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隠ぺい──人はそれをしないでいられない

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映画「由宇子の天秤」(主演 瀧内公美)

このところ観た映画はすべて毒にも薬にもならないものばかりだった。たとえばそれは、部活動で挫折した女子高生がバイト先のオジサンに恋をする話だったり、事故で記憶を無くした元名医が何年も放浪したあげく、たまたま違法治療したのが自分の娘だったという物語だったり……。

面白くないことはないんだけど、何かこうパンチに欠けるなあ、と思っていたところ、これには久しぶりにガツンとやられた感じだ。というか、そのパンチが重すぎて途中で観るのを一回止めたほどだ。この先の展開で彼らに何か光明を見出せるのか? その可能性が一切ないように思えたからだ。

物語は、ドキュメンタリー番組のディレクター由宇子が、3年前の女子高生自殺事件の真相を放映局と対立しながらも追い求める一方で、実父が犯したあやまち──個人経営する学習塾の生徒を妊娠させた──をないものとしようと画策し、まさにタイトルにある「天秤」(英題:a Balance)のように揺れるというストーリーだ。

人はよく都合の悪い事を隠そうとした他人を

「なぜ、最初から本当のことを言わなかったのだ? そうすれば、こんな大きな騒ぎにならなかっただろうに」などと非難する。「隠ぺい体質」とか、「隠ぺい工作」とかというレッテルを貼り、ときにはそれを白日の下にさらすことに快感すら覚える。

だが、ものごとに深くコミットすれば、清濁併せ吞む局面は必ずあるし、そこでは多くが選択の余地はない。他人の隠ぺいを非難する人は、自分もそうなり得ることを無意識に自覚しているのではないだろうか。そんな自分を唾棄するように、他人を批判するのだ。

だがひとたび当事者となれば人は皆、隠ぺいしないではいられない。なぜなら皆、守りたいものがあるからだ。だから必死になって嘘をつき、隠す。だが多くの場合、守りたいものを守れないばかりか、すべてを無くす。

映画は私が予感したとおり、何の展望も開けないまま終わる。だが、由宇子は覚醒した。

画像引用元 ビターズ・エンド

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