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糖度と甘味は全然別物だって話

 スーパーの果物コーナーとかでよく見る「糖度」と「甘味」は全然別物だって話をしよう。

 まず個人的な想いなんだけど、糖度っていうのは言葉が先行しすぎてしまった悪い例だよなと思っている。
 というのは、糖度って別に砂糖の量を指しているわけではないからなんだ。

 糖度を測るのには糖度計という機器を使う。
 例えば果物の糖度を測定するとき、果汁を絞って糖度計で測定したりする。そうすると数字が出てくるんだけど、これは果たして何を示しているのか。

 答えは、光の屈折率

 超ざっくり言うと、水の中に何も溶けてなければ光はまっすぐ進むけど、何かが溶けているとその溶けているものに光がぶつかって光が曲がる。
この曲がり度合いを「Brix値」と言うんだけど、これが「糖度」と言われているものなんだ。

 そして、それを聞いて何か察された人もいると思う。
 そう、ご明察の通り、別に溶けているものが糖とは限らないよね。

 塩分とか酸とか、場合によっては乳化している油が水の中にはフヨフヨしているかもしれない。
 光は糖に当たったときだけしか曲がらないだろうか?
 そんなことはない。フヨフヨしている全てのものに当たって曲がる。

 つまり、糖度が指しているものは「甘さ」ではなく「溶けているものがどんだけあるか」なんだよね。溶けているものによって光の曲がり方は変わるので、厳密には量とか濃度でもないのだけれど。

 結局何を言いたいかというと、糖度は別の種類のものを比較するためのものではないってこと。
 つまり、糖度12のみかんと糖度12の桃を比較して「こいつら同じ甘さ!」ということには使えないんだ。
 なぜかというと、みかんと桃では溶けているものが全然違うから。

 みかんにも桃にも、糖以外にも酸とかミネラルとか入っているよね。そういうの、全部ひっくるめての数字を糖度と呼んでいる。

 同じ果物の比較だとピンと来ないかもしれない。そうは言っても傾向はあるのでは? と思う人もいるかも。なので例を出すね。

 例えば牛乳の糖度は大体12~13くらい。これって、みかんと同じ甘さ?
 もっと言うと、卵黄は糖度45~47くらいだけど、桃よりはるかに甘い?
 あり得ないよね。

 疑うなら自分で測ってみたらいいと思う。糖度計、昔ながらの覗くタイプのやつだと2~3,000円で売ってるから。わかりにくいけどねアレ。

 じゃあ糖度は全く使えないかというと、そういうわけでもない。
 中身の組成が似たようなものであれば、比較には使えるんだ。

 つまり、みかん同士を比較するために糖度を測ったとき糖度が10のものと糖度が12のものでは、糖度が12のものの方が甘い可能性が高い。測定のブレとか品種の差・固体差があるから絶対ではないけど、可能性は高い。

 だから「甘い果物が食べたい!」というときに、みかんと桃の糖度を比較して「うーん、みかんの方が糖度が高いから甘いんだね!」は的外れだけど、みかんを選ぶときに「甘いみかんが食べたい!」というときに糖度を比較して買うのは全然アリ。

 さて、ここでちょっと科学的な話をすると「甘味」って実は客観的に数値化するのがメチャクチャ難しいんだ。

 いくつか理由はあるんだけど、例えば「甘味」を示すものって物質がメチャクチャある。

 「甘味度」って言葉を聞いたことはあるだろうか。これはスクロース、つまりは砂糖の甘さを1としたとき、例えばブドウ糖(グルコース)だと0.6~0.7、果糖(フルクトース)だと1.2~1.5とか設定されている。

 そしてこの手の話に出てくる、嫌われがちなアスパルテームの感味度は約200、スクラロースは約600。サイヤ人もびっくりなインフレ。

 これらの数字、どうやって決めているかというと「官能評価」なんだ。つまり、人の舌で比較している。アスパルテームは200倍に希釈してショ糖と同じ甘さくらいかな、みたいな感じ。

 で、これはもう経験則でわかると思うけど、甘さの感じ方は物によって全然違う。先味の強い甘さ、後を引く甘さ、キレの良い甘さ、などなど……。

 そして、食品の中に1つの糖しか入ってないっていうことは飴とかラムネみたいなものを除いてあり得ない。 例えば果物の中には、グルコースもフルクトースもスクロースも入っているし、その他諸々色んな糖が入っている。
 そんなものを1つ1つ数値化しようと思っても、なかなかできない。糖の分析ってちょっと性質上面倒くさいとこがあってね。
 マニアックすぎるので省くけど。

 あと、糖以外にも甘味のあるものはたくさんある。キシリトールみたいな糖とアルコールがくっついたものもそうだし、グリシンみたいなアミノ酸も単体だと甘みがある。分析してもキリがない。

 だから糖度計みたいなものでぐちゃっと「全体の溶けているもの」を測定して、これが甘い、これが甘くない、みたいなものを選別しているんだ。
 僕は、人間の舌が一番敏感に甘味を区別すると思うよ。ほんとに。

 スーパーとかで糖度表示するようになったの、ほんの数年前からだけど、これは非破壊で糖度を分析できるようになったからなんだよね。
 果汁を絞らなくても、特殊な光を当てて糖度を測定できるようになった。

 その結果、販売者は果物それぞれの糖度に応じた価格を付けることが出来るようになったし、消費者も「高いのに甘くない果物を買うかもしれない」という不安を持ちながら買うことはなくなった。
 これは、測定技術の進歩が販売者や購入者の行動を変えたもので、地味だけどイノベーションと言えるかもしれない。

 そんなわけで「いちごより甘い糖度30のスイーツ芋」は、いちごと芋では組成が全く違うので完全に誤用だよって話でした。 芋、明らかに光通りにくそうじゃん……?

町中で見かけた、完全に使い方を間違えている糖度の使い方の例

 スーパーで糖度表を見た時にはこんな話を思い出していただけると嬉しいです。結構誤用してたりするので。

 ちなみに桃だとだいたい糖度が12を超えてくると甘いやつだなぁとか、面倒ですが1つ1つの果物について調べたり覚えたりしておくと、それは基準になりますのでぜひ。


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