岩井圭司

予備役精神科医。

岩井圭司

予備役精神科医。

最近の記事

「精神科医の診断書、意見書、鑑定書―何を書くか、どこまで書くか、どう書くか―」(「精神科治療学」第39巻4号,2024年4月)  特集にあたって

診断書の作成は医師の基本的な業務の一つである。医師は患者から診断書交付の請求があった場合には、これを必ず記載・発行する義務がある(医師法第十九条二項)。 精神科医も他科の医師と同様かそれ以上に,診断書や意見書の発行を求められることが多い。診断書に記載する内容は医学的に正当なものであらねばならないことはもちろんであるが,精神疾患には客観的な検査値や病理形態学に基づいて診断されるものはほとんどないために,どうしても患者自身による主観的な症状報告や医師による間主観的な症状把握に頼

    • 内なるデーモンを育てる

      ※ これは某大学大学院臨床心理学コースの,公認心理師養成プログラムの授業「心の健康教育の理論と実際」の一部分です。 履修者の皆様, ここでは欠回分の授業を,manabaのテキストとオンデマンド動画のハイブリッド授業で行います。 はい,すでに始まっております。笑 「自分を大切にする(セルフ・コンパッション)」,「マインドフルネス」に引き続いて,瞑想関連の授業内容になります。 題して,  内なるデーモンを育てる です。 ・・・最近2回の授業で,“自分を大切にする”“生きと

      • 中井久夫教授のポツダム博士のわたし

        「ポツダム博士」,という言葉を聞いたことがありますか? 類似品に「ポツダム少尉(中尉,大尉,少佐,etc.)」や「ポツダム教授」があります。また,ポツダム博士にも,「ポツダム博士(第一種)」と「ポツダム博士(第二種)」があります。 日本はポツダム宣言(1945年7月26日発)を受諾して、いわゆる無条件降伏で終戦(敗戦)を迎えたのですが、戦争状態から戦後に移行するとき、すなわち同宣言の受託意思の表明(同年8月9日)から,終戦の詔書(8月14日)およびその翌日の玉音放送をはさん

        • やさしさ。

          ※ 中井久夫師が文化功労者に選ばれたときに,同門会誌に書いた文章です。  さて、お祝いの文章なので、あまり他の人が書きそうにないことを書かねばならない。実際に中井先生に接したことがない人たちが書かないようなことを書かねばならない、と思う。  私は先生のやさしさについて書こうと思う。私は半世紀以上生きてきて、先生以上にやさしい人に出逢ったことがない。中井先生の患者さんに対するやさしさを示すエピソードは、もちろんいっぱいある。でも、そんなことを今さら私がここで書く必要などない

        「精神科医の診断書、意見書、鑑定書―何を書くか、どこまで書くか、どう書くか―」(「精神科治療学」第39巻4号,2024年4月)  特集にあたって

          プーチンの“義”:真の敵(ラスボス)としての,あるいは大東亜共栄圏の亡霊について

           「プーチンは,地政学的な利害(の視点だけ)からNATOの東方拡大を阻止しようとした」とか,はたまた「ついにプーチンは理性を失った」とかいう人がたくさんいますが,どうも小生は別のことを考えてしまうのです。いま私の眼前には,大東亜共栄圏の幻影がちらちらしています。つまり,,, 「ウクライナはロシアに帰属すべきである」「ロシアとその"衛星国(?)"は一致団結して西欧文明を排斥して,東欧新秩序を確立するのだぁ」という,プーチンなりの道理というか道義意識をわたしは感じてしまうのです

          プーチンの“義”:真の敵(ラスボス)としての,あるいは大東亜共栄圏の亡霊について

          学校教員は「死」について触れたがらない。これでは自殺予防教育なんてできるはずがない。

          ここに掲げるのは,ある精神医学雑誌からの依頼で書いた「自殺予防についての教師教育」という論文の一部である。そこでは一応学術論文らしき体裁をとってあるが,そこで書いたことは要は,「死」や「自殺」に向きあおうとしない学校教員に対するわたしの苛立ち(と呪詛!)である。 21世紀ももうじき四分の一が過ぎようというのに,少なからぬ学校教員がいまだに「死について話すと自殺を促すことになる」,という誤った考えをいまだに持ち続けているのである。これはもう,戦中の敵性語禁止(「英語を使うと鬼

          学校教員は「死」について触れたがらない。これでは自殺予防教育なんてできるはずがない。