ラッハ・マク! プカプカ!

 (第三回) 密林と猿

 さあさあ子供たち。
 みんな集まったか?
 よしよし、ではプカプカの話をはじめよう。
 昔々、本当に昔々のおはなし。
 この世で最初にムングの絵札(※1)を作った少女、プカプカのおはなしをな……。

    *     *     *    

 プカプカの耳元で、ひゅうっと風が鳴った。
 あらゆる風の神の中で最も身近な神、フェム(※2)の作る風。
 気づいたときにはもう遅かった。彼女は、細い道から足を踏み外してしまっていた。
 目も眩むような高見から――密林の上をゆく秘密の道、“森と空の境目”から落っこちたのだ。
 ムングが張りめぐらせた自然の街道。樹木の高所に絡み合った蔓草が無惨に食いちぎられ、まるで落とし穴みたいにほつれていたせいだ。
 ひどい! この道をゆけって言ったくせに!
 こんな罠があるなんて、教わってないわ!?
 落ちながら、必死に手近の枝に手足をのばす。若い枝がたわみ、葉がざわめき、幹が震えた。
 女絵師の白くほっそりとした指が、湿った葉や、しっとりした枝を手当たり次第につかむ。
 だが、枝葉はあっさりと千切れて落ちた。
 それだけではない。小枝や葉についた虫、ヌフッツァ(※3)に削られた緑灰色の地衣類までが一斉に地面へと降り注ぐ。
 ひんやりとした湿気に満ちた密林の底に、ばさりばさりとニーカリ(※4)のような音が響いた。
 あとは彼女自身が真っ逆さまに落ちるだけ――それも、城壁より塔より高い密林の天辺からだ!
「いや~ん! 誰か助けて~っ! あたしはムングの使いで来たのよっ!」
 プカプカの悲鳴は、けたたましいコヌクァ(※5)の鳴き声にかき消された。
 海辺のモヤの実(※6)のように木から落ちた少女は、ひときわ大きなばさりという音を立てて、枝の途中で止まった。
 じたばたしていた脚が枝に引っかかって、膝を曲げたまま逆さまにぶら下がったのだ。
 密生した木々の中程での奇妙な逆さ吊り――長旅に重宝する土色のホィリィ(※7)は幕のように垂れ下がり、その下に着た、角度によって様々な色合いの緑色に変わるハンムー織のツンクェロ(※8)も露わになっている。
「ふう。助かった……のかな?」
 ぷらぷら揺れながら、少女はそっとつぶやいた。
 木の幹に垂直に止まったコヌクァが「クァクァール!」と叫んで、極彩色の飾り羽根を冠のように逆立て、つきだした長いくちばしを左右に傾げては、片眼でこっちを見張っている(※9)。
 紙芝居の道具を村に置いてきてよかった……逆さの姿勢で、プカプカはホッと胸をなで下ろした。でなきゃ、今ごろ商売道具を密林にばらまいてしまっていたところだ。
 せっかく描いた絵(※10)も、両親の形見の絵具も、買ったり自分で採取したりして少しずつ集めた顔料も何もかも……。
 やっぱり用心して正解だった。
 なにしろ、この世で「ムングのお告げ」ほどいい加減なものはない。もちろん、カナンの隅々にまで遍く存在する神々は、古きも新しきもみな、約束は必ず守る。ただ、必要以上のことは、何一つ告げてはくれないのだ。見返りにどんな不幸が待っているかなど、誰にもわからない。
 とはいえ、プカプカはそれを承知でムングの使いを買って出たのだ。
 そう、まだ見たこともない神の姿を絵札に描きたい一心で、それこそ“バシルの卵採り”(※11)に来たというわけで……。
「あっ! 待ってよ、まさか……!?」
 逆立った柔らかな髪をそよ風にくすぐられながら、大事なものをなくしていないかごそごそと確かめる。腰袋に入れた素描のための道具と、懐にしまった絵札の束……。
「……あった。ああ、よかった」
 これさえあれば大丈夫。少々のことではへこたれない。でも……。
「ぶら下がったままじゃ、困るわね」
 つぶやく間に、さっきのコヌクァは警戒音を発しながら飛び去っていた。
 プカプカが振り子のように下がっている周りには羽虫がぶんぶん飛び交い、蔓や葉には黄や赤のぷっくりした虫がもぞもぞと這っている。木の幹は、気の荒そうな黒蟻たちの縄張りだ。
 刺されたら酷いことになる毒虫ばかりだが、プカプカは大して気にかけてはいなかった。
 旅から旅の紙芝居師らしく、少女のうなじには虫除けの刺青が施してある。刺青に浮き出た汗が、密林や砂漠の毒虫の嫌う呪いを放つのだ。
「……頭に血が上っちゃうわ」
 ふうっとため息をつくと、彼女は昨日のことをぼんやりと思い出していた。こんなことになるとは思わなかったのだ。あの森外れの村で、ムングに出くわすまでは……!

