【小説】タシカユカシタ #4
臨時保護者会のお知らせ
○○の候、益々御清祥のことと存じます。さて本校PTA役員会並びに教師会におきまして、来たる○月○日(日)に臨時保護者会を開くことに相成
りました。議題は、次のとおりです。
議題 大楠の伐採についての事情説明
以前より本校の課題でありました、本校中庭に貯立する大楠の老齢化による倒木の危険性を鑑み、この度、大楠を伐採する運びとなりましたので、その事情説明を行います。父兄の皆様のそろっての参加をお願い致します。
「先生!これ、どうゆうことですか?」
みんなが、由香のほうを振り向いた。由香は、立ち上がっていた。
「どうした、村瀬」
「大楠の伐採って、あの木を切っちゃうってことですか」
由香は、窓から見える大楠を指差した。
「ん?ああ、実はそうなんだ」
寺野先生は、ぎょろりとした目で大楠のほうを見てからみんなのほうに向き直った。
先生は、背が高くて体格も、がっしりとしていた。いつも茶色のジャージの上下を、着ていて、髪は、ごわごわした感じの短髪で、げじげじ眉毛がVの字になっていて、いつも見開いたような目をしている。みんなは先生のことを、名前をもじってティラノと呼んでいた。ティラノザウルスのティラノだ。
「このプリントに書いてあるように、あの大楠は伐採することになった。
あの木は、この学校のシンボルだが、樹齢二百年を越え…樹齢って言うのは木の年齢のことだ。言ってみればあの木は、よぼよぼのおじいさんで、いつ倒れてもおかしくない状態なんだ。
本当ならこの北校舎を建てるときに切るはずだったが、反対意見が多くて結局切れなかった。でも去年の台風のダメージもあって、もう切るしかないってことになったんだ」
寺野先生は、窓際に歩み寄り、大楠を見た。
「先生もこの学校の卒業生だから愛着もあるが、木が倒れて誰かがけがをしてからでは遅いんだ。倒れる前に手を打たなくてはならない。そのことをみんなのお父さんとお母さんに説明する会を開くので、このプリントを家に持って帰ってみせるように」
「あの木は切っちゃだめです!」
由香が叫んだ。
「なんだ、村瀬、どうしたんだ」
「あの木は切っちゃだめ!よくないことが起きるわ!」
由香は、頭を抱えてなおも叫んだ。
由香のただならぬ雰囲気に、クラスメイトが、ざわつきはじめた。
(あの木は切っちゃだめ…)
由香は立っていられず、その場にうずくまった
「アンカス…」
謎の言葉を残して由香は気を失った。
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