伊藤まり

2020年に短歌をはじめました。2021年「短歌人」入会。あかるくたのしく歌をつくりた…

伊藤まり

2020年に短歌をはじめました。2021年「短歌人」入会。あかるくたのしく歌をつくりたいです。

最近の記事

短歌人 月例作品 2024年5月号

来年のために手帳に書いておく鼻のカメラは右の穴から 春を呼ぶミモザと秋に嫌われるセイタカアワダチソウは似ている 唐突に春が来ていてとりあえず圧力鍋にポトフをつくる 手際よくザラメを入れてスイッチを押せばたちまち甘い綿雲 春が来るたびに脱皮をくりかえしふくらんでいく未来の大人 おもむろにあなたの声が響きだすチェロの独奏曲の重さで

    • 短歌人 月例作品 2024年4月号

      もう膝におさまりきらない五歳児は大型犬のように甘える 国籍で差別するのはあれだけどブラジル産の鶏が苦手だ かっちりと縦列駐車が決まるときここまで走った十年思う ひんやりと眠るハンドルあたためて鋭く鳴らす冬のエンジン なごやかに楽しき法事の人去りて片づけるときに清き静寂 わたしたちスノードームのまんなかの二体の人形として寄り添う

      • 短歌人 月例作品 2024年3月号

        冬至の日の午後はほんわりあかるくてもらった柚子を配ってまわる 西日さす冬の三時はいまは亡き人らに会える魔法の時間 天上の高柳先生にひとたばの野百合のような歌を届ける トラックを洗うしぶきもまぶしくて仕事納めのひとのあかるさ だしぬけに原稿用紙を丸めれば大文豪になった心地す 東海道新幹線で富士山が大きく見えるあたりにいます

        • 短歌人 月例作品 2024年2月号

          しゅうまいに添えるからしのようなこと守り抜くためわたしは生きる 冬空に溶けてなくなる富士の青うつくしすぎる時限爆弾 ブロッコリーのような街路樹われわれは神の弁当箱のごましお 屈折の総体として虹がありすべてのことは程度問題 やわらかな小春日和につつまれてどこにもいない父に会いたい 三人の医師が集まり引っぱって上から押して産まれたわが子 「短歌人」2024年2月号 月例作品 伊藤まり

        短歌人 月例作品 2024年5月号

          短歌人 月例作品 2024年1月号

          全員が正気であると仮定して逢魔が時の渋滞進む 革巻きのステアリングに身を慣らす馬具を手にした騎士の心地で 卓上に直方体の水があり金魚四匹めらめらと舞う 見ていたら小一時間がたっていた琉金の尾のひれのひらひら 指先にいつもHOPEをはさんでた父の書斎にのこる灰皿 LEDのあかりはすこし疲れるな わたしの無駄が照らされるから 「短歌人」2024年1月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2024年1月号

          東京のうた一首鑑賞◆東京にいるというよりサブスクで日々をレンタルしている気分/ショージサキ

           東京にいるというよりサブスクで日々をレンタルしている気分   ショージサキ 「短歌研究」2022年7月号  地方に住んでいてたまに東京の街に出ると、若い人(とりわけ若い女性)の多さに圧倒される。2022年短歌研究新人賞受賞作「Lighthouse」からの一首。一連を通じて、東京に暮らす主体のふわふわした浮遊感や性に関するゆらぎなどが感じられる。「無職だと地元で言えばクッキーの型にはめられ鬼のおやつに」という歌もあり、「地元」での息苦しさも伝わってくる。確かに、比較的保守

          東京のうた一首鑑賞◆東京にいるというよりサブスクで日々をレンタルしている気分/ショージサキ

          短歌人 月例作品 2023年12月号

          金色の稲の穂と穂が触れあってさわさわさわと秋が聴こえる 勲章の内示を受けて胸中に光らせたまま父は逝きたり 秋空にチョークで描いたリュウグウノツカイみたいに長い長い雲 いわし雲見上げるわれは水底のタカアシガニの視線を持てり 過ぎ去ってゆくものだけがうつくしい少し涼しい九月の朝に 「短歌人」2023年12月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2023年12月号

