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『アイアンクロー』映画感想文【家父長制の呪い】

『アイアンクロー』映画感想文。
大変素晴らしい映画だった。コナンの映画がスタートし、上映回数が激減しているので気になっている方はお早めに!!

プロレスが大好きなジェーン・スーさんが激推ししていたのをTwitterで読んで気になり、仕事終わりに映画館へ。
プオタまではいかないものの、私も数年前まで後楽園ホールや国技館にプロレス観戦する程度にプロレスはそこそこ好きだし観る方だった。映画のモデルになっていたエリック兄弟については「名前聞いたことあるかな?」程度の知識しか持っていなかったが、プロレスを知らない人でもじゅうぶんにストーリーを味わい尽くせる映画だった。
ポスターを観るに「チャンピオンベルト掲げてるしレスラーとして成功するまでの感動系サクセスストーリーでしょ~」と思い込んでいたのだが「家族&家父長制の呪い」がメインの話でちよっとびっくりしてしまった。

以下、ネタバレを含みますので未見の方はご注意を。

ザック・エフロンがムキムキになりすぎて彼だと本気でわからなかった

1980年代初頭、元AWA世界ヘビー級王者のフリッツ・フォン・エリックに育てられたケビン、デビッド、ケリー、マイクの兄弟は、父の教えに従いプロレスラーとしてデビューし、プロレス界の頂点を目指していた。しかし、世界ヘビー級王座戦への指名を受けた三男のデビッドが、日本でのプロレスツアー中に急死したことを皮切りに、フォン・エリック家は次々と悲劇に見舞われ、いつしか「呪われた一家」と呼ばれるようになっていく。

『アイアンクロー』映画.comより

この「次々と悲劇に見舞われていく」展開がめちゃくちゃ辛くてストーリー後半は本当にキツかった。明らかな死亡フラグが次々と画面に出てきて「もうやめて…」と思ったくらい。
元プロレスラーの父の「強くあれ」「男らしくあれ」という言葉と行動が兄弟たちをどれだけ締め付けていたのか、しかも父本人はまったく気づいていない様子なのがさらにキツイ(何か問題があっても「兄弟で解決しろ」の一点張り)。「強さ」と「タイトル」に縛られていた父親が一番悲しい存在だったのかも。アメリカ的家父長制が色濃く出ていてとてもしんどい。そんな中、互いに想い合う兄弟たちが尊くて…その尊さと悲惨さの対比も余計にきつく感じてしまった。

プロレスのシーンや大会会場の映像は臨場感があって本当に中継を観ているよう。プロレスファン大歓喜案件。ブルーザー・ブロディも出てくる!

北村紗衣先生のブログにも書いてあったけど、この兄弟たちはほとんど女性の影がない。モテたいためにスポーツをやっているという気持ちは一切ない。コミュニケーションの世界は家族中心。ケビンは父親の期待に応えたいために他人との関係を持たなかったのかも…と考えると本当に悲しいし、その辛さから解放され涙するラストシーンにつられて泣いてしまった。

ちょっと話はそれるけど、映画の中でケビンの妻となるパムが「プロレスって台本あるの?」「ヤラセなの?」と聞いていて「ヒェェェ…!!」となった。それ、プロレスラーに一番言っちゃいけない言葉やん!!!とヒヤヒヤしてしまった。
一部のプロレス選手やプロレスファンなら「あぁん!?!?何いってんだコラ!!!!!」というブチギレ案件だが、ケビンは苦笑いするのみ。感情をあらわにすることがない(できなかった?)のがまた切ない。

しんどいので「もう一度観たい!」という映画ではないのだけど、じわじわと体に攻め込んでくるタイプの映画だった。おすすめです。


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