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働き方改革から『雇い方改革』へ

今回は、これからの企業に求められる福利厚生について書いてみたいと思います…。

こんなことを綴ろうと思った理由は、当方が運営している年中無休電話相談サービス『お困りごとホットライン』にコンタクトしてくる相談者の年代が、新型コロナを機にガラッと変わったからです。元々は相談者の8割以上が70代~80代の老親世代だったのが、現在では40代半ば~50代の現役世代が9割です。これは、老いへの関心が、当事者の問題からサポートする側のそれにシフトしたということです。

終活という言葉が市民権を得て久しいですが、まだ元気な高齢者たちが銀行が富裕層向けに開催する終活セミナーや、学生が集まらない二流大学が創設した生涯学習プログラムに参加したり、自治体等が公民館で行う市民講座に大挙して押し寄せたりしたのは、もうずっと昔のことのように思えます。コロナショックに伴う、自粛要請等による外出機会の減少は、高齢者をドカッと集めて芋づる式に関連商材を売りつけるビジネスモデルを確実に壊滅させたわけです。

が、一方で、社会設定を失った高齢者たちは身体機能が落ちてアッという間に逝ってしまったり、脳がなまって認知症を発症してしまったりするようになりました。それによって困るのは、当事者ではなく子どもたちです。

何の段取りもないままに急に『まさか』が起こったとしたら、面倒や不利益を被るのは子どもたちです。その多くは現役世代のビジネスパーソンです。ビジネスケアラーなる呼称が定着してきましたが、旧・安倍政権が2015年に打ち出した『介護離職ゼロ構想』は実現する兆しすら感ぜられぬままに、毎年コンスタントに10万人超の介護離職者を生み出し、累計で300万人にまで増えてしまいました。

不穏行動を伴う認知症に罹患した老親のための『精神病棟の確保』、要介護状態の老親を入所させるための『予算内で賄える施設の確保』、老親が完全にボケてしまう前に済ませておきたい『財産管理および財産承継』という三大ボトルネックを、賃金の67%を受給できる介護休業制度の上限である93日間では解決することができずに、なし崩し的に在宅家族介護を強いられ、職を失ってしまう…。これが介護離職の典型パターンです。

ただ、介護離職者が300万人と書きましたが、その半数以上は非正規雇用者です。彼らの場合は、介護離職による経済リスクがほぼないため、本当の意味で深刻なのは、それなりの企業に勤務する正規雇用のビジネスケアラーたちということになります。

介護をはじめとする老親問題が降りかかるのは、年齢的には40代半ばから50代です。多くの場合、中間管理職以上の要職についていますから、介護離職した場合、転職や再就職できたとしても、現実には年収ベースで半分近くまで下がってしまうケースがほとんどです。これでは、現役世代の過程のほうにも大きなインパクトとなり、介護離婚の引き金にもなりかねません。

現在、すべての企業には介護休業制度の導入が義務づけられていますが、その利用状況は芳しくありません。この8年間、俗に有識者と言われる人たちは、「制度の周知徹底が必要だ」とか、「介護の話を切り出しやすい職場のムードメイクが求められる」とか、バカのひとつ覚えのように繰り返してきましたが、的外れにも程があります。

私どもが調査する限りでは、ビジネスパーソンが介護休業を利用しない最大の理由は、『そもそも親のことで仕事や職場を離れたくないから』です。時点に来るのが、『プライベートなことを直属上司や人事担当者になど知られたくないから』。三番目が、『今後のキャリアに影響するリスクが高いから』です。

つまり、大企業を中心に講じられている『介護休業制度の充実』には、ニーズがないということになります。真のニーズは、親に何かが起きたとしても、職場を離れなくていい労務インフラの整備に他なりません。

私が調べた限りでは、『働き方改革』以降、雇用側と非雇用側の関係は希薄になりつつあります。この傾向は、金融業界と外資系企業群、それに、全国に拠点を要するナショナルチェーン企業で顕著です。要は、若くて有能な人材が多いので、老親問題を抱えているような高コスト人材にはさっさと辞めてほしいということです。

一方で、専門性の高い技術系人材をたくさん抱えている製造業界や、有能な人材の替えが利かない中小企業群などは、老親問題が生じたからといって簡単に辞めてもらっては困ります。となると、生産現場および製造現場の安全衛生や品質管理を考えた時、老親問題を抱えて業務に集中できないような職場では非常にまずいことになります。

かといって、大企業が企業イメージを上げるためだけに講じている、『外部の専門相談窓口の確保』や『有給休暇の積立制度』を導入したところで何の解決にもなりません。先述の介護離職の三大要因を、現役世代の代わりに代行してくれるプロと業務提携する以外に方法はありません。ただ相談に乗ってくれるだけでは、自治体をはじめとする地域の公的機関と何ら変わりありません。結局は、現役世代が仕事を休んで奔走するしかないわけで、本質的な問題解決になっていません。結論を言ってしまえば、保健事業者や介護事業者に相談業務を委託するのではなく、日常的に介護や医療やエンディングや財産まわりの実務を日常的にこなしている社会福祉士という国家資格者とパートナーシップを結ぶ。ザッツ・オールです。

SDGsが言葉遊びのように叫ばれている時代です。東大の学生たちが就職先選びのポイントとして福利厚生の中身に興味をしめす時代です。株主総会で、「当社のビジネスケアラー対策はどうなっているか」と問われる時代です。『働き方改革』が生み出すけっかとなったドライな雇用関係を見直し時期に来ています。

これからは、ズバリ、『雇い方改革』の時代です。今こそ敢えて、『従業員と家族をまもる会社』を前面に打ち出すのが得策です。従業員と家族が勤務先企業に大切にされていると実感できる。老親たちが娘や息子の勤務先である企業を自慢できる。そして何より、老親問題による仕事への支障を最小化できる…。そんな会社が全国に出てきてほしいと願っています。

厚労省は表立っては言わないし、マスメディアは報じないけれど、介護離職問題を簡単に解決できるソリューションは存在します。老親問題を抱えている正規雇用のビジネスケアラーと予備軍の人たちが本当に求めていること…。それは、老親問題全般に係る実務代行を当たり前にこなしているプロに、勤務先が実務代行を委託することに他なりません。

そうすることで、まだ問題が起きていない(従業員および配偶者の)老親たちに早期にそなえさせる啓発メニューまでカバーできるので、持続可能な業務体制を実現できること請け合いです。

これからは『雇い方改革』ですよ、『雇い方改革』。従業員の老親リスクを勤務先がどこまでヘッジしてくれるのか。有能な人材確保も企業イメージも、老親対策の福利厚生が浮沈を握っていますよ~ッ!

いゃ~、われながら良い話ですね。ビビッとくる中小企業経営者や人事労務マネージャーの耳に届いてほしいものです…、ハイ。

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