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小ネタ集 --- 映画「野火」「斬、」「スパイの妻」レビューまとめ

レビューを書こうと下書きで温めていたのですが、一向に筆が進まないので小ネタ集として吐き出しちゃいます。筆が進まなかった、ということは「そういう感想」ですのでご容赦願います。

野火

アマゾンプライムビデオにて鑑賞。塚本晋也監督の意欲作です。公開当時塚本監督本人が「この世界の片隅に」にからめたツイートを連投していたのでタイトルは知っていましたが、どうにもその「乗っかってる感」が前に出すぎているのが鼻について個人的に敬遠してきた作品です。

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さて、以下感想なんですが、まず声が聞き取りづらくてまいりました。リリー・フランキーの声だけがやけに明瞭でそれ以外はとにかく聞こえない。これ映画館で見ると違うんですかね。少なくとも自宅で見るとリリー・フランキーの演技だけが別次元でかえって悪目立ちしているように感じました。

映画はレイテ島を舞台に戦場の狂気を描いているわけですが、これもう皆さん何と戦ってるのかわかんないです。とにかく悲惨な状況が延々と続いて最後には地獄のような狂気に落ちて、それでもなお生きようとする主人公の姿にはそれなりに感動するのですが、それが「戦争の悲惨」として伝わってきてるのかどうかというと、それはちょっと疑問です。少なくとも私の中には「戦争の悲惨」よりも「意識の高いやつにはうかつについていくな」という現代的な教訓のほうが強く残りました。混乱の渦中で自分に自信を持ってる奴は危険、という教えは肝に銘じておきたいと思います。

あと一箇所、死体と思われた男が声を上げるシーンには心底びっくりしました。塚本監督健在というか、やられました。

斬、

野火を観たいきおいで、同じ塚本監督の「斬、」もアマゾンプライムビデオにて鑑賞。るろうに剣心あたりから気になってましたが、最近の殺陣はスピード重視なんですかね、なんだか好きになれないなあ。とはいえ、浪人の都筑杢之進を演じる池松壮亮は相当にがんばっていて(相手をする前田隆成も)、ちゃんとサマになって強そうに見えます。ルックスもカッコ良く見栄えして◎。また杢之進が身を寄せる農村の娘が蒼井優なんですが、最近の蒼井優の演技では一番好きかも。特に深夜の逢引きのシーンはとてもロマンチックで美しいです。

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しかしこの深夜の逢引きから大きな濡れ場に進まないのが本作の肝。ここから先に進めない杢之進、相手が身分違いの農家の娘だからか、単に女を抱いたことがないからなのか、どうにもはっきりしない、でも何故か自慰はしちゃう。実は肝心の剣の腕前も木刀による寸止めの稽古でこそ無敵に見えるのに、いざ真剣で敵を斬ろうとすると全然腕が動かない。ひょっとして、何か斬れない理由があるのかと思えばそれも無い。女も剣も本番の経験無し!ということらしいです。あああ、これは童貞の物語っちゅうことですか!!!

で、終盤はよくわからない杢之進の逃亡と一騎打ち。あまり屈折したテーマを持ち込まず勧善懲悪のチャンバラにしてくれればよかったのに。

でも、繰り返しますが池松壮亮はカッコいいです。

スパイの妻〈劇場版〉

なんといいますか、とても丁寧に作られた作品であることは間違いありませんし、こちらの蒼井優も期待に違わぬ演技で見ごたえはあったのですが、いかんせん登場人物の誰にも感情移入できなかった…というのが私の感想です。

だいたいスパイの妻の夫、高橋一生演じる福原優作ですが、あれスパイじゃないですよね。優作は商社を営んでいて医薬品の買付のために満州に赴き、そこでなぜか旧日本軍の重大な秘密を知ってしまうわけです。その秘密っていうのが捕虜を使った人体実験、いわゆる731部隊とかそのへんのことで、これはあんまりだ!我が国がやってることは酷い、非人道的だ!と強い問題意識を抱えて帰国、そんでもって得た証拠を丁寧に英訳して欧米にアピールして日本を懲らしめてもらおうと画策するわけです。

ちょっとWikipediaから引用しますが、スパイとは ―

スパイ(英: spy)とは、政府や他の組織に雇われて、秘密裏に敵や競争相手の情報を得る人のこと 。

と、あります。優作は誰かに頼まれたり雇われたりしたわけではなくて、自分の正義感を柱に国家の破壊を望む、こういう人をなんと呼ぶのでしょうか…活動家?反逆者?よくわかりませんが、少なくともスパイではないと思います。とにかくあまりにこの優作の行動と言動が突飛なために見ているこっちはポカーンとしてしまいます。「僕は日本人である前にコスモポリタンなんだ」(←うろ覚え)なんてセリフを聞いたときには笑いどころかどうか真剣に悩みましたよ、私は。

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そんなんだからもう途中から話の軸がどこにあるのかわからなくなってしまい「自分は何を観せられているんだろう?」という気になりました。

いや、蒼井優演じる聡子の優作への愛のドラマだってことはわかるんですよ。けれどそこに731部隊の話とか憲兵の異常な取り調べとかの演出を観ていると自分が蒼井優という船に乗せられてどこか違う場所に連れて行かれるような気がしてしまう。そんな違和感がずーーっとありました。

蒼井優は演技がすごいというよりこの作品ではやるべきことがすごくハッキリしていたんだろうなあと感じました。演技としては斬、のほうが好き。とはいえどちらも彼女の慟哭で終わる展開で、なおかつどちらもあまりその必然性を感じない。えええ、ここでそんなにわんわん泣く???という感じ。慟哭の演技で観る者を納得させようという演出なのだろうけど、私は残念ながらどちらも全然納得できませんでした。

ぶっちゃけてしまえば、塚本監督も黒沢監督も作品の端々で「一体あなたは何と戦ってるの?」という疑問が浮かんでしまって、作品に集中することができませんでした。どの作品も期待していただけに、ちょっと残念でした。

2020/10/8 追記:
スパイの妻を観るために初めて足を運んだシネスイッチ銀座は、大きな映画館でありながら古風な雰囲気を残している素敵な映画館でした。スパイの妻を鑑賞するにはうってつけの映画館だと思います。

以上、小ネタ集でした。

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