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西の生き物 東の生き物

兄の浩二は西に行った。弟の重道は東に行った。西には明日はなく、昨日しかなかった。生物は暗い闇の底から、楽しげに過去を振り返っていた。浩二は聞いた。

「生き物たち、生き物たち、明日を見ることなく昨日ばかり振り返っていて、腹が減らないか」

生き物たちは答えた。

「明日がなくともなんとも思わぬ。私達は郷愁を食べて腹を満たしているのだ」

東には昨日はなく、明日しかなかった。生物は光に満ち満ちた雲の上で、陰鬱に未来を見つめていた。重道は聞いた。

「生き物たち、生き物たち、昨日を省みず明日ばかり見て、喉が渇かないか」

生き物たちは答えた。

「昨日がなくともなんとも思わぬ。私達は絶望で喉を潤しているのだ」

西に行った浩二は新聞を開いた。そこには、地球開闢の瞬間が記事となっていた。東に行った重道は新聞を開いた。そこには、とあるパン屋さんの閉店が記事となっていた。一陣の風が、浩二と重道の手元から新聞を運び去った。昨日と明日の境界で、ふたつの新聞たちのインクが混ざりあった。過去に生きる生き物が叫んだ。

「私たちは喉が乾いた」

未来に生きる生き物が叫んだ。

「私たちは空腹だ」

そして現在が産まれ、浩二は新幹線の運転手になった。重道は左官屋になった。

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