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Spotify、AppleMusic、AmazonMusicを比較(関連アーティストの表示について)

関連アーティストの表示

その充実度の比較


これまで、ストリーミング配信サービス3社で、ハイレゾ再生について書いてきたのでAmazonMusicとAppleMusicの比較が多かったが、関連アーティストの充実度で言えばSpotify。特にマイナーなアーティストを探したいとか、そのジャンル初心者である場合は関連アーティストの充実度やアーティスト・プロフィールの充実度はその先の視聴行動がどこまで広がるかに関係してくるので重要だ。

その点においてはAmazonMusicは大きく遅れをとっていて、関連アーティストの表示が3社の中でいちばん不足している。たとえばクラシックなんかは特に、初心者にとって右往左往するジャンルだと思う。鍵盤、管楽器、弦楽器の各アーティストで検索もすれば作曲家で検索もするだろうし、ソロ・アーティストとオーケストラでも変わってくる。せっかく配信楽曲がたくさんあって聴き放題なのだから、この機会にクラシックも、聴いてみようかなと思う潜在的リスナーも少なくないはず。

だけどどこから検索していいのかわからない。だから聴かないという人もいると思う。だってAmazon Musicサティ(エリック・サティ、作曲家)を検索しても、出てくるのがアルバム2枚程度で映画「蜂蜜と遠雷」のサントラともう1-2枚程度だったりするし、そもそもサティとエリック・サティのアーティストページが統合されていない。関連アーティストもベートーベン、ショパンなどの作曲家が並んでいて、「そこはそうじゃないだろう!!!」と血圧が上がりそうなラインナップで、その他が何故か「のだめカンタービレ」だったり坂本龍一だったりする。その辺りが出てくるだけでは、せっかく映画「蜂蜜と遠雷」でクラシックに興味を持った人がいても小さなループから抜け出せず、それ以上聴く機会がなくなるだろう。エリック・サティを検索したら、サティ作品といえばパスカル・ロジェ(ピアニスト)くらい並べておいてくれないと先に行けない。サティに限ったことではなく、ベートーヴェンを検索しても関連アーティストにダニエル・バレンボイム(ピアニスト)は出てこないしショパンを検索してもウラジミール・アシュケナージ(ピアニスト)は出てこないしバッハを検索してもマルタ・アルゲリッチ(ピアニスト)が出てこない。これはSpotifyやApple Musicでは当たり前に関連づけられている流れであり、クラシック初心者の私もApple Musicで随分、クラシックを聴く機会と時間が多くなった。より多くのジャンル、アーティストに興味を持ってもらって消費購買活動に繋げてもらうっていうのが、建前だけだとしてもサブスクの使命なのだから、そこはきちんと機能してもらいたいし、そういう意味で言えばAmazonMusicの関連アーティスト表示は雑でやる気が感じられない。

自動再生ステーションに信頼ができるのか

私のベッドルームにあるEcho Show 8の画面にはAmazonMusicのおすすめがちょくちょく表示されるのだが、「オアシスを聴いてる人へのおすすめステーション」とか「グリーン・ディを聴いてる人へのおすすめステーション」がわりと頻繁に表示される。オアシスに関してはここ数ヶ月の間で1-2曲再生したかもしれないが、グリーン・ディは私は元々、家で自主的に聴くことはない。明らかに、「下手な鉄砲数打ちゃあたるけど、とりあえず年齢と視聴傾向で可能性高そうなのから出しとくか」という惰性を感じるので一度も開いていない。きっとグリーン・ディのステーションを開けば高確率でグッド・シャーロットフー・ファイターズが流れるんだろうと思うと、わざわざ何を再生するかの自己決定権を放棄して勝手に流れてくる音楽に耳を向ける気にはならない。

その差はフィルタリング


この差はリコメンド機能に採用されているフィルタリングの違いが決定的なようだ。ひとつはSpotifyが採用している再生履歴などを基にした協調ベースフィルタリングで、もうひとつは日本のAmazonのショッピングサイトが採用している、類似商品を並べる内容ベースフィルタリング。ちなみに同じAmazonでも米国のショッピングサイトの方は明らかに違うアルゴリズムを使ってると体感できるくらいに、リコメンド機能の精度が高いので米国の方はショッピングサイトもAmazonMusicも、リコメンド機能は日本のと比較にならないレベルの違いがあるため、そこは留意してほしい。

