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スピードアップを余儀なくされるトンネル

新型コロナ対策が、緊急事態宣言解除をうけて、新たなフェーズに突入した。
4月8日(私の誕生日)からはじまった自粛は、不便さやストレスだけではなく、新たな快適さ(自宅にできた作業環境はとても素敵)とあらたな可能性(とにかく妻が満足している)が見えてとても有意義だった。単にロックダウンで我慢を強いられた、というひともたくさんいるだろうから、私はラッキーだったとしか言いようがない。正直これが1月とかだったら大変だった。私の受注業務のほとんどは3月にいったん締まっている。4月から新年度であらたな業務を開拓しなければならないなと思って少しスピードダウンしていたからだ。

コロナ感染症対策という特殊な状況

コロナでどんな日常がやってくるのか、最初はとても不安だった。そんななか、NHKの特集などでコロナ後、ウィズコロナでどのような日々がくるのか世界の有識者が語る番組を見た。

この番組でぼくも心底納得したのは、コロナで起きている課題はまったく新しいアジェンダではなく、いままでの議論に線形につながっていることだ。確かにコロナはあらたな挑戦を人間に突きつけていて、いままでの当たり前が通用しなくなっている部分はあるのだが、その対策の過程で起きていることは、それまでも議論されてきたあらゆる人間の根源的な問いやその解決法へのチャレンジであること。
つまり、人間が社会的な動物であることで、社会と個人の関係をどのように規定するか。あるいは個人と環境との関係、人類と環境との関係。
または、為政者と主権者の間の関係。そのために透明性や緊張関係をどう保つか。マネジメントを行うものにどれだけの権限を与えるのか。
新しい時代を切り開かなければならない時代に必要なコミュニケーションスキルはなにか。このようなアジェンダはコロナがどうか以前にずっと人間社会につきまとっている課題だ。
コロナ以前も、コミュニケーションやマネジメント手法に問題があったことは明らかだ。僕がテーマにしてきた水辺においても、つまらない水辺の環境や風景は、デザインの問題以前に、そこに関わる人々の集合知がつくりあげた歴史だ。人の関わり方を変えなければ水辺の環境はよくならない。これはずっと言い続けてきたことだ。だが惰性でずっと変わらない。最近は変わってきているとは思うが。
これはマネジメントの問題だ。会社とか部活とかの単位ではなくて、社会という組織のマネジメントの問題。そして、惰性でずっと続いてきた。

しかし、コロナで社会が置かれた環境ががらっと変わった。これが一過性なのか持続的なものかはだれにもわからないが、確実なのはコロナ対策という特殊な環境下におかれたことで、これまでの惰性ではものごとが動かないことが明らかになったことだ。ものごとがうまくいかなくなったことはコロナが直接的な原因ではない。それ以前から問題だった。しかし、コロナが理由でマネジメント手法を惰性ではなくて創造的な方に変えなければならなくなった時、以前はラディカルに聞こえてきたアジェンダが、急にリアルに聞こえるようになったというだけだというふうに理解した。

スピードアップを余儀なくさせるトンネル

先日、ラトビアのリガのアーバニストが主催しているZOOM会議に出席した(5/6)。その時、OECDの交通プランナー、Philippe Cristさんのパワポプレゼンがあった。
コロナ対策の一環で、自転車移動を推奨していて、さらに車道をテンポラリーな自転車道に”タクティカルに”変えている世界の都市を列挙していた。

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CORONA LANES

これらの都市では、仮設の自転車道で都市交通のコロナ対策を行なっている。それら都市の「まずはやってみよう」という精神とスピードに感服するとともに、これは多くの都市で、特にディーゼルによる排気汚染に苦しむ欧州の都市が歩行者優先、自動車排除に動いている流れを加速させている。

”ロックダウンは、自転車レーン整備の千載一遇のチャンス”

Phillipeさんがかかげていた都市がどういう都市なのか自分で調べて見た。これらの都市がこれまだ①タクティカルアーバニズムをやってきたかどうか、②カーフリーデーの取り組みをやってきたか。この二点をネット検索で調べた。その結果は以下の通り。

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岩本調べ:みごとにすべての都市で両方とも取り組みがされている

これがなにを示すかというと、これまでもこのような取り組みがされてきた都市だからこそ、コロナ禍において迅速に自転車道の実験が行うことができた、ということがいえるのではないか。

カーフリーデーも、タクティカルアーバニズムも、それを推奨し推進する市民側の主体が必要である。そのような主体があり、そして協働する行政がいて、推進される。これまでの取り組みがあってこそ、コロナ対策のような緊急事態での迅速な対応が可能になったのだとすると、いかにアジェンダベースの人的関係資本を都市の意思決定の近いところに作っておく必要があるかがよくわかる。

アジェンダの有効性アピールのスピード競争

逆に、コロナ対策の一環で、クルマの利用が見直されている面もある。

あくまで、その発信者が立っているその立場でのコロナ対策が世の中にニュースとして流通しているのだろう。コロナ対策でスクリーニングされることもあるのかもしれないが、逆にコロナ対策の不確実さが、アジェンダの乱立を生んでいるとも言える。

つまり、アジェンダが乱立し、アジェンダ間の有効性アピールのスピード競争になっているのだ。

リモートワークの有効性のアピールは最高のパフォーマンスを見せた。ZOOM会議もしかりだ。一方でこれらがあらためて、人と人が会うことの価値を浮き彫りにしたことも確かだろう。

そして、これまでの惰性の仕事や社会の状況と比べた時、どっちがどうだったかを評価し、社会が納得して受け入れていく。

他のアジェンダもいままさにその有効性を社会に対してアピールしなければ生き残れない。だからこそスピードアップする。

環境がかわると、人は変わる。まさにそれを全世界の人々が同時期に体験しているというこの価値を、嚙みしめようではないか。

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