」などにも歌を送った。だが、投稿だけを続けていると、壁にボールを投げているような徒労感があり、もう少し腰を据えて歌を学べる場所を探し始めた。
 結社というものについて、当初は「何だか怖そう」と敬遠していたが、次第に入会を考えるようになった。どんな歌を詠みたいか。頭に浮かんだのは、初めて買った総合誌で出会った作品だった。

 五十一年ぶりにすがたをあらはせる革共同清水丈夫八十三歳
  小池光 「歌壇」2020年12月号「天道虫」より

 短歌を始めたばかりの私は、「こんな歌があるのか」とものすごい衝撃を受けた。その後、様々な作風の歌人を知り、好きな歌も増えつつあるが、それでもこの一連による衝撃は特別だった。
 改めてご所属を調べると「短歌人」とある。結社の理念に共感し、見本誌をいただき、さりげなく親切な雰囲気を感じ、そのまま入会させていただいた。
 思えば、学生時代に文筆業を志して挫折し、文化を足元から支えるべく図書館司書の職に就き、結婚を機に退職、今は商家の嫁として生きる私のもとに、短歌という形で創作活動が戻ってきてくれたのだった。
 あいにく、まだ短歌人会のどなたにもリアルにお会いできていない。いつか歌会などでお目にかかれることを楽しみにしております。

(「短歌人」2022年2月号 三角点 掲載)


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