雑文


 何も書けない。それでも前は書けないということをテーマにして無理やり何かを書くことができたが、今ではそれもできない。書けないということについてすら僕は何も書けない。

 なぜここまで何もないのか?掬い上げた土は風化して砂となり、さらさらと指の隙間から零れ落ちていく。これでもあれこれと何かを打ちたてようとしたことはあるのだ。巨大な塔をたてて天上へと至ろうと試みたこともあった。大きな劇場を作り、様々な音楽家や役者を集めて興行を行おうとしたこともあった。地獄を遍歴したことも、騎士小説を読みすぎてついに自分を騎士であると勘違いしている狂人になったこともある。世界を僕は9週し、絶世の9人の美女と性交した。9つの企業を立ち上げ、9つの宗教法人を作った。考えられる限りありとあらゆることを僕はしたのだ。したはずなのだ。しかし今、ここには何もないのだ。空の彼方には悪魔が飛んでいる。悪魔はいつでも浮遊している。それは僕の意識の混沌さの象徴である。しかしそれ以外には何もない。大地は無残にひびわれていて、草すら生えていない。はるか彼方に山脈は見えるがそれは岩山である。川などどこにも流れていない。蠍や毒蛇すらも生き抜くことができないほど過酷な環境である。ただ意思を持った様々な動物の骸骨だけが何かを探してうろついている。彼らは食べ物を探しているわけではない。彼らは骸骨だから、何かを食べる必要はないのである。彼らが探しているのはおそらく記憶だ。実感だ。あるいは魂だ。とにかく形の見えない、しかし何か大切なものを探して彼らは荒野をうろついているのだ。それにしてもここには何もない。何も残っていない。どうして僕はいつもいつもこの風景の場所に戻ってきてしまうのか?

----------------------


 いつからか悪魔と取引をしないと何1つとして思い出すことができなくなってしまった。昨日はムカデの串焼きを悪魔は所望した。今日は少女の生首だ。明日は単三電池を悪魔は望むかもしれない。しかしとにかく僕は悪魔が望むものを差し出さなければ、自分の名前すらも思い出すことができない。そんな窮地にまで追い込まれてしまったのである。

------------

 とにかく何もしていたくない。何もしないということすら僕はしたくない。だからかろうじて廃人ならずにすんでいる。しかしただそれだけのことだ。

この記事が参加している募集

自己紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?