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ある朝の食卓

 毎朝当然のように供され、小さな嬉しさは日々あるにせよ、特別大きな感動を覚えることもなくなった朝の食卓。
 当たり前の風景。
 でもそれは、独身の頃には考えもしなかったある種奇跡のような風景でもあり、だからこそ私は、毎朝シャッターを切るのだなあと思う。
 作ってくれている妻は、早く食べたらいいのにと思っているに違いないのですけどね。

@自宅
●撮影ノート
「AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S」+「Nikon D810」
FNo:4.0
シャッター速度:1/60
合成ISO:560
合成露出補正:±0EV

 私が自宅のテーブルフォト(という名のご飯の写真)を撮るのに使っているレンズは、主に「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」と「AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S」の二本。
 この両レンズは、どちらもMicroの名前に相応しくキレのあるレンズとして世間では評価されています。
 この二本、一見すると、オートフォーカスが使える使えない以外には違いの見えない、一種同じようなレンズにも見えます。
 でも私からすると、両レンズはかなり性格と言いますか、描写の違うレンズだなあと感じるんですよ。

 私がそう感じる大きな理由は、逆光時のフレアの出方にあると思います。
「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」は、今のZマウントのレンズにも通じる現代レンズの先駆けで、逆光への耐性も含めて全てが高水準。かつ等倍域でも大抵はAFで撮れてしまう優等生です。
 一方で「AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S」は、前玉に強い光が当たった場合のみならず、光点周りにも淡いフレアのようなものが発生しがちという、ちょっとオールドレンズじみた特徴があります。
 特にレンズのシリアルナンバーが800001未満のこのレンズは、同じ「AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S」でもコーティングの古い旧世代版で、フレアもゴーストも顕著に出やすいという特徴があります。
 そして当たり前にマニュアルフォーカスレンズなので、慣れないとサッとは撮りにくく、いいレンズではあるものの、お気軽感はありません。

 さて、フレアも逆光もほとんど出ることのない「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」は、食べ物のテカリなどの部分を忠実かつ精密に描写します。
 なにしろ優等生ですから。
 またトーンがマクロレンズとしては比較的ナチュラルなので、日々の記録としていい具合に食べ物が美味しそうに、かつ艶っぽく写ります。

 一方で「AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S」のほうは、食べ物のテカリや食器の反射のような小さな光源の回りに、ふんわりとした小さなフレアが出ます。
 また前玉に光が当たるとそちらの側に大きくて自然なフレアが出るので、柔らかな雰囲気を表現したいときに使いやすいです(現像でうんちゃらみたいなことをしなくて済みます)。
 加えて「AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S」は、このように逆光耐性的には古いレンズっぽさがありますが、それ以外の光学性能は現代のマクロレンズなみに高いので、締まって欲しい部分はキリッと締まり、光源や反射光回りだけ僅かにフレアを伴って柔らか。そして後ボケも自然という独特の写りをします。
 この写真のように、朝の柔らかい雰囲気は出したいけど食べ物の実体感なんかは失って欲しくないし、作り物っぽくなって欲しくもない。
――みたいな場合にはうってつけのレンズなわけです。

 というわけで私は、普段の食卓の写真は「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」で撮り、雰囲気を出したい場合には「AI Micro-Nikkor 55mm f/2.8S」で、という使い分けをしています。
 このへん、おなじ標準域のマクロレンズでも使い込んでみると随分と違いがありますし、絵筆を使い分けるかのような面白みもあるなあと思うんですよねえ。

#正しくレンズ沼への招待状

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