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懐かしの施設の閉園 星の王子さまミュージアム

 箱根にある星の王子さまミュージアムが3/31をもって閉園となった。フランスの作家・飛行士のサン=テグジュペリが執筆した小説「星の王子さま」の世界観と、作家の生涯を展示していた施設である。
 星の王子さまといえば説明不要なくらい有名な物語で、実際に読んだことがなくとも、作家自身が描いた温かみのある挿絵を知っている人は大勢いるだろう。

 やはり大きな原因には新型コロナウイルスの拡大による来園者の減少があるそう。通常の博物館施設と違い展示内容を変えづらい性質上、箱根という屈指の観光地にあっても打撃が大きかったのはよくわかる。

 私はかつて小学生のときに家族旅行で連れてきてもらったことがある。まだサン=テグジュペリの伝記も、星の王子さまも読んだことがないころだった。
 展示の内容自体はほとんど記憶にないが、20世紀フランスの街並みを再現した園内がまるで異世界のように見えた感覚は覚えている。

 その後、星の王子さまを実際に読み、もう一度行きたいと思いつつ先延ばしにしていたが、閉館の報を知って最後にひと目見ておこうと思い立った。せっかくの動機が閉館というのは悲しくも情けなくもある。そういえば、同じく星の王子さまをコンセプトにしていた埼玉県の寄居PAもちょうど2年前に事業を終了していて少し残念に思った記憶がある。

 博物館やこういった展示施設というのは恒常的に思えて、気がつくとこうしてなくなってしまうことがある。同じく3/31に閉館となる、東京ドームシティの宇宙ミュージアムTeNQも、初訪問が見納めになってしまった。行こうと思っていたうちについに行けなかった原美術館などもある。チャンスの逃さない行動力と思い切りををもっと身につけておかないといけない。

 3月最後の週末、雨にもかかわらず朝から長蛇の列ができていた。サン=テグジュペリの生い立ちを遺品や再現展示、キャプションで振り返っていく展示室は、記憶が薄れていたこともあり新鮮に見ることができた。
 伯爵家の長男という裕福な出自ながら、時に困窮しつつも作家・飛行士として評価を得ていく彼の人生は展示を追うだけでも起伏に富んで魅力的だ。

 園内をひととおり周ったあと、せっかくなのでショップも見ておきたかったのだが、その時点で90分待ちということで諦めることにした。

 開業が1999年というから、私が家族と訪れたのは比較的新しいころだったようだ。24年弱という期間が長いのか短いのかはわからない。ただ、空想の世界に連れて行ってくれるような空間が、採算性という現実的な(それ以外もあったかもしれないが)問題で閉ざされてしまうという現実も同時に感じて少し寂しくなる。
 久しぶりに来てみて、園内はこんなに狭かったかな、という印象を受けた。たくさんの来園者で溢れていたせいか、それとも自分が大きくなったせいだろうか。

 月並みな言い方になるけれど、この施設は閉園しても本質的なものは残る。ここでサン=テグジュペリの生涯に触れたことで、もう一度この物語を読んで、年齢を少し重ねた自分がそのひとつひとつの文章をどう受け取れるかを感じてみたくなった。

 ゾウをのみこんだうわばみの絵は子どもの頃からずっと好きなのだが、きっと今の私が自分の星を持っていたとしても、王子さまを長く留めることはできないのだろうな。冷たい雨が助長させたような少しの寂しさを感じながら、そんなことをぼんやり考えながら帰路についた。

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