 フェデという名の村だった。
 人の住む世界(※12)の外れにある小さな村だ。もちろん、ずっと西か東へ迂回すれば、さすがの大密林も途切れるときがくる。もっと南にも人の集落があるかも知れない。
 でも、少なくともモロイラク湖の岸辺では、ここより南、密林の奥には人の住む土地はない。
 そんな辺鄙なところにある村だから、プカプカのような女紙芝居師が訪れるのは珍しかった。
<――と、そのとき! 黒覆面は王の追っ手を振り切るや、ひと飛びで城壁に飛び乗った――>
 だから往来で彼女が始めた芝居、“クンカァンの義賊王”(※13)が佳境に入る頃には、村人のほとんどが、密林の午後の蒸し暑さも忘れて、伝説の義賊の活躍に魅入っていた。シクのゴレ(※14)で同業者と“スアミルの呪い”と交換した活劇は、都でも村落でも受けがいい。
<――カンダリ神の御加護か、黒覆面を助けようとわいて出たニア(※15)の群れが、王の役人たちにそれっとばかりに飛びかかると――>
 王冠を頂戴してまんまと逃げおおせる義賊――その最後の一枚を終え、締めの言葉を告げると村人の喝采を浴びながら一息つく。
 貨幣や金属粒を入れる木鉢と食べ物を入れるテイナ籠(※16)に、熱演の報酬が放りこまれるのを期待したときだった。
 観客たちの背後から大声が響いたのだ。
「その下らない芝居をやめろ! 我らはムバラズ王の使いだ!」
 往来の喝采は、瞬く間に静寂に変わった。せっかく集まっていた観客たちは、そそくさと簡素な高床式の住処へと散っていってしまう。
 ムバラズは、残虐で知られるシクの王だった。フェデ村は直接の王領ではないが、シクの一部には変わりないのだ。
 声の主は、短い槍や奇妙な工具を手にした赤銅色の肌の集団――王の故郷である北シク山脈の山岳兵――ベレガワ(※17)と呼ばれる王直属の精鋭兵たちだ。
 どうしてこんなところに? 強国シクが狙う地は北に東にいくらでもある。ここより南に人はいないのになぜ……?
 プカプカが考えている間に、ベレガワの一人が逃げ遅れた村の若者をつかまえていた。
「長はどこにいる? 我らは長に用がある」
「今は……いない……長は、でかけていない……」
 若者が怯えたように答えると、兵士が彼の胸ぐらをつかんだ。
「どこへ行った? 密林の奥か?」
「し、知らない」
「そうか。『奴ら』に会いに行ったのだな?」
 ベレガワたちは若者を取り囲み、槍ではなく鉤と鍬をあわせたような奇妙な工具を突きつける。岩登りや、城壁を崩すための道具だ。あんなもので目を突かれたり、腕を挟まれたりしたら……!
 村人たちは、それでも遠巻きに見ているだけだ。
 芝居道具を片づけると、プカプカは棒きれで地面に線を描き始めた。
 わざと大きな声で独り言を口にしながらだ。
「シク王の暴政を伝える紙芝居か――うんうん、これは面白そうね。私はこれからクンカァンにも行くし、ハンムーにも行くけど……きっと大いに受けるでしょうねえ」
 ベレガワたちが一斉にふり返った。
 自分でもバカなことをやったのはわかっている。ただの紙芝居師、それも若い娘が、たった一人でベレガワの一連隊に喧嘩をふっかけたのだ。今日の見料を不意にされたぐらいでやることではない。
 でも、戦場でもないのに目の前で人殺しを見過ごす気はなかった。
 紙芝居には紙芝居の戦い方がある。
 線画は、ごくごく簡単なものだったが、ベレガワたちの乱暴そうな様子をわかりやすく描き出していく。
 若者を乱暴に突き放すと、山岳兵たちはこちらをにらみつけた。
 にやにやと笑いながら、ゆっくりと脅しをかけるような足取りで近づいてくる。
「絵芝居の娘、大した度胸だな」
「あらお武家様、とんだ誤解です。物語だけでなく、自分の見聞きしたことを伝えるのも私たちの生業ですから。それだけです」
 くるくるっとよく動く少女の大きな目が、のぞきこむようにしてベレガワの顔ぶれを観察する。
 乾燥した岩山育ちの彼らは、密林の蒸し暑さを気に入らないようだった。シク王の精鋭として鍛え抜かれた身体と精神で、その不快感に耐えているのだ。
 先頭にいた、顎先に傷のある隊長格の男が低い声で言った。
「では、貴様に聞こう。村の長はどこにいる?」
「知りません。私だって着いたばかりですもの」
「無理やり聞き出す――という手もあるぞ。我らの道具で、お前自身に『事実』とやらを刻みつけ、二度と絵など描けない身体にすることもな」
 ベレガワの隊長は、仕えている王の残虐さをそのまま真似たような声色で脅すと、部下たちが卑猥な笑みを浮かべた。
