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医療機関の教育DX【これからの医療とDX #13】

今回は「医療機関における教育DX」について、実際に取り組んだ2つの事例を紹介しながら、解説します。


教育DXとは

「教育活動でデータを用いて分析や振り返りをおこない、教育に関する判断や活動を改善する方法論」を、ここでは教育DXと呼ぶことにします。
人材の流動性と専門性の両方が高い医療機関では、新しく入職した人が業務や環境にいかに早く慣れていけるかは重要です。教育についてはどの医療機関も腐心していると思います。

指導者側の技術や人柄の部分が教育の成否に関わることは言うまでもありませんが、教育が上手な人はそれほど多くありません。
そこで、データや仕組みを活用することで、組織的に教育の質を高めていくことがこれからの医療機関で必要になってくると思います。

医療機関における教育の課題

医療機関における教育の課題は何でしょうか?
私は「なんとなく評価」と「担当者まかせ」の2つが課題だと考えます。
医療専門職の業務や技術は暗黙知の部分が多いのが特徴です。例えば、手技は先輩の教えや経験によって培われます。もちろん、近年では手技の手順やコツを丁寧に記載した書籍や雑誌もありますが、その医療機関独自の手順や方法についてはオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)で伝えているのがほとんどでしょう。

中核となる人材がほとんど離職せず、長年在籍する組織では、暗黙知をベースにした教育体制でも再現性が高く、よい教育が続けられます。しかし、ベテランや中堅が同時に辞める事態になると、培われた暗黙知も失われ、翌年からの教育体制に大きな影響を与えてしまいます。

これらの課題感に基づいて、実際に教育DXに取り組んだ事例をご紹介します。

教育DXの事例:在宅診療所看護師の新人教育

在宅診療所の看護師の新人教育の事例です。
看護師の業務には、訪問診療に同行し処置やケアをおこなう、患者や連携先からの電話に対応する、検査や医療材料などを管理する、などがあります。
従来の新人教育は、新人にマンツーマンで教育担当をつけるOJTを主とした教育体制でおこなっていました。主な業務についてはマニュアルを策定し、新人看護師が閲覧できるようにしていました。業務以外に関しても、他職種の人や院内のシステムに慣れるための簡易プログラムも用意していました。

しかし、実際に新人教育を実施してみると、それだけではうまくいきませんでした。当時の状況は開業から1年が経過し、患者数が増え始め、積極的な採用を開始して組織の拡大期に差し掛かったところでした。組織拡大とともに、教育の必要性も高まっていたのです。一方で、患者数が増えるということは業務増加を意味します。教育担当の看護師は自身の業務をこなしながら教育もしないといけない状況でした。これは、教育担当の負担がかかりすぎていたという反省点であり、前述の「担当者まかせ」のパターンに陥っていました。

教育方法についても見直す必要がありました。マニュアルを整備したものの、教育担当者はマニュアルをつかって覚えてきたわけではないため、十分に活用できなかったのです。
「新人看護師は何ができるようになればいいのか」という到達目標について明確に答えられていませんでした。

その反省から、診療所として3つのことに取り組みました。
1つ目は、看護師の技術の可視化です。在宅医療の看護師の技術を5項目に分け、その項目ごとに5段階のステップに整理して、表にまとめました。筆者と教育担当看護師で話し合い、一つ一つ言語化していきました。この表を「ステップ表」と呼んでいます。実際のステップ表の一部は以下になります。

2つ目は、ステップ表をつかって教育担当と新人の間で進捗状況を話すようにしました。週に1回程度、教育担当と新人で話し合って、5項目それぞれがどの段階まで進んでいるかを決めます。決めたら、それを所定の場所に入力します。この事例では、Notionというドキュメントツールをつかって管理しました。

3つ目に、ステップ表を基に週1回の進捗会議をおこないました。15〜30分の会議の中で、新人2〜4名の進捗状況を確認し、今週どのような形で教育を進めていくかを話し、ステップ・バイ・ステップで方針を決めていくことを繰り返しました。

これらの取り組みにより、新人教育の到達目標と進捗状況が可視化され、教育担当を主としながらもチーム全体で教育に関与できるようになりました。ステップ表により個別の進捗状況が一覧で確認できるようになったことで、2つの大きな効果がありました。項目ごとに評価ができるようになったことと、建設的な改善策につながりやすくなったことです。

教育DXのポイント

上記の事例を踏まえて、教育DXのポイントを解説します。

先に述べたとおり、医療機関における教育の課題は、「なんとなく評価」と「担当者まかせ」の2つにあると思います。この2つは「教育担当に口が出せない状況」と「教育担当が周りから協力を得にくい状況」をつくります。

在宅診療所の事例では、評価基準を明確にして、データに基づく評価をおこない、担当者を主としたチーム教育の場をつくり、共通認識・共通言語で建設的に話し合い、少しずつ改善していく形にしました。

評価基準を言葉と表にまとめたことによって、共通認識と共通言語をもち、客観性を担保して話し合えるようになりました。
教育では業務や技術を評価することが必要です。しかし、教育の進捗度をうまく表現するのは難しいです。伝え方や受け取り方次第では「できないと言われた」「自分は否定された」などと誤解されかねないからです。
今回紹介した事例では、ステップ表によって共通言語を整備し、「教育担当以外も進捗がみえて、関与できる」ようにするとともに、「教育担当も周りに相談できる」ようになりました。

(おまけ)教育DXの経営的なインパクト

ちなみに、病院のセラピストに対しても同様の取り組みをおこなった結果、売上増加と教育の質向上につながりました。リハビリ単位数が増えて売上に貢献し、到達目標と進捗状況が可視化されたことで教えやすさが上がりました。


今回は教育DXについて解説しました。教育は属人的にならざるを得ないと諦めている方にもご参考になれば幸いです。


株式会社DTGでは、医療機関のDXや組織・人事のコンサルティング、マネジメント研修を提供しています。
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