日本人が海外で行うスピーチを見るのが好きですが、今回の岸田首相の晩餐会でのスピーチはとても評判が良いものでした。
おそらく優秀なスピーチライターがついているのでしょう。晩餐会という場にあわせてジョークをいくつも盛り込んでいました。特に、何度も入っていた「自虐ユーモア」が私はとても印象に残りました。
自分を下げる前に誰かを上げる
地位の高い人物がユーモラスに自分を茶化すことは親近感を増す効果があります。が、それを狙ってやるのはなかなか難しいものです。
岸田氏が用いたユーモアは単なる自虐ではなく「相手を上げて、その後で自分をちょっとだけ落とす」というフォーマットになっているところが秀逸で、場の雰囲気を悪くしません。
日本人がやりがちな自虐は「私はこの分野は初心者でして・・」「とても緊張していますが・・」などのように、ただ単に「謙遜や期待値調整のためのもの」が少なくありません。これだと別に面白くもないばかりか、誰の得にもならない自虐になってしまい、効果が得られません。
他に私が好きな自虐で始まるスピーチのオープニングを2つほど紹介します。
ジョージ・W・ブッシュ元大統領のイエール大学卒業式でのスピーチ(2001)
J.K.Rowling氏のハーバード大学卒業式のスピーチ(2008年)
どちらも最初に敬意や感謝を示して、その後にクスッとさせる自虐を入れています。最初にジョークで聴衆の心をつかめると非常にその後のスピーチが滑らかに進みますね。
日米のコミュニケーションの文化の違い
それにしても、岸田首相は海外にいるときのほうが堂々としているように見えます。もちろんスピーチライターが書いた文章を読んでいるからとはいえ、目線の使い方や間の取り方など、「伝えよう」という姿勢が随所に見て取れます。
一方で、日本での国会答弁や記者会見は、とにかく失言しないようにするという「守り」の受け答えがとても多い。言葉の上げ足ばかりを取る日本のメディア対策の面もあると思いますが、結果としてあまり魅力的なコミュニケーションができているようには思えません。
これはビジネスの世界でも同じです。
海外にでは自分の意思を明確にしないビジネスリーダーは尊敬されません。私は海外拠点リーダーの「ビジョン発表」などの場によく同席しますが、自分の言葉で「Will(遺志)」を示せるリーダーの下で働きたいと部下は思っています。日本なら「あの上司は頼りないよね」と思っていてもしばらくは我慢してくれますが、海外では簡単に職場を離れていきます。それだけ、リーダーのコミュニケーションが組織の魅力を決めるのです。
今回のスピーチを見る限り、岸田首相は海外にいるときのほうが魅力的に見えるなぁと感じたのでした。