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雑文


 明日が見えない。明かりが足りない。目の前に見えている楽園にあと1歩で辿りつくことができない。手を伸ばせばそれは蜃気楼のように消えていく。

 物語に決着をつけることができない。魔王も竜も倒すことができないし、恋人に渡す指輪を買う金がない。真犯人は最後まで見つからず、濡れ衣を着せられたあの娘は断頭台の露と消えた。500年後の未来における超巨大情報ネットワークの誤作動はおさまらず、全ての生命データは消失して文明は跡形もなく消え去った。何事も起きない。全ての物語には傷がついている。迷子になった少年は結局家に帰ることができない。仕事は見つからない。中央政治委員会の常務委員になることはできないし、大企業から懲罰的損害賠償を勝ち取ることもできない。

 聴きたい音楽がある。しかしそのCDをどこにしまったのか思い出すことができない。手当たりしだい机や棚をひっくり返してみるが目当ての物は見つからない。疲れ果てて僕は床につっぷして眠る。目を覚まし、あちこちに物が散乱した部屋を見回して僕はどうしようもない徒労感に襲われる。

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 「彼女」は消失した。彼女はいまだ世界のどこかで生きている。でも、その消息をいちいちネット上に書き残していくことはやめてしまった。疲れてしまったのか、うんざりしてしまったのか。彼女がどういう気持ちでそうする決断をしたのか、それは僕にはわからない。ただ1つ確かなのは僕はもう彼女の近況について知ることができないということだ。いわば僕の世界から彼女は消え去ってしまったのだ。それが消失の意味だ。

 しかし現実からいなくなってしまったということは幻想世界に現れたということでもある。僕は彼女の近況について自由に想像することができる。そしてその想像を突き崩してしまうものはもう何もない。だから僕は自由に彼女の背中に翼をはやし、幻想世界を飛び回らせることができる。


 君は権利を放棄した。しかし捨てるものあれば拾うものあり。拾うものは誰だ?


 僕だ。


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