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中原昌也の『あらゆる場所に花束が......』について

 中原昌也の『あらゆる場所に花束は……』は2001年に上梓され第14回三島由紀夫賞を受賞しているのだが、毀誉褒貶に晒されたまま今日に至っている。とりあえず最初に「あらすじ」を試みてみようと思う。

 冒頭は青年のコミュニケーション能力を向上させるための研究所である『醜いアヒルの家』と呼ばれる場所で入所者の徹也が小林にボコボコにされている場面である。小林は絵葉書工房も所有している。
 その絵葉書が送られてくる恵美子は陽子がオーナーを務めている美容室で働いている。ひと月前に小林と離婚していた陽子の店を訪れたのがルポライターの岡田康雄である。
 店の掃除を済ませて陽子が店を出て交差点で待っていると小林が運転するダンプカーで轢かれて殺されてしまう。
 徹也は茂という同僚と事故現場で血液をバキュームカーで採取して再利用するベンチャー企業で働いているのだが陽子の血液の返還を巡って口論となり、徹也は茂をボコボコにする。
 茂が目覚めた場所は園芸用品の輸入販売をしている関根の家で、関根は熱気球に関して岡田のインタビューを受けていた。その後、岡田は『醜いアヒルの家』へ向かったのだが、岡田は三人の男たちに襲われるものの、返り討ちにしてしまう。
 茂が再び目覚めた場所は友人で不動産屋を営んでいる高橋が管理人の古い家である。茂は既に血液バキュームの会社を辞めてしまっていたのだが、そこでロケをしていたTV局のスタッフに紛れて茂は公園の方に向かった。その時茂は照明係の西壁と知り合う。
 結局、西壁に騙されてタダ働きさせられた茂は同じ時期に血液バキュームの仕事を辞めた徹也と喫茶店で会っている。『醜いアヒルの家』にいる徹也の血の気の多さに茂はうんざりしているのだが、あれこれと考えている内に茂は疲れ果てて眠くなってしまう。
 テニス場の再建に関する会議は「髭面の男」が仕切っていて、「胸毛の男」は出席者の一人である。
 「髭面の男」は祐子の父親なのだが、家の近所で三人の男たちに襲われる老人という設定のTVの撮影をしていたのだが、祐子の父親は最終的に殺される老人のシーンに不満だった。
 その後、「髭面の男」は例のテニス場へ行き、クラブハウスの二階で横になりモニターを見ていた。元妻の雅子の趣味は園芸で小林という男がわざわざ育てていた蘭の花を見に訪ねて来たのだが、雅子の独善性に機嫌を損ねた小林は深夜にテニス場に侵入し全ての植物を薬品で枯らしてしまう。
 深夜に市川駅へ向かう電車が通る鉄橋の下で、徹也を含む6人の男たちがマネキンを使って極秘の殺人リハーサルをしている。そこへ一人の警官が自転車に乗ってやって来る。
 カー用品のチェーン店に勤める木田隆司はJR市川駅に着いた満員電車から降りてようやく解放された。木田は会社の得意先である小林産業を見学しに行ったのだが、従業員たちは完全な管理下に置かれていた。木田本人も体調不良が続いていたが、憂鬱から逃れることはできない。木田の方に向かって頭部から血を流している警官を乗せた自転車を6人の男たちが支えて押して来た。
 岡田が小林の研究所を訪れて、徹也を含む6人の暴漢グループに襲われた小林の話を関係者に聞きに行き、帰りに陽子の美容院に寄って恵美子に会っていたのだが、急に恵美子が飛び出して、岡田が彼女の後を追うと、駅前で白い熱気球が落ちて騒動になっていた。

 登場人物を追いながら粗筋を書いていくと、明らかに物語は破綻している。例えば、徹也は茂をボコボコにしたはずなのだが、何の展開もないまま二人は喫茶店で再会していたり、結局、陽子は死んだのか生きているのかよく分からない。
 しかし例えば、円城塔ほど読みにくいということはなくリーダブルで、作風は後藤明生に近い。文庫版あとがきで文芸評論家の渡部直己が詳細に指摘しているように「字面」を追って読んでいけば(下ネタにも寛容ならば)面白いと個人的には思う。