日本ではリコメンド機能が普及したのが米国と比較しても遅かった体感があるが、出遅れただけでなく米国の「消費者が求めるものを予測して提示する」ではなく「自分たちが売りたいものをいかにして見せて売るか」が優先されているため内容ベースの類似商品の提示で進化が止まってしまい、その先にいけない。これは広告代理店の広告ビジネスの根幹である「売りたいものをいかに魅力的に見せて売るかが腕の見せどころ」という発想からどうしても抜け出せず、「意思を持った消費者が自分から求めるものを目の前に出して買わせるのでは広告の存在意義の根幹に関わる」という抵抗感が払拭できないからなのだろう。

リコメンドが変える消費行動


AIに仕事を奪われる未来について、日本だけでなく世界中が何年も議論を闘わせてきている。私自身もAIに仕事を奪われたくないヒューマンである。しかしECショップのリコメンド機能に関して言えば、これはAIにお願いした方が消費行動が捗るのではないかと思っている。ソースが私自身で恐縮だが、米国のAmazonショッピングサイトや米国のiTunesStoreのリコメンドの精度が上がり始めた00年代、私はそれまで知らなかった良質なバンドをいくつもAmazonショッピングサイトやiTunesStoreで見つけているし、それらのサイトでアーティスト・ホッピングをし始めたら2時間くらいあっという間に過ぎてしまうほど、クリックする楽曲がいちいちツボをついてくるのだ。その結果、私が購入するCDの数は有意に増えた。消費者が潜在的に求めるものを察知、予測して提示して購買活動に繋げる方が、消費の冷え込んだ日本では期待できる戦略になると思う。もう広告代理店が売りたいものを作り込んだ広告で提示して、そこに消費者が飛びつくほど、日本経済のスタミナは残っていない。

求めるものと売りたいもののはざま

その葛藤のバランスをうまく利用しているのがAppleMusicだ。アーティスト解説をきちんとしたライターに外注してるAppleMusicのアーティスト・プロフィールは読んでいて気持ちがいいし、安心できる。関連アーティストでアーティスト・ホッピングをしている中、知らないアーティストに興味を持った時、Spotifyではレーベルが提供した英語のプロフィールが入ってなかったら、あとはInstagram、Twitterなどの本人アカウントのSNSが表示されるのみで、どこからどう出てきたのかその出自も出身地も何もわからないままになることが多い。そこでプロフィールだけでなく経歴や音楽的な分析も織り交ぜたライターのレビューがあると、より興味が持続する。

ただ、完全に網羅されている訳ではないのが物足りなさを感じさせる。配信楽曲数が拡大する一方だから追いつかないのもわかるのだが。関連アーティストの表示も、Spotifyほどの充実度ではないものの、AmazonMusicほど酷くもない。ある程度はホッピングしていこうと思えるくらいの関連アーティストの並びになっている。それに比較するとAmazonMusicのリコメンドは(それこそレコード会社でもなく)広告代理店の営業が手動で入力でもしてるのかと思うほどの稚拙さだ。

リコメンドの充実度で出会いが変わる

AmazonMusic Unlimitedに再加入してから2ヶ月、AmazonMusic Unlimitedの使い勝手を検証するべくAppleMusicもSpotifyもほぼ放り出してひたすらAmazonMusicで音楽を聴いてみたが、驚くほど、知らない、未知の音楽に手が伸びなかった。関連アーティストを必ず見るようにしていても、その時に聴いてるアーティストより無名のアーティストが表示されていなかったり、知ってるアーティストばっかりだったり、中には関連アーティストがほとんど載ってない場合もあった。その結果、パッと思いついたアーティストを名前で検索して開いて聴き、気に入った楽曲をプレイリストに入れるという挙動が中心になって、新しいアーティストを探すという挙動に繋がらなくなってしまった。

ストリーミング配信サービスのユーザーの傾向として、ヒットチャート系を聴く人たちは繰り返し気に入ったものを聴く傾向があり、そもそもヒットチャート系ならニュー・リリースのプレイリストも充実しているのでわざわざ探す手間もなく、そうしたプレイリストを開いて気になったものを再生していけばいいのでAmazonMusicのホームを見ても、不満に思うことはないと思う。それに対してインディー・リスナーは同じものを繰り返し聴くことはあまりなく、常に新しいものを探そうとする傾向があるそうだ、私のように。そうした人にはAmazonMusicだけ、だと満足感は得られないかもしれない。SpotifyとAmazonMusic、両方のアカウントをうまく活用する方が、視聴行動が満足いくものになるのではないかと思う。


今日の1曲



今日のパンが食べられます。