見出し画像

推しから離れていく気持ち

 YOASOBI『アイドル』を聴いていたら、自分にとってのアイドルについて考え込んでしまった。

 私が某有名アイドルグループと、特にそのメンバーのAくんに夢中だったのは2009年頃からだった。突然彼が気になり始め、熱病にかかったように出演番組を録画し雑誌やCDを買いあさり、過去のライブDVDを買い集めて何度も見続け、主演ドラマにハラハラドキドキし、紅白の司会が決まった時は心配しすぎて気もそぞろだった。約10年間、彼らとAくんは完璧な私のアイドル様で、大好きな気持ちで胸がいっぱいだった。

 今現在、当時の熱は完全に冷めている。
 嫌いになったわけではないし、好感は持っているけど積極的なファンではなくなった。さらに言えば、かなり関心が薄れた。理由は大多数の私と同じような人たちなら、何となくわかってくれるはずだ。彼らは活動休止し、Aくんは結婚した。

推し(おし)とは、主にアイドルや俳優について用いられる日本語の俗語であり、人に薦めたいと思うほどに好感を持っている人物のことをいう。
https://ja.m.wikipedia.org › wiki
推し - Wikipedia

 ついにファンクラブには入らなかったし、コンサートのチケット争奪戦も参加しなかった。メンバーカラーも意識せず、聖地巡礼もしなかった。私はあくまでも自宅でテレビ・雑誌・音楽を楽しむ密やかな推し方を好んだ。DVD・CDが出る度に通常盤と初回限定盤の両方を当たり前のように買っていたのだから、自分なりに彼らを応援したと言える。

 Aくんと彼らを推さなくなっても、いまだに感謝しているのは「信じさせてくれた」という事だ。言い方は悪いけど「別れ方がうまかった」とも感じている。本当のことはわからないし知りたくもないけれど、記者会見を開いて2年後の活動休止を発表するなんて「誠実」で「劇的」だ。突然さよならを告げられるより、理由を説明されて期限を決めてその日までは変わらないよ、と言われる方がファンは救われるに決まってる。少なくとも私は2年後には心の整理ができた。が、その反面であるいはAくんへの関心も失っていったのだと思う。 
 
 冷めたとはいえ、不思議な気持ちだ。メンバーのSくんは会見時のコメントとして自分たちのことを「宝箱に閉じ込めたい」と伝えてくれたが、言い得て妙である。その表現そのままに、私は彼らを楽しく愉快なキラキラアイドルグループとして胸にしまい込んだ。完璧な推しを約2年かけて心にしまい、ふたを閉じた。  

 その後のAくんの結婚でさえ、小粋なサプライズ演出によって私のショックは最小限に抑えられた。彼の結婚は同じグループのSくんの結婚と同時発表されたのだ。その手があったか!

 ・・・寂しいけど、おめでとう・・・
 お幸せに。今までありがとう、さよなら・・・

 自分でも驚くほど冷静だった。アイドルとしての彼らは安全に宝箱にしまわれているのだから。
 それぞれ個性的だとか仲良しで結束力が強くてダンスが演技が笑顔がとか、彼らについてはいくらでも褒め言葉が出てくるけど、何かそれだけじゃない。推してる私たちに応えてくれたこと、その上で活動休止したからこその「ちょっとズルいよ」ってくらいに情を感じさせる何かが、私の心をつかんで彼らを完璧だと思わせたんだろう。
 
 嘘でも演出でもかまわない。本当に信じて愛して幸せだったのだから、時間もお金も無駄だったとは思わない。ファン卒業、というのはちょっと違うし、遠くに行ってしまったとも感じない。
 
 今はいい思い出。

 彼らの私的ハイライトは絶対、天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典での歌唱だ。作詞は大好きな脚本家の岡田惠和(歌い出しは「君が笑えば世界は輝く…」)。同じ時代に生まれてきてよかったと、大げさに思っていた事をずっと覚えていたいな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?