見出し画像

『夜をあるく』|いつまでも記憶に残る、どきどきの夜|大人も楽しめるおすすめ絵本

子どもの頃、まだ小学校に上がる前くらいの、本当に幼かった頃、夜に外にいることは特別だった。心配性でどちらかといえば保守的だった母のもと、夜は早く寝る・テレビもお昼だけという生活を送っていたが、親戚宅にいる時や、従兄弟たちと花火をするときなどは、たまに日が沈んだ後に外に出て、遊ぶ時間があった。

その時間は特別で、いつもは寝る支度をしている時間に外にいることの背徳感や高揚感でどきどきしたことを覚えている。夜は人の顔を必要以上に照らさず、昼間や電気の下にいるときよりも表情のダイナミクスが効いていて、はっとする瞬間が多かったことも。

そんな、夜の時間を過ごす家族を描いた1冊がこちら。

『夜をあるく』
作/マリー・ドルレアン
訳/よしいかずみ
BL出版
定価 本体1,600円+税
28×21cm 
40ページ

マリードルレアンさんはフランス出身の作家・イラストレーター。この絵本でフランスの文学賞「ランデルノー賞」を受賞している。

表紙は、夜の青い世界で、ごつごつした岩山を歩く家族。母親と思しき女性の持つ懐中電灯が、黄色くやさしく行く手を照らしている。

タイトルの通り、夜を歩く家族のお話。夜の青い闇の中、建物から漏れる明かり、懐中電灯の明かりで照らされた道を進んでいき、表紙の山へ。街から山へと向かう道すがら、自然の描写がさりげなく、でもしっかりと描かれる。

植物の匂いや枝の質感、動物の息遣いが感じられるような、青い夜の世界。家族の夜の特別なお出かけが、宝物のように切り取られている。こんな楽しい時間を過ごせる家族って、素敵な家族なんだろうなあ。

青い夜と、黄色い光の中で見る家族はきっといつもよりキリッとして、表情がよく見えないからこそ言葉がダイレクトに響いたはず。そんな夜を通して、家族の絆は強まっただろうし、家族の中の大切な思い出が、またひとつ増えたはず。

いつまでも大事にしまっておいて、時々取り出しては眺める、そんな素敵な家族の思い出を、覗かせてもらおう。


絵本についての私のnote


いただいたサポートは書籍購入費としてnoteに還元させていただきます。