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ハイペリオンサーガ再読記:第2回「ハイペリオン上巻 pp.40~76」早川書房

はじめに

ハイペリオンサーガは、米国の作家ダン・シモンズが書いたSF小説です。

ハイペリオン 上巻」「ハイペリオン 下巻」「ハイペリオンの没落 上巻」「ハイペリオンの没落 下巻」「エンディミオン 上巻」「エンディミオン 下巻」「エンディミオンの覚醒 上巻」「エンディミオンの覚醒 下巻」の8作があります。以下、リンクです。

ここではSF作家志望の私が読んだことのあるSF小説の中で、一番スゴイと思うこのハイペリオンサーガを再読しながら、ハイペリオンサーガはなぜ、なにが、どのようにスゴイのか、じっくり分析してみる、「再読記」です。

前回のあらすじ

辺境の惑星ハイペリオンにある<時間の墓標>への巡礼者に選ばれた7人が、森霊修道会の聖樹船イグドラシルに集いました。容姿も身分も性格もばらばらな各自が、食卓を囲みながら話し始めたところまでです。

以下、今回のポイントです。末尾に、前回までのポイントも付けておきます。

ポイントと分析

今回のポイント

会話劇の巧みさ。各自の性格や価値観、特徴が明らかになってく。人の信条はパーソナリティの中でも大事。心中の声がわかるのは、領事だけ。

読者を小説世界に閉じ込める仕組み。固有名詞や細かい世界設定(伏線いかんに関わらず)は世界の隙間を埋めるこけおどしでもOK。これらがSF的想像力を刺激する。暦の違いで世界設定や伏線を用意。馬、鷲、熊という動物名前を関したハイペリオンにある3大陸。日常すぎる日常に溶け込んでいるSF技術がリアリティを生む。世界設定が続々登場。確率情報部など。コムログ・インプラント。さまざまな実際の宗教と架空の宗教が登場。雲の名前。さまざまな動物。世界設定やプロットの謎、お気に入りのキャラなどが、小説世界に読者を留め置くために必要。逃がさない工夫。リアリティと架空の設定のバランス。その世界にいたい、堪能したいと思わせるサービス精神。

知的好奇心を刺激。デュレ神父。文化人類学、考古学、神学者。

まだ見ぬ場所のサスペンス。羽交高原、炎精林、ビクラ族、大峡谷。馬勒山脈。迷宮九惑星。デュレ神父が行方不明。デュレ神父の運命を見届けたらしいホイト。

ビジュアルのビビッドな魅力。ハイペリオンは上空から見ると、外縁が白と緑とラピスラズリ色。詩的で耽美的な想像力。黄色とオレンジの木々。青緑色の空。緑の空。炭が熾ったような赤。朱金色。

地の文の工夫。プロローグは領事が語り部。第1章はホイト。時々、聖樹船では領事。あとは、デュレ神父の日記。

ホラーテイスト。突然の出来事。老婆の不気味さと恐ろしい耽美的な場面。一つたたずむ炎ゆらめく赤い蝋燭。静と動。

オマージュ。「星を継ぐもの」。贋作。

宗教や罪と罰など、重く究極的なテーマ

今回のまとめ

七人が発言することでそのパーソナリティが明らかになってくる回。自然と世界設定が出てきて、世界もどんどん広がりを見せます。ルナール・ホイトとポール・デュレ神父の旅や、デュレ神父の日記をたどるハイペリオンでの旅が始まりました。

やはり、前回と同じく、設定も描写もテーマも重厚ですね。とにかく、読者をスリルとサスペンスでアドベンチャーに引きずり込んで帰らせないためのサービス精神がすごいです。状況描写の耽美性、特に色の描写がドラマチックですね。もともとのサスペンスやアドベンチャー要素にくわえて、ホラーも入ってきました。宗教や罪と罰の問題など、重く深いテーマも扱っていて、難しいテーマからまったく逃げていないあたりが、重厚です。地の文も三人称、一人称、二人称と散らしてきます。パクリではなくオマージュを惜しげもなく出してきます。これもハイペリオンサーガの特徴だと思います。知的な好奇心をくすぐる設定もふんだんです。たまらないですね。

次が楽しみです。

勉強になります!

