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【あらすじ感想】長ぐつをはいたネコと9つの命

めちゃ良い映画でした!

スパイダーバースが切り拓いた2D風3Dアニメの正当な派生進化(日本語おかしいけど笑)って感じです。ドリームワークスのアニメ映画は前作『バッド・ガイズ』もかなり良かったのですが、本作では色彩とコマ抜きを用いたケレン味の見せ方が更に進化していると感じました。

とりあえず予告編は置いときますね。

▼あらすじ(ネタバレ注意):

結末まで全部書いてますので気になる人は次章までスキップ推奨します。

第一幕:
 プッスは長靴をはいた猫。人間の言葉を喋り、人間のように振る舞う、恐怖を知らないヒーローであり人間達の人気者。しかし色々と無茶をしてきたせいで、ある日、街を襲ってきた巨人を退治した直後に事故で8つ目の命を亡くす。そんな折に死神(狼)が現れて、プッスは逃亡して普通の猫を装って身を隠す。

第二幕:
 ゴルディと熊一家から伝説の「願い星」の情報を聞きつけたプッスは、9つの命を取り戻すべく、ホーナーの屋敷に忍び込んで地図をゲットするが、そこでキティと再開し、ペリート(日本名:ワンコ)も合わせた3人(3匹?)で願い星を目指す。ゴルディとホーナーもそれぞれプッスの後を追う。
 一度はゴルディが地図を奪う。地図の持ち主によって願い星へのダンジョンは変幻自在に変わる。地図を奪い合う過程でそれぞれのキャラクターが抱える記憶や心の痛みを覗き覗かれつつ願い星を目指す。プッスとキティはお互いの愛から逃げた過去があった。ゴルディは熊一家を捨てて本当の家族を欲しがるが、熊一家は悲しみつつもその願いに協力することを決心する。ホーナーは世界中の魔法を独り占めしたい欲望を露わにして、危険な道中で家来たちを見殺しにする。再び地図を奪ったプッスは心の砦に閉じ込められて亡くなった8つの命と再会して楽しく歌い踊る。

第三幕:
 プッスの心の砦にまたしても死神が現れる。砦から逃げ出したプッスは願い星にたどり着く。キティとペリートとゴルディ達とホーナーもちょうど到着して、起動して浮かび上がる巨大な光る願い星の上で地図を巡ってのラストバトルが始まる。地図に浮かび上がる呪文を唱えれば一つだけ願いが叶うのだ。
 子供熊の危機に瀕してゴルディは地図よりも熊一家を選ぶ。プッスは9つの命よりも今ある1つを大事にすると覚悟を決めて死神と対決し、死神は去る。ホーナーだけが最後まで地図に執着するが、先ほど見捨てた部下のコオロギに地図を燃やされて、崩れる願い星に巻き込まれて谷底の奈落に沈む。プッスとキティとペリートは義賊集団「チーム・フレンドシップ」を結成してこれからも活動を続ける。

▼感想:

●髪を切る行為は、心理学的にはセックスと同じ

第一幕で普通の猫を装って腐った生活を続けたプッスは髭が伸びてダンディになりますが、第二幕でキティにハサミで切ってもらい身だしなみを整えます。実は散髪という行為は深層心理学的にはセックスと同義なので、これは暗にプッスとキティが愛を交わしている場面を描いたことになります。

●いま何かと話題のコオロギも参戦(笑)

本作のヴィランであるホーナーは「世界中の魔法を集めるのが趣味」という設定なのですが、ここで集めてくる物品がいちいちディズニーでも映画化されたものばかりなのでクスッと笑えます。ファンタジアで使ってたものとそっくりな魔法の杖や、アラジンとそっくりな魔法の絨毯や、ピノキオで出てきた喋るコオロギなど、他にもまだありそうです。(笑)

考えてみると、それらは既存の昔話(つまり著作権フリー)の素材をディズニーが勝手に映画化しただけですからね。ドリームワークスが利用しても全然問題ないわけです。日本で浦島太郎や桃太郎をどこの会社が映画化してもOKなのと同じです。

しかし私が劇中で一番笑ったのは、コオロギを見た子供熊が「うわあ、しゃべるゴキブリcockroachだー!」と驚いて叫ぶ場面でした。確かに科学的にみてコオロギとゴキブリは近い種目(昆虫の中でも一番近い)でして、見た目も似てるので、子供熊が間違えるのも無理はありません。ピノキオでも原作版ではリアルな見た目(閲覧注意)で、しばしばネットでも茶化されるポイントです。ただ、奇遇にも日本社会がこんなに昆虫食で騒いでいるときに、このギャグはタイムリーすぎて笑えました。(笑)

