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ドラマ制作の現場

当初、TBSさん=赤坂と思い込み油断していたところ、赤坂のスタジオで撮影するのはバラエティ番組などで、ほとんどのドラマは緑山スタジオで撮影されていると教えてもらった。
ぼくは東京滞在中は新宿にいるけれど、この緑山スタジオがなかなか遠い。
また、このドラマは厨房でのシーンが多いため結構な頻度で緑山スタジオへ行くことになった。

ぼくの周囲にはドラマ制作に携わったことを羨む人もいるけれど、そういった人たちが想像されるようなキラキラした部分は皆無と言っていい。
どちらかといえば地味で泥臭く、職人気質の強い世界に感じたし、かなり拘束時間が長い。長くても忙しいなら良いけれど、待機している時間がとにかく長いのでこれがキツい。
正直、ぼくなんてずっと早く帰りたいとばかり思っていた。

スタッフさんたちは常に忙しくされている上に、早い時間から現場に入られ帰られるのは遅く深夜にまで及ぶことも普通にあった。
助監督に聞いた話では、クランクアップすれば次の作品までまとまったお休みがあるそうだけれど、人間はそんな偏ったスケジュールに適応する身体になっているとも思えず、かなりハードな仕事であることに変わりはない。
待ち時間が長いことは演者さんたちも同様で、あれだけ華やかに見える俳優業も実はコツコツと地道に積み上げてこられたことの結果だということがよくわかる。

待ち時間の長さとは反対の意味で驚いたこともある。
ぼくが初めて厨房のセットで動きなどを指導をした日、麦田役の佐藤健さんにあんぱんのあんこを詰める動きと、麦田誠(父親)を演じられた宇梶剛士さんに菓子パン生地を綿棒で伸ばす動きをやってもらうことになっていた。

6話で麦田の父親が菓子パン生地を伸ばしているときに麦田と口論になり、「(パン屋さんを)やれるもんならやってみろ!」と胸ぐらを掴み合うシーンがある。
これ、物語は日中の設定なので外光が入っている様に見えるけれど実際には23時を過ぎ、この日の最終カットだった。
「宇梶さん、入られます!」現場スタッフさんの掛け声と共に挨拶をしながらセットへ入られた宇梶さんに「こんな感じでお願いします」と動きを伝え、先のシーンが撮影された。時間にして15分、20分ほどだったと思う。
この撮影後には宇梶さんは帰路につかれ、驚いたぼくは思わず助監督に訊ねた。

「このワンシーンのためだけに来られたんですか?」

「そうですね」

前述したように緑山スタジオはなかなか遠い。
俳優さんたちは大抵、マネージャーさんと一緒に車でスタジオ入りされるけれど恐らくみなさん都内からだろうし、無論スケジュールの都合だと思うけれど、それにしても俳優業はなんて大変なお仕事なんだろうと思わずにいられなかった。

昔、著名なシェフが「レストランというのは、客席が天国なんだから厨房が地獄なのは当たり前」と話されていたのを聞き、駆け出しの小僧だったぼくは妙に納得したものだったけれど、ドラマや映画の制作現場も似ている気がする。
お客さんや視聴者から観たときに華やかな世界であればあるほど、そこに立つ人、またそれを陰で支えている人たちの苦労や努力は計り知れないものがあるに違いない。

つづく

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