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電波戦隊スイハンジャー#212創造樹のふたり

第10章 高天原、We are legal alien!

創造樹のふたり

その少女は設定されたカプセルの解凍時間通りに目覚め、まずは、

1、体温を保持するための衣服の着用。

2、活動をするための水分と栄養の摂取。

3、胃腸活動のための休憩の後の運動機能訓練。

を遂行するため、裸体のままカプセルから起き上がった。

カプセル脇に用意されていた白い平服を着用し、

少女の覚醒時刻に設定されていたユニットの機能が起動して壁の一部がぱかり、と開き床と垂直になったところで止まり幅60センチ、奥行き50センチの簡易机となった。

そこに置かれた栄養食とパウチのイオン飲料を摂取し、

リクライニングチェアに横たわり一時間食後休憩した後、

自室ユニットからトレーニングに移動しいくつかの機器で二時間ほど運動してシャワーで汗を流すと…

適度の刺激で肉体生理機能と脳活動を活発化させた少女は作業着に着替えてから自分の身分を証明する腕輪を装着し、フードを被ると「任務遂行、開始」と小さく頷いて自分の仕事場へ向かった。


天の岩屋戸開きの騒動から600年が経過した。

戦闘機23隻、民間輸送機18隻からなる高天原族宇宙船団は民間人、軍人、王族全ての階級が

100年冷凍冬眠して覚醒し、100年活動をする。

という生活サイクルを全船団の半数ずつ交代で行い、現在は冬眠中の女王天照に代わり元老長アメノコヤネの指揮下で天の川銀河まで到達、目標「地球ちだま」まであと80光年という長い旅も終わりに近づきつつあった。

分散された密閉空間で国民の半数が眠っているという状況でひとり学舎の研究室で大学課程の卒業論文執筆に勤しむのは1700才(地球人年齢17才)に成長した高天原族皇太子、アメノオシホミミ。

五つの三次元ディスプレイに浮かび上がるデータを基に端末に高天原数式を打ち込んでいた彼は目に疲労を覚え、ちょうど昼休憩の時刻だったので、

何か食べて休むか…

と椅子の上で伸びをしてから立ち上がり、
旗艦天鳥舟内の栄養室(食堂)に向かった。

まずは入口読み取り機で掌紋認証のチェックを受けると同時に血液成分をスキャンし、今の自分に必要な栄養素を中心に調理保存された食材が

人が食するのに美味。

と感じる適温まで解凍、または加熱されて給仕ロボットによってトレイに乗せられ、受取口まで運ばれる。

今日も野菜と果実と植物性たんぱく質中心か…そりゃ最近卒論に追われて体動かさないけども、さ。

と少し肩を落としたオシホミミがテーブルに着いてもそもそと料理を口に運び始めてしばらくした時、

「これ…分けてさしあげましょうか?」

と彼の左斜め後ろから小鳥のような声がし、振り返るとフードを被った神官と思しき少女が皿に乗せたササゲノモチ(米粉パンに鶏照り焼きを挟んだサンドイッチ)を給食トレイの横に置いてくれる。

「いいの?」

とオシホミミが聞くと少女は「私はもう栄養を十分摂取しましたし」とはにかんだ。

ほとんど起きている人間に会わない船内で滅多に会わない同じ年頃の少女の笑みをとても眩しく感じたオシホミミはありがとう、と言って成長期特有の旺盛な食欲でササゲノモチにかぶりつくと、「うん、うまい!」と肉の脂と照り焼きの香ばしさに舌鼓を打ってあっというまに差し入れを平らげ、果物ジュースで流し込んだ。