「お好きなように。でも私が死ねば、シムサオ神(※18)があなたたちの非道を全ての葉に描くわ。それを見たカナン中の紙芝居師が絵にするわよ」
「我らが守護神、偉大なるン・グラドが、たかが小虫の神ごときを恐れるものか」
 ベレガワたちは声を出して笑った。
 脅しが脅しにならない――為政者にさえ、紙芝居師の力を理解しない者は多い。王の言いなりに戦い、城壁を壊し、穴を穿つだけのベレガワには到底理解できないのだろう。
 さっきまで若者に向けられていた道具が、ぐいっと少女の小麦色の肌に押しつけられる。
「待て――」
 遠巻きに眺めていた村人の中から声がしたのはそのときだった。
「長は、密林の道を外れて南に丸一日行ったところにいる。立ち枯れたモヌレの老木が目印だ」
 ハッと顔を上げたプカプカは、声のしたほうを見やった。村人たちは、まだ心配そうにのぞきこんでいる。誰かが村長の居所をしゃべったのを非難している様子もない。というより、今の声は村人には聞こえていないのだ。
 このムングサ(※19)は……?
 村人の輪の中に見覚えのない老人がいた。禿げ上がった頭とは対照的に真っ白な長い顎髭をたっぷりと生やした、目の大きな奇妙な老人が。
 老人はプカプカをじっと見つめていた。彼の姿は、ベレガワや村人の目には映っていない。プカプカだけに見えている。そして、ベレガワには声だけ聞こえるように話している。村人の誰かが言ったと見せかけるために……。
 隊長が怒鳴った。
「よかろう! 誰だか知らんが賢明な者がいたようだな。もし嘘だったら、村を焼き払う」
「嘘は言わんよ。わしは嘘は言わん」
 老人が答えた。
 隊長が満足げにうなずく。
「ふん。娘、命拾いしたな」
 舐めるような目線が上から下までプカプカを通り過ぎ、ようやく尖った道具が引っ込められた。
「いくぞ!」
 素早い動作でベレガワたちは踵を返した。
 山肌を転がる岩のように騒々しく、彼らは走り去っていった。密林の奥目指して――。
 わけがわからない……というように、村人たちは顔を見合わせ、ひそひそと話し合っていた。ベレガワが、何やら勝手に納得して、出ていってしまったからだ。
 と、紙芝居が終わったとき以上の喝采が沸き起こった。木の実や金属粒が、雨のように降ってくる。
 話し合った末に、どうやら「紙芝居の娘が口先一つでベレガワたちを追い払った」と思ったらしい。
 プカプカは、しかたなくお辞儀してそれを受け取りながらも、老人から目を離さなかった。
 彼は、意外なほど速い足取りですぐそばまですり寄っていたのだ。村人たちは、まったく気づいていなかった。
 老人が、奇妙に甲高い声で言った。
「紙芝居の娘、お前の噂は聞いている。お前が札に描いたムングたちから聞いている」
 彼女にだけ聞こえる声だった。
 しかたなくうなずく。
「あらそう。でも、どうして助けてくれたの?」
「お前に頼みがある。ムングの頼みだ」
「ムングの……ですって!?」
 呪人ではない。やはりこの老人はムングなのだ。しかも、さっきの口ぶりからして、まだ札に描いたことのないムングだ。密林には無数のムングがひしめいている(だからこそ、この村を訪れたのだ!)。その中の誰かなのだろうか?
「ベレガワが行く。小さなムングは危険になった。小さなムングは人の手に守られている。密林の奥でひっそりとしている」
「それで、私にどうしろっていうの?」
 さっきのベレガワたちと関係があるのだろうか? だとしたら、とても何かできるとは思えない。なにしろこっちは、ただの紙芝居なのだから。
 小声でそう告げると、老人は首を振った。
「お前はムングの絵を描きたいのだろう? ならば来るがよい。“森と空の境目”を走って、あのベレガワより先に、守り手に知らせて欲しい」
「ムングなら、私が行くよりもっと早く知らせられるんじゃないの?」
「物事には複雑な理があるものだ。お前でなければできぬ。ムングの姿を拝めるぞ」
 本当だろうか? たった今、このムングがベレガワの乱暴から救ってくれたのは確かだが……。
 人間が信用していいムングなんて、本当に数えるぐらいしかいないのだ。しかも、こんな密林にいるムングなんて……。
 そうは思ったが、誘惑には抵抗できなかった。
 気づいたときには、小さくうなずいていた。
「わかったわ。荷物を預けたら出発する。その、“森と空の境目”とやらはどこにあるの?」
 老人は密林の木々を見上げた。
 つられてプカプカも村の外、びっしりと蔓に覆われた密林に目を向ける。
「用意が終わったら、木の前に立て。“森と空の境目”まで、連れていく」
 老人は、そう告げると姿を消した。かき消すようにいなくなってしまったのだ。