次回へつづく。

以下、ネタバレ注意

今回は特にないです。

前回までのポイント

<描写>

ビジュアルやサウンドの描写が突き抜けている。色味、輝き、声、環境音のバリエーションが実に多彩。重厚なオーケストラやオペラのよう。ダイナミック。サービス満載。非現実的な美しさ。
多様なビジュアルやサウンドが一場面で重層的に重なっている。徹底的に重ねてくる。あまりに幻想的な場面が頻繁に出てくる。
多彩な屋内外のインフラ描写
食事の詳細な描写で食欲や嗅覚も刺激。
服の描写は微細に。いろんな物には、その名前がある。
敵と味方陣営の設定が明らかになる。
容姿の描写には手を抜かない。声も重要。
兵器の名前や描写も詳細。

<展開>

静と動の場面わけが巧み。矢継ぎ早に静と動が入れ替わる。揺れ動き、振幅の早さや量が実に多い。とにかく読者を揺さぶる。とことん盛り上げる。対比がすごい。ダイナミックな描写のあと、セリフや違う描写がはいって我に返り、揺り戻される。
展開が映画的。映画のコマが進んでいくようなイメージ。劇的で耽美的なふるまい。コマ割り。描写で緊迫感、安心感などを表現。緊張感がすごい。
冒頭ですぐに最終目的地とラスボスが登場する。切迫した状況。是が非でも暴かなければならない秘密を知ることが目的。冒険のはじまり。ラスボス、シュライクの存在感と特別感。
スリルとサスペンス。非常時に非常時が重なっている状況。最後のチャンス。重ね重ね特別な状況が重なった設定。次々と謎が置かれていく。軍事的緊張。ハラハラドキドキの予感。

<設定・仕掛け>

七人の巡礼者、七人の侍へのオマージュ。キャラが立ってくる。七人の中には有名人が含まれているとの設定。選ばれた特別感が高まる。乗客は7人だけの特別感。それぞれの対比が明確でキャラが立っている。幅も奥行きもあるキャラ設定。それが謎になる。七人の会話劇で各々のキャラがさらにはっきりしてくる。
七人の内の一人はスパイという設定。読者が誰がスパイか、常に気になるようなサスペンスと謎解きを用意。
誰も時間の墓標から帰ってこないという謎
世界設定が詳細。政治・行政組織、星の名前、宗教、具体的な地名、設定が出てくる。身分の差も見え始める。
空間的、時間的設定にも触れる。歴史についても心中の声で解説。
現実の歴史と架空の歴史がミックス。未来の話だとわかる。クラシック音楽は実在の曲。ユダヤ、カトリックなど現実的な設定。すべてを架空の設定とせず、現実と接続することで、説明を省いたり読者との共通理解、合意がはじめから得られやすい。
この世界独特の世界や技術設定、人命が次々と出てくる。世界の輪郭がどんどんはっきりしてくる。引き込まれる。SF世界設定が多ければ多いほど、SFファンのイマジネーションを刺激する。その世界での現実を費用なども用いてリアルにしている。エルグ、特異点、超高速通信。転移ゲート。薄膜壁。延齢処置の蒼み。
他に4隻しかない聖樹船イグドラシルの特別感。

<その他>

地の文は第三者の神の視点(登場人物の内面もわかる、カメラは自由)
「領事」の心中の考えは、そのまま詳しい状況説明の代わり。
サイズが圧倒的。9キロの層積雲。4千隻の船。宇宙都市。小惑星要塞。何十万の宇宙の蛮族。高さ2百メートルの裸子植物。1キロに及ぶ聖樹船。何千という光点。10 キロにわたってのびる青と墨色の噴射炎。6百メートルの落下のおそれ。太さ5メートルの枝。2千から5千人の収容能力。

(了)

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