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再週回

私には用がないパチンコ玉、私には少し大きいサイズのTシャツ、私には好かれないであろうタバコ、総てを遺骨のように、大事に手に取りゴミ袋に集荷した。
洗濯機の近くのカゴの中は2分の1の量に減っており、冷蔵庫には飲めないビールが残ったままで、何度も交わったベットには使わない枕が一つ出来ていた。
もう一つの声はなくなり、会話は行われない。そしてTVが垂れ流す、笑い声だけが無情に響く。
小さな小さな、キッチン兼流し台ではカレーの鍋が少しカビを生やし洗われるのを今かと待っている。

そんな2人では狭く1人にしては広い1LDKに無気力な私がいる。


カーテンの隙間から侵入してきた陽光が部屋の中で唯一私にだけ当たり、熱せられる。
これはもう1LDKの拷問部屋と化した。間違いない。でも動かない。動く気力がないのだ。
ふと足を見れば、膝横から少し長い毛が生えているではないか。これに気付かない程、私は消沈していた。
中途半端になった手のネイルの親指先と人差し指先で、慎重に抜く。
抜いた時のプチっと音がなり、この音がむしろ痛さを和らげ心地良いとも言える。

いつの間にか日を超えてしまい、いつの間にかに眠りにつく。
しかし最近は悪夢で目覚める。はっきりとした悪夢の記憶はなく、深い眠りにも付けず不快な気分しか残らない。不快な気分でも日々は続くから、化粧して仕事場へと向かうという、いつもの軌道に私は乗らないといけない。まるでメトロノームのように繰り返し単調な日々を刻む。
私が生きている、この世界は地獄ではないかと認識させるぐらいの満員電車の拷問に、イヤホンから聞こえる音楽で調和しようと必死である。

つまらない出勤につまらない仕事につまらない上司の話。つまる話をする相手はもういない。やっぱり地獄だ。
私が仕事に行ってる間になくなってた彼の荷物、置かれた合鍵
つい思い出し捨ててしまった彼のtシャツを出した。
Tシャツ忘れてるけどどうする?
送るか迷った、長かった1分。
送れなかった、LINEのたった1文。



新宿2丁目のバーで厳つい体格をしたママもどきに言われた言葉を思い出した。
「あんた、いい男か分かる方法は一つよ。デート後の帰り道がランウェイと思えたらそれはいい男よ」野太い声から聞こえたこの言葉が今でも私の指針である。


そう、付き合い初めは漫画みたいだった。
「消えかけた春と見えそうな夏のど真ん中が好きなんですよ」
なんて美しい言葉なのだろう、初対面の言葉がこれだ。もう引き込まれていた。
彼とはあまりにも話が合い、何気ないことに笑い合った。
言葉通りに帰り道、小踊っていた。恥ずかしげもなく。意気揚々と。

でも別れは現実みたいだった。ご飯をなにするかだっけな、いやもっと浅い会話だった気がする。『些細ない』その本体も分からないほどしょうもないことだ。
ただそのしょうもない喧嘩でもう会えなくなるなんて思うだろうか。
分かっていたなら些細な事に真剣に立ち向かったのに、後悔する事が苦しく虚しくさせる。いや待てよその時の会話思い出した。


「再来週の再ってなんでつくんだろうね。来来週でもよくない?」
「2週間後でよくない?」
彼の返答は愛想がなかった。愛想がなかったんだ。でも正論過ぎる答えに少し悔しくて噛み付いてしまった。
返答の愛想でその人の愛が決まると思っている。そんな私の思想を棚に上げ、振り下ろした。はい、原因は私だ。謝ろうにも連絡をするのはちょっと自分からは出来ず。はい、ただの負けず嫌い。
なんだか見た目だけ大人になっても脳は全然付いていけず、むしろ子供のまま。

小田和正のたしかなことって曲、今更だけどすごくない?
時を超えても愛せるのか分からないし、時を超えなくても本当に君を守れるんかなって考えれるってすごくない。
「まー歌詞だからねーなんとでも言えるよね」
言葉にもイラついたが、それ以上に態度にどっと腹が立った。

腹が立ったが続け様に問いかけた。
奥田民生のさすらいの歌詞で好きなとこは?
「んー、『風の先の終わりを見ていたらこうなった。雲の形をまにうけてしまった。』
ここの2文は天才的だと思うね。俺は俺だ!これ以上でもこれ以下でもないって感じいいよね」
自分の話はよく喋る、そういうとこが嫌いでもあり好きでもあり、でもやっぱ心からは好きにはなれなかった。

じゃあんたは考えてないの?私はもっともっと君の生活に混じりたかった。
また私は思想を棚に上げ、振り下ろした。そう、別れは現実だった。



Netflixを見てる私の頭上には常に雨雲がたたずみ、気分はどんより。それでもお腹は減り、Uberでは丼より、バーガーな気分。
そうだ、今日は2人で見てたドラマの最新話の曜日だ。残り2話。ハラハラのサスペンスドラマ。続きを見たいけれども1人では見るのはどこか反則な気がして、
続きがすぐ見れない苛立ちも君と見れば消えていったのに。
CMを見るのが嫌だから15分経ってから録画を追い再生する。そんな姑息な真似もお互い今までやっていたことに嬉しく思ったんだ。


でも愛してるにはまだ足りない2人だから、
私はもうあの時を生きていない。
人は選ばなかった人生を眩しく思うらしい。本当にそうみたいだ。
さよならという別れのようなまだ期待してるような言葉すら言えずにお別れした、してしまった。
「ドラマ始まるけど」「何してるの」「元気?」書いては消して、文にした所で送れない言葉に目を背けたことが何度あっただろう、今もそうだ。背けたからにはもう振り返ってはだめだ、逃げれない為に後悔に鍵を締めた。
ドラマのように来週も再来週もない
2人の物語は最終回。そう思わないと踏み切れない。
でもエンドロールは流れない。
これは私にとっては人生のほんの少しの話の一つだから。それが私の決意だ。

最終回は15分遅れの録画を見ずにリアルタイムで見た。
停止も早送りも早戻しもないこれも私の決意だ。

ドラマのように来週も再来週もない
2人の物語は最終回。
でもエンドロールは見ないようにした。
これは私にとっては人生のほんの少しの話の一つだから。










馴れ(あなたに親しみを持つ)

成れ(特別に気を使う必要がなくなる)

狎れ(親しくなりすぎて礼を失する)

慣れ(その状況に長く置かれて違和感がなくなる)

スキがやる気になり 寄付が猫のエサになります