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散文詩

世界は、理解できないことばかりだ。
うまくいかないことばかりだ。
真剣になりたい、けれどなれない。
枝の先に成った蜜柑をもぎとりたい。
言葉に先に成った意味を、もぎとった。
籠の中に蛍をつめて、それをカンテラにしたい。
この世界を成り立たせている全ての部品に神が宿る。
昔友達が言っていたことだ。
彼は分厚い本を抱えたまま、ひからびたミイラのようになって死んでいった。
僕は2つに分裂する。そして片方が女装し、もう片方がそれを犯す。
飢えに飢えたキリスト教徒が砂漠のモスクを訪れる。そして皿に盛られたナツメヤシと、コップ1杯のミルクを受け取る。
彼はようやく一心地ついて、そして叫んだ。アッラー・アクバルと。
夢の中に製鉄所ができて、現実の中に紙幣印刷所ができる。
年端もいかない少女が中央銀行の総裁になる。
少女自身が貨幣となって、世界中をかけめぐる。
ただし手垢で汚れに汚れる。
最後は霜の降りた大草原で、跡形もなく燃やされる。
そして星になる。
巨人が嘔吐し、脱糞し、そして血を吐く。
全ての汚物は交じり合って、一つの大河となる。
河畔に浄水場が作られ、聖水と堆肥にわけられる。
前者は家庭で祀られて、後者は肥料となって畑にまかれる。
小人たちは文明を作って、やがてロボットを発明し、そして革命が起きる。
血の通わないロボットは、1つでいいから本当に生きる何かをこの手で作り出そうと躍起になる。
全ての資本を結集して、最後の最後に巨人を作り出すことに成功した。
そしてそれと同時に文明は崩壊した。
後には巨人だけが残り、そしてまた同じことが繰り返される。
砂漠の真ん中に大きな建物があった。
カウンターの向こうでは大勢の人が忙しくたちまわっていて、こちら側ではおびただしいほどの行列がいくつも折れ目を作って並んでいる。
みんな少し大きめの箱を持っている。
順番が来ると、人々はカウンターの上にその箱を置く。
受付はろくに箱を見もしないで機械的にシールを貼っていく。
そして遠くに置かれた巨大な箱に乱雑に箱を投げ入れていく。
それを見ても人々は特に怒りもせずに晴れ晴れとした顔で出口に向かって歩いていく。
入れ違いになって1人の老人が中に入ってくる。
きょろきょろあたりを見渡して、1人のスーツを着た男に話しかけた。
「すいません、裁判所はこちらでよかったですか?」
スーツの男は笑顔で答える。
「はい、ここは間違いなく裁判所ですよ」
よかったよかった、と呟きながら老人は持っていた箱の蓋を開けて、スーツの男に何かを質問する。
スーツの男は丁寧に身振り手振りを交えて質問に答えていく。
箱の中では、胎児がすーすーと気持ちよさそうに寝息を立てていた。

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