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介護事業所の闇②

7年勤めた会社を辞めた後、Facebookで高校時代のクラスメイトXから突然、連絡があった。クラスメイトと言っても、ぼくは1年の1学期で理数系特進コースから落ちこぼれて普通科のクラスへ移ったから、ほんの4ヶ月しか同じクラスではなかったし、そもそも話しをした覚えも無いくらいの相手だった。

ぼくが通っていた高校は、お金持ちのおぼっちゃまが通う私立の男子校だった。なので、地元の会社の社長や元プロ野球選手のご子息、老舗の名店の跡取り息子などが多く、ロレックスの時計やハイブランドの財布など当たり前に持っているような学校だ。そのため、ぼくは完全に浮いた存在だったので、逆に目立っていたのかもしれない。

そのXも実業家の息子で、X自身も45歳にして4件の介護施設を運営する社長になっていた。そしてどうやら、ぼくのFacebookのプロフィールを見て介護の仕事をしていて、資格を持っていることから連絡したようだ。
その会社の副社長をしているのも、クラスメイトだったYだった。しかしXから名前を聞いてもどうにも思い出せない。実際にあって顔を見てもなかなか思い出せなかったのだが、話しをしているうちにぼんやりと「あぁ、こんな人いたかもな」という程度の記憶しかなかった。

なんだかんだあって、Xが運営する施設の中で最近オープンしたばかりの新しい施設で副施設長として働くことになった。

その勤務先となる施設は、その時住んでいたところからでは、遠かったので引っ越すことになった。そのため、生まれてから(大学時代を除いて)住んでいた実家(団地ですが)を引き払うことになった。

そして、その施設で働くことになったのだが、すぐさま大事件が起こった。

朝、出勤すると社長、副社長、訪問看護の管理者の女性看護師Aが揃って何か話しており、不穏な空気が漂っていた。その中でも、Aが一番慌てているようだった。

副社長のYを捕まえて話しを聞くと、どうやら施設長で訪問介護の管理者の男性社員Bが、社用ケータイと自分の私物ケータイ2台を置いたまま行方不明になったらしい。

とりあえず、社長とAが思い当たる場所を探しに行き、Yが残り待機することになった。
ぼくは入社して間もない時期に起こった事件に、戸惑いと半ば呆れた気持ちで見ていた。

よくよく話しを聞いてみると、AとBは社内恋愛の関係にあったようで、痴話喧嘩の末、男のBが飛び出して行ってしまったようだ。
こちらとしては、入社早々他人の痴話喧嘩に巻き込まれ、もうすでにXとYの上手い話に釣られてこの会社に来たことをすでに後悔し始めていた。

結局、その日の夕方近くに、Aが静岡方面のサービスエリアでBを発見したそうだ。
その後、AとB、社長のXと副社長Yとで話し合いをした結果、Bはそのまま退職することになった。そしてAもしばらくの間、自宅謹慎となった。

その施設はオープンして間もないのに関わらず、管理職の二人がいない状態になってしまった。

その間、副社長のYがこの施設で業務を取りまとめることとなり、ぼくはまだ何も教えられないまま、Yから教わりながら管理業務を行うこととなった。

この施設で働く職員たちも、すっかり呆れ果てており、特に看護師の職員の間では、元々やたらと細かく厳しいAに対し不満を抱いている者も多く、「もう、戻ってこられないんじゃないの?」「戻って欲しくない」と言う意見が職員達の総意であった。

この施設は、住宅型と呼ばれる有料老人ホームの中でも、看護師を多く配置して、ターミナル期(終末期)の方も受け入れることを特徴として前面に押し出している施設で、オープン間もないが、そのような医療的処置を必要としている方もすでに数名入居されている。なので、看護師を取りまとめることができ、終末期医療に精通した看護師の管理者が必要であった。

そのような施設で、社内での色恋沙汰で仕事を放り出して逃げて行ってしまう施設長もどうかしているし、そのようなことが原因で長期間、出勤してこれなくなってしまう看護部門の管理者もありえない。

実家を引き払ってまで、引っ越してきて、働き始めてわずか数日でこのようなトラブルに見舞われたぼくは、ただただ途方に暮れるしかなかった。

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