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【お気に入りの美術館】あれもこれも書きたくて3選

 私が参加させていただいている「オトナの美術研究会」の月イチお題企画、今月は「お気に入りの美術館」。
 改まって考えてみると、あそこもここも……と色々浮かんできて絞りきることができず。そこで、絞り切れないままにテーマごとに3つを選んで書くことにした。

 1.思い入れのある美術館 埼玉県立近代美術館

 ひとつめは、一番付き合いの長い(?)場所。埼玉出身の私にとっては埼玉県立近代美術館(MOMAS)は小学生か、あるいはそれ以前から連れて行ってもらっていた美術館である。
 JR北浦和駅から徒歩5分程度、北浦和公園の中にあるという好立地で、公園内にも彫刻やオブジェが設置されていることもあり、市民生活に溶け込んでいるように感じられる。ちなみに、黒川紀章の設計ということもあり、公園内では解体されてしまった中銀カプセルタワービルのモデルカプセルも展示されている。

 この美術館の特徴は「椅子の美術館」とも称されるように、館内に多様なデザインの椅子が展示されている点。観覧料は必要だが、実際に座ることができるのが楽しい。小学生のころ、ここの子ども向け教育普及プログラム(アートの森という名前だったような……)にちょくちょく通っていたこともあり、訪れると今も安心感がある。立地のおかげもあるが、中に入っていくのに美術館特有のハードルをあまり感じないような雰囲気がある居心地の良い場所だと思う。

 企画展に関していえば個人的には守備範囲から外れてしまっていることが多く(わかりやすく名画を並べたような展覧会も多くない印象)、むしろ今の方が行く頻度は減ってしまっているかもしれないのは反省点かもしれない……。ちなみに、1階のコインロッカーの中には宮島達男の《Number of Time in Coin-Locker》(見出しの写真)という作品が隠されて(?)いるのだが、初めてみたときは時限爆弾かと思ってドキドキした。その後もなんとなく気になって、今でも来るたびにこのロッカーを覗いている。

 最後に余談だが、美術館からほど近くに大人気のパティスリー「アカシエ」がある。ケーキも焼き菓子も美味しいので、美術館に行かれたときはついでにこちらにも寄ってみてほしい。

2.落ち着いた空間がお気に入りの戸栗美術館

 ふたつめは、もっと知られてほしいと勝手に思っている美術館として、戸栗美術館について。渋谷駅から徒歩20分弱(最寄りは京王井の頭線の神泉駅)、住宅街の中にある陶磁器専門の美術館である。古伊万里など佐賀のやきものを中心として、企画展ごとにたくさんの作品が並ぶ。
 東洋陶磁といういかにもとっつきづらそうなジャンルのせいか、(失礼ながら)大勢の来館者で賑わうところに遭遇したことはない。しかし、おかげですぐそこの渋谷の喧騒がまるで嘘のように、休日でもじっくりと自分のペースで空間を楽しむことができる。
 私が戸栗美術館を好きなポイントのひとつに、やきものの基礎的な知識なども含めてとても丁寧なキャプションやペーパーを用意してくれていることがある。見慣れない用語が出てきても、そういった補助的な情報も参照しつつ、ゆっくりと展示室をめぐる時間は楽しい。むしろやきものというのは私たちの暮らしにもなじみ深いものであるから、こういう美術館を訪れたあとだと、ちょっと日々の生活でも身近な食器などの見え方が変わってくるということもある、かもしれない。
 建物の重厚な感じも、入りづらさに繋がってしまっているのかもしれない。しかし、入ってみると1階にはソファーに座れるラウンジスペースもあり、とても気持ちの落ち着く場所である。美術館を心安らぐ場所として楽しむ人にはおすすめだ。特に都内近郊に在住の方は日々の忙しさから離れて、戸栗美術館でお気に入りのやきものを探しながら、心の中で「いい仕事してますねえ」などとつぶやいてみてほしい。

3.旅先のお気に入り 細見美術館

 普段は都心の美術館を巡るのがルーティーンになっているため、私の場合それ以外の地域に足しげく通っている美術館がない。遠いなあと感じると、どうしても近場優先になる。そこで、一都三県(埼玉千葉神奈川)以外で最も行ったところはどこかと思い出してみた。
 思いついたのがお気に入りのみっつめ、京都の細見美術館(といっても回数は3回程度なのだけれど)。市営地下鉄の東山駅が最寄りで、前回私が「#旅と美術館」でも言及した京都国立近代美術館の近くにある。
 学生のときに初めて訪れた際、こじんまりとしたおしゃれな建物と、古代~近代にいたる日本美術の展示の渋さのギャップが気に入ってしまった。茶の湯の美術、仏教美術、琳派を中心とした江戸絵画……と幅広いコレクションを観ることができる。そのような収蔵品をお持ちのため、古美術の展示ばかりなのかと思いきや、過去の展示情報を見ると、古美術と現代カルチャーを融合した企画や写真、近代工芸など驚くほどバラエティーに富んでいる。私はかつて賛否両論を巻き起こしたと記憶している「春画展」の巡回会場となったのもここである。
 箱自体は大きくないのだが、展示の面白さもあって見ごたえがある細見美術館。館内にはおしゃれなカフェ(私はまだ寄ったことがないのだけれど)に加え、豊富なグッズをそろえたミュージアムショップもあり、近所にあったら通うのになぁ……と感じさせてくれる場所である。ちょうど今年から来年にかけて、細見美術館の名品展が全国を巡回するようなので、間もなくやってくる東京展にも行くつもりである。


 幸せなことに、ここで紹介させていただいた以外にも好きな美術館はたくさんある。ただ、近場の企画展を中心に回っているため、今後もっと全国に足を延ばしていろんな美術館を見て回りたい気持ちも当然ある。
 なんでもかんでも行けるわけでは当然ないのだが、こだわりのコレクションと企画を揃えた常設展や収蔵品展にも目を向けていけたら、もっと美術館めぐりの楽しみが広がるだろうなぁと、書いていて改めて思った。

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