●色彩とコマ抜きを用いたケレン味の見せ方が秀逸

知名度の問題なのかイマイチ盛り上がりにかける印象があるドリームワークスのアニメ映画ですが、クオリティはものすごく高いです。本当に騙されたと思って一度劇場で観てほしいと思う映画ナンバーワンです。ディズニーのように変に左翼リベラル思想に毒されてないので見やすい部分も多く、もっと客足が伸びてほしいと願うばかりです。

序盤のプッスが巨人と戦う画面や、ラストのプッスが熊一家や死神と戦う場面で特に顕著ですが、鮮やかに青く光る願い星や死神と接触した瞬間に画面が真っ赤になるビビッドな演出や、あえてコマ数を減らしてヌルヌル動かさない(コマ抜きと呼ばれる日本アニメに多用される技法)を駆使することでケレン味が爆上がりしていて、視覚的にとても楽しいです。コマ抜きはエヴァで庵野秀明が使っていることでも有名ですね。

●仮面ライダーとシャザムで埋もれるのは勿体無い傑作

子供向けアニメのようなルックスながら、内容は死と恐怖心をテーマに扱った結構深いものとなっており、物語の見応えもあります。決闘を前に怖気付いて心の砦で享楽に堕ちたり、愛に怯えて結婚式の教会から逃げてしまったプッスの描写は、大人だからこそ心を掴まれる部分だと思います。

またビジュアル面でも、キャラクター造形のみならず、世界観の見せ方が大変上手いです。たとえば、映画の序盤からなんとなく「このくらいの大きさかな」と思っていた願い星がラストに初登場するときにメチャ巨大なことが分かる見せ方など、本当に上手いです。ぜひ劇場のスクリーンで観てほしい作品です。同日公開がシン仮面ライダーとシャザム2ですから、苦戦しそうで懸念されます。

●名前の日本語表記が面白い

主人公はPussですが、日本語表記では「プス」となっています。私の脳内ではプースまたはプッスと表記するのが適切に聞こえました。英語では「猫ちゃん」という俗語ですね。勘が良い方はお気づきの通りプッシーの語源でもあり、すぐにヤレちゃう女の子という意味でも使われます。

『長靴をはいた猫』を原語で発音すると「プース・イン・ブーツPuss in Boots」なので、要するに言葉遊びです。ヨーロッパに昔からある民話で、出版物として固めたのは17世紀末にフランスの詩人ペローが出版したものが現在までに一番浸透しているようです。日本だと江戸時代(元禄)ですね。

ペロー版の短編を元に、日本でも昭和44年にアニメ化されましたが、その際は「猫ちゃん」と名乗るわけにもいかず、ペロという名前を与えられました。どちらかと言えば日本では犬に使われる名前ですが、フランスの原作者へのリスペクトもあったのでしょう。

長靴をはいた猫(1969年、東映)

最新のドリームワークス版では、原語を尊重してプスが採用されたようです。個人的には、不細工とほぼ同義である悪口「ブス」みたいに見えて格好悪いので、より原音に近く、かつフランス人にありそうな名前ということで「プッス」にするのがベターだったと思うのですが。(笑)

ストーンオーシャン(1999〜2003年、集英社)

プッスの恋人猫はKitty Softpawsキティ・ソフトパウズですが、日本語表記ではキティ・フワフワーテとなっています。ふわふわーて?実はソフトパウズとは英語で「柔らかsoft肉球paws」という意味なので、日本語もそれっぽく言葉遊びしたものですね。

プッスに相棒になるセラピー犬はPerritoペリートですが、日本語表記ではワンコになっています。ペリートとはスペイン語で「子犬perrito」という意味なので、日本語も合わせてワンコという言葉にしています。

フワフワーテとワンコの意訳はグッジョブだと私は思います。

●吹替版について

私はオリジナル声優が気になったので字幕版で観ました。

私は事前に調べずに、ガチで直感だけで字幕版を選んだので、エンドクレジットでアントニオ・バンデラス、フローレンス・ピュー、オリヴィア・コールマンと大物の名前が相次いだので驚きの連続でした。知った上でもう一度観たいと思えるほど自然で良かったです。

とはいえ日本語吹替版にも否定的ではありません。実際に同じドリームワークスの『バッド・ガイズ』は吹替版で観て大満足でしたし、本作も良い感じ になっていると信じています。

アントニオ・バンデラスが山本耕史というのは少しベクトルが違いますが、これはこれで良いんじゃないでしょうか。山本さんは歌もお上手ですし。

英語版は太っ腹なことに冒頭10分をネット公開してるのでこちらも貼っておきます。日本語版と同じ箇所を比較できます。参考になれば幸いです。アントニオ・バンデラスのダンディなプッスの方が私は好きかな。

本当に優れた作品なので、オススメです。

了。

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