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文化人物録24(上野耕平)

上野耕平(サックス奏者、2016年)
→クラシック系のサックス奏者の中で実力、人気ともに抜きんでた存在。ぱんだウインドオーケストラを率いるなど企画力、プロデュース力も併せ持つ。同じクラシック系サックス界のスターである須川展也さんの教え子であり、まさに師匠譲りの優秀な弟子だと言える。

・地元である茨城県東海村の小学校に吹奏楽部があったんですよ。名門校でコンクールにも出ていて。ここで小2(8歳)からサックスを始めた。それまでは音楽と無縁だったが、親に楽器が吹きたいとお願いしただい第1希望がトランペット、第2希望がサックスだった。

・小学校時代は、体育館での音合わせを鮮明に覚えている。サックスは楽器の関係で音がばらつくが、聴いている人には気持いい音。作曲家の伊藤康英さんにボロディンの「だったん人の踊り」を指導してもらった。

・当時は当たり前だと思っていたが、今思うとすごく恵まれた環境だった。どんどん楽器が好きになっていた。小学5・6年の時は地元の図書館で片っ端から音楽を聴いた。特にオーケストラ系が多かった。僕は小6の時に楽器奏者になりたいと思った。楽器を吹くだけでなく、小中校など若いころに音楽を聴いた経験は将来すごく生きている。

・聴くのは基本クラシック系音楽でジャズやロックもかなり聴いたが、やはり一番好きだったのはオーケストラにサックスが入る音楽。これはのちのアルバムにつながっている。もしオケのパートにもともとサックスがあったら、むしろアルバムなどできなかった。

・サックスというのはクラシックでは曲が少ない、歴史が浅いというコンプレックスがある。でもこれは発想の転換で、むしろプラスに捉えようと思った。開拓の余地があり、これからがチャンスだと思うようになった。東京芸大では仲間とカルテットを組んだが、大学3年の時にはぱんだウインドオーケストラを結成した。これは本当に芸大に行ってよかったと思える出来事だった。

・須川展也さんのレッスンを受け始めたのは中1の時。須川さんはサックスを切り開いてきた人で、サックスで何ができるかが大事だということを学んだ。サックスというのはいい音はもちろん、悪い音も出せる楽器。人間そのものを体現、表現できる。そういう楽器はクラシックでは敬遠されがちだが、それこそ最大の武器だと思っている。

・サックスの幅を広げるのは、クラシックの枠内だけでもいろいろできる。例えばビゼーの「カルメン」をサックスで吹けば歌うように演奏できる。サックスにしかできない歌い方ができるんです。編曲は原曲の上を行くつもりでやっている。バッハも無伴奏でできるものがあります。選曲プラスアプローチの仕方が重要です。

・ほかの楽器と違い、今伝統を作っているのがサックス。100年後に古典と言われるような曲をやっているつもり。僕の中では3本の軸があり、ソロ、ウインドオケともう一つがカルテット。同族楽器だけで多様な響きを実現する。カルテット曲はグラズノフなどの他はレパートリーが少なく、王道の曲に加えて新しいことをやっていく。

・今クラシックと吹奏楽は完全に分かれてしまっているが、その枠を取り払いたい。オケもいいけど吹奏楽もいい。楽器に触れることでもっと音楽の魅力に近づいてほしい。クラシックとジャズの要素をぶつけたような即興演奏なども面白そうですね。

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