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リベラルアーツ重視の時代、大学カリキュラムの自由と不自由

 大学の授業(高等教育)は、初等中等教育のように指導要領に縛られることがなく、カリキュラムは大学独自で作って文科省の審査を通れば良いし、また文科省は大学に、社会の多様性への対応を求めてもいて、かつて化学科・合成化学科・応用化学科くらいしかなかった化学系学科も今は材料○○とか総合○○とか先端○○とか複合○○とかいうキーワードがついたり、本当に多様になっている。
 その一方で、少子化に伴う入学生確保戦略として、高校生にアピールできる学部学科名、教育内容の改定が、いわば社会の要請という側面で改革を主導してもいて、(教養課程を残す)東京大学などごく一部の大学を除いてその影響は無視できない。
 また、官から、民からの研究補助金・助成金や共同研究体制さらには人事面も含め、産業界が大学研究教育の舵取り役を多少なりとも担っている。

 このような事情の中、日々改定を続ける大学カリキュラムに目をやると、大学では下のような順序で改定改革が行われている。
(1) 文科省の方針に沿って、教養教育や学際的アプローチ(いわば文理融合)などの重視を、大学が方針として打ち出す。
(2) それに応じて各学部・学科が大学全体の方針を反映したカリキュラムを作る。
(3) 同時に所属教員全員に意識改革が求められる。

 このとき、現代の日本の大学において文理融合型リベラルアーツ教育を行う際の困難が、浮かび上がってくる。それを挙げてみると、
(1) 少人数によるグループワークなどを行う場合、クラスが増えてしまって担当教員の確保と同時に時間割の圧迫、教室数不足という物理的問題が生じる。
(2) 担当できる教員がいたとしても、その教員にかかる負担が大きく、元々自学科の学生に専門を教えている教員にとって共通系科目の負担が大きくなりすぎる。これは研究活動の時間を減らし、また専門性が分散することも加わって昇格に影響を及ぼす。
(3) 学生のモチベーションに差が大きく、教員の不慣れも含め授業が盛り上がりにくい。1年次学生が入学後いきなりやる気をなくし単位を落とすという状況にもなりかねない。
(4) そこに新型コロナ禍のオンライン授業時代が来て、さらに授業運営が複雑になり、担当教員、履修学生双方の疲弊も大きくなる。


 既存の担当科目の中で文理融合的視座をもてるなら、それを積極的に担ってくれる教員がいれば、そしてその試みがまっとうな授業として成立するなら、上記の副作用を最小限にできるだろうと思う。

 理系学部の中でその可能性を秘めた科目として、基礎実験科目が大変貴重な役割を果たせると、私は思っている。


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