          短歌人 月例作品 2023年11月号

          新幹線は翼をもがれた飛行機で終わることなき高速滑走 七、八年会わない祖母が亡くなって造花の菊のようなかなしみ MADE IN USSRと刻印あり義父の遺したマトリョーシカに 霧ヶ峰 額をなでる涼風が我が家を美しき高原となす くろがねのMRIに吸い込まれ不協和音に叩かれまくる 「短歌人」2023年11月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2023年11月号

          短歌人 月例作品 2023年10月号

          羽化しきれなかった蟬に小蟻らは囲み取材のごとく群がる 漆黒のブローチのごとかがやける角を失いたるかぶとむし 七月盆と八月盆のまんなかで子らと見つける天使の梯子 錆びついた配管を身に巡らせて夕闇に啼く製紙工場 空の青と富士の蒼とをくらべては見とれるうちに夏は終わりぬ 「短歌人」2023年10月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2023年10月号

          短歌人 月例作品 2023年9月号

          口腔外科医はハズキルーペをかけ直すこれからわれの歯を砕くため らっきょうを剝いたら白い 友はなぜ弁護士資格を返上したか 墓石の汚れを流す要領でシンクの水栓レバーをすすぐ 枝豆に茗荷とねぎの冷やっこ机のうえに夏を並べる アガパンサスが恥ずかしそうに揺れている花火にはまだ早かったから 「短歌人」2023年9月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2023年9月号

          短歌人 月例作品 2023年8月号

          東京のビルは空より青冴えて中に行き交う人は見えざり ペチュニアの咲かない庭に夏が来て老母はひとり二階屋に住む 花瓶にて枯れゆく薔薇を見送って蘭の一輪ゆっくりひらく なみなみと初なつの水を引き入れて田は銀色の空を映せり カホンという楽器があって公園の芝生広場によく似合います 「短歌人」2023年8月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2023年8月号

          短歌人 月例作品 2023年7月号

          いっせいに躑躅は叫ぶこのまちの初夏はわれらが占拠したりと 二、三票欲しいと思う富士市議選十人落ちる激戦なれば とれたての素材を切って盛りつける料理と短歌はすこし似ている AIは見てきたような嘘をつき昭和前期の歌人のわたし 寺子屋の復元模型で永遠に学びつづける人形の子ら 「短歌人」2023年7月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2023年7月号

          短歌人 月例作品 2023年6月号

          律儀なる一本の消化管として胃カメラ室の前に待ちおり 街じゅうに白木蓮がため息をこぼして春のあかるい夕べ 一周忌過ぎればふっと思うこと少なくなりて父の声遠し 漢方は食前に飲む香り高い前菜として桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン) 心には涸れることなき泉ありいちばん好きな曲を聴くとき 「短歌人」2023年6月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2023年6月号

          短歌人 月例作品 2023年5月号

          労働者の燃料として消費され缶コーヒーの残骸たまる ヒヤシンスあたまばかりがおもたくて春の祝日どうしてねむい みっちりと花芽を見せる球根に会陰切開の痛みを思う ヒヤシンス風を信じる子と書けば昭和歌謡のようにせつない 春雲を肩にまとった富士山は二メートルほど首すじ伸ばす 「短歌人」2023年5月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2023年5月号

          短歌人 月例作品 2023年2月号

          新潟の荷物を包む新聞にアルビレックス昇格を知る 学童の入口わわわわ湧いてくる黄色い帽子が外へあふれる 花束のようにリボンをなびかせて音楽界におめかしの子ら ひんやりと肺胞を満たす森林浴わたしの中に葡萄が実る 九九ならば六の段こそうつくしい二でも三でも割り切れるから 「短歌人」2023年2月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2023年2月号

          短歌人 月例作品 2023年4月号

          一月のキンモクセイに張りついて風にふるえる蟬のぬけがら 世の中の不幸をひとつ防ぐためスプレー缶のガスを抜き切る おびただしい数のリベット根もとから東京タワーを見上げてみれば 四十年かけて音色は染み込んで市民ホールの壁の飴色 黙禱をささげるときに人はみな花瓶のユリのように傾く 「短歌人」2023年4月号 月例作品 伊藤まり

          短歌人 月例作品 2023年4月号