小説「ヒーロー」

出席率を誤魔化すために、私は学校が呼んだ(そのために費やす予算が前年に組んであるのだ)なにがし研究所所長による「子どもにやる気を出させるため」の公演を聞いている。そしてはっきり思っている。『お前に誰も救えない』。私はもうじき40になるけれど、30年前の義務教育というと教師が竹刀を持って自習中の教室をうろうろしていたもんだ。ほんとうです。そして、ふざけとる、とかなんとかではしこーんと肩口をやられたものだった。つまり私は、私たちは、教え込まれる、押さえ込まれるという行為に対して免疫過剰になっているのである。下手をしたら、死ぬ。息が出来なくなって死ぬ。だから、このじいさんには誰も救えないのだ。長い、時間をかけて、淀みに淀んだ水の更に底に沈んだ汚いもの。それが私たち40代。小さな、小さなものでなくては信頼なんて出来なくなってしまったのだ。

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