伊藤 六

いとう ろく/歌人

伊藤 六

いとう ろく/歌人

最近の記事

  • 固定された記事

おもいだして、きみだけの青を

 「なんだよ。誰も私のことなんか愛せやしないじゃん!」  石を蹴飛ばしたら車にぶち当たる。あれ?弁償じゃない?って気づくより前に本能で前へ前へと脚を回す。だいぶ遠くまで来た私の脚が小さな段差に空回り。なんだかレアなステーキの断面のような擦り傷を作ってよく知らない道を歩いた。こないだ合鍵を渡されたばかりなのにな。どの傷もこころの傷の痛みに敵うものはなくて、後悔を色濃く思い、何度も反復する。  「きみが何を考えてるかよくわからない」  「そっか」  脳内をリフレインする最

    • 2日目のカレーとか

      私が恐れていることは自分らしさを失うことだ。  冷蔵庫に1週間分の食材を買って入れておく とか 1ヶ月の中の全ての休日に予定を入れる みたいなことを想像するだけで心がシュレッダーされてハラハラと床に溢れるような気分になる。偶発的な素晴らしいものやことの機会を逃してしまう気がする。難しいことじゃなくて、「今はあれをしたいな」の気持ちを尊重したいという私のスタンスの表れがある。偏屈のように聞こえるが実際偏屈であり、笑っていいところなのかもしれない。買い物が少ないけど毎日料理する

      • 20の自己自己啓発

         2023年はもう来た。はっきり言って「おすすめの自己啓発本はなに?」と意識高そうなオールバックのお兄さんに尋ねている場合ではない。  本に頼って自分を啓発している場合ではない。自分で自分を啓発する時代がやってきたのだ。 それが自己による自己啓発である。  これまで生きてきて、これはやったほうがいいだろ/やらないほうがいいだろ を20書き出すことにした。是非読んで君も作ってみよう。楽しいよ 伊藤の20の自己啓発 1、冷水で顔を洗え   さっぱりする 2、ストレッチ

        • 甲虫になるときは

           なんとなく入った部活動は蒸し風呂のような体育館で狂ったように壊れかけの大量のプラスチックの羽根を打つ、奇妙なものだった。 「ぜえぜえ」  外でのランニングはいい。ゆっくり走って木陰で存分に寝転んで最後の曲がり角からぜえぜえすればいいんだ。そもそも高校からいきなり未知のスポーツをするってのは一体全体どうしたことなんだ。それもそう、田舎にはそんなハイカラな部活動はなかったからだ。ロベカルのフリーキック集だけ見てウイイレして壁にシュートしていればよかった。スポーツ雑誌に載って

        • 固定された記事

        おもいだして、きみだけの青を

          退屈は怖いですか?

          私の作文、なんでみんなの前で読ませてくれないんだろう はっきりと覚えている。 小学5年生の時、冬休みのことを書いた作文だった。 「上手く書けている人に読んでもらいましょう。では○○さん」 旅行したとかこんなイベントに行ったとか大会とかそんな作文を何人かが読んだ。でも待てど暮らせど私の名前は呼ばれず、結局最後の一人が作文を読み上げた。 その子の作文はめちゃくちゃに面白かったのだった。絶望した。 運動神経のいいショートカットの女の子は、被っていた布団を兄に剥がされるとか

          退屈は怖いですか?

          拝啓、マフラー様

          冬が寒くってほんとによかったってBUMPは私が小学生の頃かそれ以前から歌っている そんなわけねえだろ(笑)ってともだちと笑うようなそんな冬を過ごしに過ごして生きてきた 冬は何が好きですか 冬は鍋に美味しくなる魔法がかかるからいいですね 肉まんがコンビニで買えるからいいですね 寒いとシャキッと目が覚めていいですね でもそんなの全部吹き飛んで、自分の車に積もった雪とか凍ったフロントガラスとかそれをどかすためにブーツに入った雪とか、雪にはずっとうんざりしている やっぱ

          拝啓、マフラー様

          美味しい氷柱が採れる場所を私はもう知らない その代わり私が大人になったことを知った

          美味しい氷柱が採れる場所を私はもう知らない その代わり私が大人になったことを知った

          ジーマはわたあめの味がする

          「お酒はダメだけどジーマは好き  わたあめの味だから」 声のかっこいいお姉さんはこう言っていた ふーーーんわたあめねえと思ってすぐ真似して呑んだ お姉さんの言ってることがわかる気がした お姉さんと書いているが実際ただ歳上なだけであって破天荒な女性と表記したほうが正しいだろう 服に着られることのなさそうな洒落た人だった よく笑って方言も粗暴な響きで使うけどあたたかくて芯のある人だった その芯があだとなったのか私の友人と馬が合わずなんとなく疎遠になり、ついに私も遊