「ありがとう、私の名は皇太子アメノオシホミミ。後でお礼をするよ。

ところで何で私が肉を食べたい、った解ったの?」

「肉が食べたいなあ、という殿下の思考をスキャンしたからです」

「え?スキャンって神官が使う思考上での対話ではなくて?」

少女の無機質な話し方とフードの下で規則的に光る彼女の眼に違和感を持ったがそれ以上に彼女への興味が勝ったオシホミミは彼女の首元とフードの間に指を差し入れた。

はらり、とフードが肩まで滑り降り、目の前に現れたのは…

濃い紫色の髪と瞳を持つ整った顔立ちに透けそうなくらい白い肌。ぷっくりした血色の良い唇。と長い睫毛の先から頬のうぶ毛までもが造り物のような美しい少女だった。

「…名は?」

「自律式有機端末タクハタチヂこと智持ちじといいます。父は元老オモイカネこと思惟しい

「オモイカネ!?」

聞いたことがある。自分が生まれる前、母天照には弟君が二人居て、

一人は元老長の妻を死なせてコロニーから追放されたオトヒコ王子と

もう一人は天才的な頭脳を持ち自らが創りしヒト型有機端末オモイカネこと思惟と共に出奔したユミヒコ王子。

高天原族の元老たちの噂によると思惟どの自らが設計制作した最高機能の自立有機端末がこの船の何処かに隠されて来る時になれば高天原族のために起動すると。

それが、この子なのだ。

「そうか、君がオモイカネ殿の『娘』なのか…いつから起動したの?」

「天の川銀河時間で24日と6時間前からです」

「じゃあ私達は同じ船でずいぶん前からすれ違っていたんだね。君の主な任務は?」

「現在地点天の川銀河外縁周囲の星域の調査と分析と、船団の安全な航行のための誘導です」

「一番大変な任務だ。ところで君、今時間ある?」

「食後休憩を一時間取る予定です」

「それなら眺めのいい場所があるんだ。一緒に行かない?」

高天原族の皇太子として生まれ、いつも警護されて育ち本当の自由なんて味わった事が無かったオシホミミは生まれて初めて自分から異性を誘った。

それから21日後。

「殿下速く速く~!…んもう、日頃の運動が足りないから息切れなさるんですよ」

「智持の脚が速いからだよ。だいいち私は頭脳型高天原族だし…」

「言い訳なさらずに殿下は訓練室での運動負荷をもう一段階上げること!そうすればお好きなお肉が支給されますわよ」

とぽんぽん言葉を交わしながら旗艦天浮舟神殿内に作られた人口の庭園の丘の上の果樹を目指して追っかけっこする程二人は仲睦まじくなっていた。

ふう…と汗をにじませながら果樹の根本に転がって智持が差し出してくれたボトルの冷たい水を喉を鳴らして飲むオシホミミ。

果樹の桃色の木の実が熟れているのを見てそうか、季節はもう夏なんだ。と故郷スサ星に合わせて四季の移り変わりを人工的に再現しているこの庭園に居ると、自分の生命力。というものが増していくような気がする。

「そうだ、君に贈りたいものがあるんだ」

と目の前の果樹に登って特に熟れた実を一個もいでからはい!と智持に投げ渡した。

「薄皮を剝いてからかじるんだよ」と言ってオシホミミはもう一つ実をもいでかじって見せる。見様見真似で智持が身をかじるととろけるように柔らかい果肉とたっぷりの果汁が口の中に甘く広がり、「美味しい…」と夢中になって果実を頬張った。

「これはモモ(桃)っていう果物でとても貴重だから航行中は食べてはいけない。ってお達しがあったけど1,2個くらいならいいか。って思って。私も700年ぶりに食べるんだ」

「どうしてそのような貴重なものを私に?」

「一番大切なひとと一緒に食べたいと思って」

皇太子の突然の告白に智持はうつむいたまま黙ってしまった。

…長い沈黙に耐え切れず樹上で身を乗り出したオシホミミが転げ落ちそうになるのを咄嗟に智持が支えて事故は防げた、が、果樹の真下の草むらの上でオシホミミが智持の上に覆いかぶさるかたちとなった。

なんだろう?この躰の熱さは。一目見た時よりそうしたいと思った衝動のまもオシホミミは智持のぷっくりとした唇に自分の唇を重ねた。

「…いいかい?」

「ええ…」

智持もこの蕩けるような気持ちは何だろう?と初めての感覚に戸惑いながらも誰もいない庭園の草陰で衝動のままオシホミミに身を任せた。

…一時間半後。着衣を整え、相手の服に着いた草を払った二人は、

「じゃ、この次はエナガの間の3棟ユニットで」
「ええ、監視装置はその間オフにしておきます」

と訓練室の運動よりも激しい息遣いと滴る汗を拭きながら創造樹。と呼ばれるモモの木の下で別れた。

説明しよう。モモの実の効能は高天原族にとって強烈な催淫作用を促し、特に好意を寄せる相手の傍で食するとその場で生殖行為を行う程なのである。

それから三日三晩二人は約束の場所の一室に閉じこもって何をしていたかは推して知るべし。

20光年後、冷凍冬眠から目覚めた女王天照は苦渋と羞恥を顔に滲ませた元老長から…

「陛下、まことにおめでたい事なのですが落ち着いてお聞き下さいませ」

と以下の報告を受けると玉座の上で硬直して黙り込み、やがて決意して顔を上げると元老全てと左右両騎将軍、そして皇太子である我が子オシホミミと艦隊運航管理長官タクハタチヂこと智持ちじを呼び出し、

「移住予定地である地球もあと60光年先と降下を間近に控えた近臣の皆よ、いい知らせと悪い知らせがある。いい知らせは此度はタクハタチヂが我が子オシホミミの子を身ごもった。我に孫が生まれる」

旗艦指令室の玉座の周りでおお…何とめでたい。皇太子殿下ばんざい!アメノ王朝に跡継ぎが生まれますな。

と最初は驚き、両隣にいる相手の様子をうかがってからお祝いの言葉を次々と口にする近臣たちに天照が言い放った言葉は、

「ばー、かー、たー、れー!!!」

という船内を揺るがすような怒声だった。

「よりによって産児制限令厳密遵守期間に宇宙航行中の旗艦内で致して子を成すとは皇太子として示しがつかぬどころか大恥だあっ!

はーい、悪い知らせ。艦隊運航管理長官という重職にある者に手を付けた罪でアメノオシホミミ、お前を廃太子に処す」

「陛下、お怒りはごもっともですがどうかご寛恕を…二人はモモの実の効能を知らなかったのですから」

と汗だくになりながら必死で取りなそうとする元老長に向かって天照は、

「我の次の王位継承者は智持のお腹の子だ。オシホミミよ、我も子育てをするからお前は学者として智持と好きに生きろ」

本当は皇太子の立場を重荷に感じていたオシホミミは項垂れていた頭を上げて「ほ、本当ですか!?」と喜色満面に叫んで智持と手を取り合った。

「但し、子の名づけは我に任せてほしい。…そうだな、天にも地にも親和的な高天原族の王、稲穂がにぎにぎしく成熟するように健やかな子、という意味で

天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命アメノニギシクニニギシアマツヒコヒコホノニニギノミコト


名づけよう」

「そ、そんな長い名前私も子も覚えられませんっ!」
「私は覚えました」

と対照的な反応をする若い二人を囲んで指令室内に笑いと祝福の声が沸き起こった。

長すぎるが最上の祝福の意味を持つ子はこの時から現在に至るまで、

天孫ニニギ

とやっぱり本名が長いので略称で呼ばれ続けるのである。

後記
はい天孫の仕込み完了



































































































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