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雨が降りはじめる。

雲行きが怪しくなってきたと思ったら、つぎの瞬間には雨が落ちはじめ、どんどんと勢いをましてゆく。傘をもっていないので、足早にバス停へと向かう。すれ違う人々も、突然の雨に見舞われて、いくぶんか険しい表情へと変わっているように思う。うつむき加減に、みんなそれぞれの目的地をめざして歩をすすめてゆくが、そのなかでひとり、路上に佇んでいる女性がいる。顔に雨粒がおちるのも構わず、黒雲を見上げている。シャツはすでにびっしょりと濡れているが、お構いなしの様子だ。なんとなく、彼女から目が離せなくなってしまって、それが向こうにも伝わった。視線が合う。思いがけないことに、小さな声を漏らしてしまう。彼女は中学校の同級生だった。随分と長い間会っていなかったが、当時の面影をよく残していて、目があった刹那に思い出すことができた。

「バスに乗るの?」

「そう」

「どれくらい?」

「20分くらい」

「じゃあ、20分くらい、昔の話でもしよか」

彼女は私のあとをついてくる。バスが水しぶきをあげながら近づいてくる。扉があく。車内には、ほのかに黴の生えたシートの匂いが漂っている。あの頃と同じだ。

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