          ジーマはわたあめの味がする

          訳せる日までググるかよ

          「短歌が好きで、古文も勉強始めたんですよ!」 そんな私の話を聴いてくれていたのは繁忙期の2ヶ月だけ勤めに来てくれた上品な4,50代の女性だった 結婚やら介護を機に辞めたけど、仕事がバリバリできるため急遽呼び出されたようだ 身体が細く、長い丈のカーディガンを着こなし、いつも笑顔であり、緑のフチの眼鏡がよく似合う でももうあっという間に2ヶ月経ってしまって、あーあ!さびしー!なにかあげよう!と思ったので緑のしおりをあげました 昼休みはお互い本を読んでいて、本の話をよくし

          訳せる日までググるかよ

          時間どろぼうした話

          「ミヒャエル・エンデって人のモモっていう本、検索したら在庫あったんですけど見当たらなくて…」 「検索いたします」 ミハャア 「ミヒャ はひふへほのヒにちっちゃいヤです」 「ひゃ でございますね」 ミハャア ミヒャエルエンデー もも 「岩波少年文庫です」 ミヒャエルエンデー もも イワナミ少年 401-0 「確認致しますので少々お待ちください」 右に風が吹いているような短髪なのに短髪とも言えぬ清潔感のお兄さんは慌ててメモを持って番号の棚へ行く しばらくして、

          時間どろぼうした話

          黒染めパンダはいない

          「色んな愛の形があってもいいと思いますよ」 誰に許されるためにレズビアンだと言ってるわけではない 彼氏さんどんな人ですか?と聞かれて本当のことを答えた この人は天高くから私に許しを与えてくださった ありがとうございます。お気遣い非常に助かります。 偏見があるかないか、同性愛の話題が嫌じゃないかどうか、勝手に語り始める人々の話を私は何度聞けばいいんだろうか 生きていていいんでしょうかの問いから始まるリズムに合わせて心にも毛布をかけたら夜の引き潮に連れられ深海で夢も見

          黒染めパンダはいない

          焦げ茶に模倣

          今年の夏頃からTikTokをよく見るようになった こうして紅葉を拾う時期が来てもいまだにハマっている 使い方がわかんないまま見てた頃からこの人すごい楽しい人だなと思って見てた投稿者がいて、 でもどうやら人気の投稿者の芸風を真似てるらしく、よくコメント欄にパクリのくせにとか書かれて、本当かなと思って見にいった 本当だった 喋り方と動画の撮り方が似てた 韓国のアイドルに似てるとも言われてた、たしかに笑った顔が似てた それでも誰かの模倣のようには思えなくて、彼自身のオリ

          焦げ茶に模倣

          しいたけ占いのような

          しいたけ占いを知っていますか? 優しいしいたけが優しいことをいつも言ってくれる占いです 私はデートをドタキャンされた時、カレーを作って待ってたのに家に来てくれなかった時、いつかすべてが噛み合う日が来ると信じてしいたけ占いを読みました なのでしいたけ占いを見て祈りたくなった時はその物事から少し離れてみようといまは思います でも確かにしいたけ占いに助けられて苦しい日々を乗り越えていた私が存在していたんだよな〜 どんなことでも、諦められない時期ってのがあるみたいで これ

          しいたけ占いのような

          あなたがどんな姿になっても

          なんだか好きなサイズで好きなようにつくったなあって最近お気に入りの詩集を眺めていた。 このへんてこなサイズ、合う透明なブックカバーがない。 表紙にもよくこだわっている。カーテンが印刷されたブックカバーは透ける良い紙で、だいたいの人はわざわざ見ないであろう本体の表紙に描かれている部屋の風景を彩っている。 そう。良い紙なのだ。水がつくとぶよぶよになって台無しになる。 すでに水をこぼして1箇所少しぶよっとしている。なのでこの大事な本にどうしてもブックカバーがしたい。 もう

          あなたがどんな姿になっても

          日課に支配されたくないからって日課を減らした分の自由時間に無という日課が加わってしまう 日課はきっともっとたいそうなものでなくてもいいんだね 生活が良くなるならば

          日課に支配されたくないからって日課を減らした分の自由時間に無という日課が加わってしまう 日課はきっともっとたいそうなものでなくてもいいんだね 生活が良くなるならば

          150億年前から決まってた私のエール

          宗教は面白い どのような宗教においても誰かの心の支えになっているからだ それは外せないPKのシュートの前、失敗できないプレゼンの前、妻の出産を廊下で待つとき、急行に乗っているのに腹痛に襲われたとき、あるいは大学入試の合格発表前などに顔を出す 私は藁にでも縋り、神サマ仏サマ数多の神々に祈りを捧げる瞬間がある 実際私は仏教徒である らしい だけどもどんな考えなのか知らない お寺も神社も一緒くたにして楽しく観光するけど、美しい教会のある土地ならばそこに足を踏み入れる

          150億年前から決まってた私のエール