 で……こんなことになっちゃったのよね。
 ぶら下がったままのプカプカは、ふうっともう一度ため息をついた。
 木の幹を前に立った途端、ニアの鳴き声がして、彼女は密林の上方に運ばれていたのだ。
 “森と空の境目”とは、密林の木々の上に巡らされた蔓の橋だった。
 夜通しそこを駆け抜けて、プカプカは南へと向かった。ベレガワより早く着かねば――と、ムングがしつこく念を押していたからだ。
 ベレガワが来ると守り手に伝えてくれ――と。
「ともかく、道に戻らないとね……」
 そう思ったときだった。
 引っかかった木の枝、すねの辺りで、何かがもぞりと動いた。
 ねっとりとした感触――まるで、誰かが大きな舌で肌を舐めているみたいだった。
 虫ではない。とすると……。
 クニウニ(※20)だ!
「き……気持ち悪いっ!」
 脚をばたばたさせたいのをじっと堪える。
 そんなことをしたら、真っ逆さまに地面まで落ちてしまう!
 でもでも! このままクニウニが歩き続けたらどうなっちゃうの? ぬるぬるした塊は、プカプカの肌が気に入ったのか、垢を削りつつ、すねからゆっくりと膝へ向かって這い進んでいる。このまま螺旋を描き続けたら、内股へと迫りかねない。そうなっても、果たして自分はぶら下がっていられるだろうか?
 何とかして身体を起こそうとする。と、ぬるぬるっとクニウニが太股をくすぐる。力が入らない。
「誰か……た、助けて……」
 ギャッギャッと鳴き声が返ってきた。
 ニアだ。上の枝に何匹かニアがいる。
 なんという種類かは知らないが、枝を走ってきたうす茶色の毛皮に覆われた一匹が、太い尾を枝に巻きつけて白い腹をさらした。彼女の真似をしてぶらさがっておいて、ギャッギャッと笑いかけるように鳴く。
 べつの一匹が、プカプカの足を這っていたクニウニをひょいとつまみ上げた。
「あ、あら。ありがと」
「ギャッギャッ」
 目の前に蔓が下がってくる。
「これにつかまれっていうの?」
「ギャッギャッ」
 信じていいのだろうか?
 カンダリ神の加護、と思っていいのだろうか。カンダリは人好きのする猿のムングだ。ずっと前に、なんとかなだめすかして札絵をものにしたことがある。
 野生の神にしては、人の話のわかるほうだけど……あまりにいたずら好きで気まぐれなムングだ。大丈夫だろうか?
 恐る恐る、蔓をつかんでみる。
 しっかりとした手応え……他に巻きつけておいて、膝を伸ばして枝から足を放す。
 途端に、ぐうんと蔓が振り子のように振れた。
「ええっ!? ま、まさか!?」
 プカプカの耳元で風が鳴る。
 ふわっと次の蔓が向こうから飛んでくる。
 大あわてでそれをつかむと、今度の蔓は大きな立ち枯れた老木めがけて振れていった。
 ぶつかる寸前で足をけり出し、なんとか太い枝にすがりつく。
「これって、目印にしろって言ってた……!?」
 きっとそうだ!
 ベレガワたちは、ここを目指して密林をかき分けているに違いない……。
 老木の下で、大勢の話し声がしたのはそのときだった。

    *     *     *    

 おっと、今日はここまでだ。
 つづきはまた今度。
 ラッハ、マク!

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(第三回の注釈)
※1:色々な神が描かれた小さな四角い紙片。占いや神事に使われる。紙片の種類や枚数は地方や神殿によって異なる。大昔に旅の絵師プカプカが作ったとされる。
※2:自ら動いている者の周りに吹く風の神。疾く駆けしものの神、ファシャンの妻神として知られる。
※3:踵が露出している履き物(サンダルや草鞋など)のこと。カナンでは、こちらのほうが靴よりもポピュラーな履き物。いくつかの種類があり、名前も細かく決まっている。
※4:カナン全域で見られる激しいにわか雨、スコール。
※5:密林に生息する嘴の大きくて長い鳥。雑食で、主に果物や蛇などを食べる。「クァと鳴く」が名前の由来。
※6:椰子の実のこと。子供ほどの大きさがあり、重く硬い。
※7:フード付きの外套の意。ホィが帽子で、リィが上着。
※8:半袖の服と短パンのズボンという出で立ちのこと。ツンクとエロを合わせた言葉。
※9:両眼が頭の側面近くについているため、興味を持ってはっきりと見定めたいものは、こうして片眼で見つめる習性がある。
※10:自分が使うばかりでなく、他の紙芝居師と交換したり、大きな都の組合で買い取ってもらうこともある。当時、紙芝居用の絵は芸術品とは考えられていなかった。
※11:カナンのことわざ。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」と同意。バシルは凶暴な肉食の鳥。
※12:ここでいう「人」とは、カナン世界の中心部に住む人間の意。北方、南方、密林の諸蛮族は、この範疇に含まれていない。
※13:クンカァンを舞台に盗賊が主人公となる物語は、この他にも数多く存在する。そのほとんどが、クンカァン以外の国で作られたもの。
※14:同業者の組合、ギルドなどの組織を表す言葉。様々な職種ごとにゴレが存在する。
※15:猿。主にジャングルに住むが、ハンムーでは愛玩動物として飼われていることもある。
※16:テイナは蔓の一種。それで編んだ籠のこと。
※17:本来は動物のヤマアラシの意。シクのベレガワは情報収集や鉱物資源確保の工兵を兼ねた特殊な精鋭部隊で、攻城や暗殺などに重用された。シクの領土拡大の陰の立て役者で、彼らが動くと「山がなくなる」とも言われた。
※18:シムサオは「マンガ」という小さな虫の神。大きな葉を食う虫で、まるで絵や文字のような跡をつけて食べる。この葉を通じて、シムサオが予言を残したり遠くの事件を伝えることがあるという。なお、この虫を潰した汁は文字や絵を書くための上等の墨となる。故に、絵師や文人の守護神とされることが多い。
※19:「神の気配」ぐらいの意。ムングとは「神」のこと。
※20:密林に棲む陸棲の軟体動物。ウミウシのようなものらしい。

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 (第四回) 黒く小さな神

 さあさあ子供たち。
 みんな集まったか?
 よしよし、それじゃあ、つづきをはじめよう。
 昔々、本当に昔々のおはなし。
 この世で最初にムングの絵札(※1)を作った少女、プカプカのおはなしをな……。

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