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「風鈴物語」



「あらすじ」

鉄で出来た風鈴「鉄っちゃん」はある日気付く。

風鈴は吹かれる場所を選べないし風も選べない。どの家の、どの場所に吊るされるのかは運命の糸次第。強く鳴るか、優しく鳴るかは運命の風次第。

鉄っちゃんは手も足も出ないどころか…無い!アクションなど興せないし、そのすべてはリアクションだった。

さらに自分を風鈴たらしめているのは、それを聞いてうっとりする人がいてこそであって、そうでなければただの雑音装置に過ぎない存在。

この物語は、誰もいなくなった部屋にポツンと一人取り残された、鉄っちゃんの独白である。

伝えたいことは「地球は宇宙の風に揺れる風鈴、人は地球の風に揺れる風鈴」って事。

①「錆びた夏」


風鈴の存在意義って何だか知ってるかい?
音が鳴ってナンボって事なんだよね!

鳴らなくなってから気付くなんて間の抜けな話しだぜ…

俺かい?俺は鉄で出来た風鈴さ、皆んなからは「鉄ちゃん」て呼ばれてたよ

誰も来ねぇ、風も吹かねぇ閉め切った部屋でたった一人、孤独な時間がどれくらい流れたかなんてもう忘れちまったよぅ

今じゃ只の鉄くずだぜ!へ、へっ!

おぃ、そこの人!俺の話しを聞いてくんねぇか?
独白ってやつをよぅ!いきさつってやつをさぁ!

ずっと昔の話さ…………………….

俺が入ってた箱のフタが突然開いて、眩しい光の中で俺を覗き込んでいたのは、人の良さそうな爺さんだったよ。縁側に吊るされて初めて風に吹かれた時は気持ち良かったなぁ…

太陽がギラギラしてた日だったよ

俺は鉄で出来てるから他の奴より、高い音が出るんだとさ。爺さんと婆さんはうっとり聴き入ってたよ

風呂上がりなんか、二人で何も話さずに俺の歌声だけがチリンチリン響くんだ

それが俺には嬉しくってよぅ、この人らの為に俺は鉄の身を粉にしても歌ってやろう!って思ったぜ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そんなある日、婆さんがガラス製の風鈴を買ってきたんだ、和装の花柄で可愛いかったよ。俺は彼女を「グラス」って呼んでた、二人並んでハモると爺さんと婆さんはうっとり聴いていたっけ

そのうち尋ねて来る客人達に俺の透き通った音を自慢する爺さんを見て、だんだん自惚れちまった様だぜ

風鈴てのは持ち主の心を癒す事が何よりの喜びなんだ、でも俺は誰かの為って気持ちが少々暴走しちまってたかも知れねぇな…「俺がこの家に来てやったんだ!俺の鳴らす音で皆んな癒されてるんだ!俺の歌声は天下一品だ!」なんてな!へ、へっ…笑っちまうぜ。

だんだんグラスとの言い争いも増えていったよ

🎐あんた!あんまりいい気になるんじゃないよ!
あんたは吊るされてるだけで自分じゃ手も足も出ないんだよ!

🎐なんだと、こんちくしょう!手も足もって何の事だよ!

🎐馬鹿だねーあんたは!人間には手と足が有って自由なんだよぅ!

🎐間抜けな事ぬかしやがる!人間だって、どの家めがけて天から吊るされるのか分かんねぇじゃねえか!その後の人生だってそうさ、手も足も出ねえのは皆んな一緒だろ!

🎐分かった様な事ぬかすんじゃないよ!音だってあんたの力だけで鳴ってんじゃないだよ!風が吹いて、窓を開けてもらって初めて音が鳴るんだ!私らは風になびいてるだけなんだよ!

🎐馬鹿野郎!それだって皆んな同じだよぅ!誰だって最後には流れるまま、風の向くまま!なんて、なびいてるじゃあねぇか!運命切り開いてるつもりでもよ、風に背中押されてるだけなんだよぅ!

それによぅ、どんなに風が吹いたって何にも無けりゃ分らねぇんだ!木の葉とか流れる雲とか!俺らが居るから爺さん達は風を感じられるし、風だって何かが作用してこそ、誰かに気付かれる!まぁ、持ちつ持たれつって所じゃねぇかよ!

🎐あんたは、何にも分かっちゃいないよ…風鈴だって思ってくれて「良いな~」って感じてくれる人が居てこその風鈴なんだ、じゃなきゃ電子レンジの「チン」と同じじゃないか…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

どんなに言い争った日も風が吹けば鳴らずには居られない。寂しくってしょうがなくってまた二人でハモる

まぁ、何処にでも有る話しさ…

そのうちグラスの体に変化が起こったんだ
突然の出来事だったよ…

②「最後の夜」


ある日の事だった

どーもグラスとのハモリがしっくりこねぇ「どーしたんだよ!」って聞いたら、あいつが…

🎐あんた、あたしの体ひび割れてきちゃったよ…
この前の台風の時、激しく歌い過ぎたよ

🎐けっ、ガラスの体ってのは柔に出来てんだなー!
俺なんざ、何ともねぇや!で、いつ治るんだ?治るんだろ?

🎐ゴメンよあんた、あたし分かるんだよ…あたしの体は今夜の風次第って、ところなんだよ。あたしらはぜーんぶ風任せさ、仕方ないだろぅ

🎐おい、待てよ!夢語り合ったじゃねぇかよ!
ずっと二人で歌い続けようってよ!

🎐ゴメンよ、本当にゴメンだよ、あんた…でもね、ずっと続く夢なんて無いんだよ。夢は壊れて良いんだよ、だから新しい夢を見れんだからさ…

あんたは今まで通り透き通った音色で歌っておくれよ、空の上から何時も聴いてるからさ…あんたにはあんたにしか鳴らせない音があるんだよ

冷たい風や暖かい風、私らは風を選べない。でも、どんな音を鳴らすかはそれぞれなんだ!生き様ってのは、競い合うもんじゃ無い。あんたにしか歌えない音を鳴らすんだよ!

聴かせておくれよ、最後の夜にさぁ!🎐………………..

俺はそれきり何にも言えなくなっちまった。初めて願ったぜ「風なんか吹かねぇでくれ!」ってな。へっ、風鈴が絶対言っちゃいけねぇセリフだぜ!

だけどよぅ、最後に「サヨナラ」だけは言わずにいられねぇだろ、でも言う為には風が吹かねぇといけねぇ…そうするとグラスの体は割れちまう…

どうすりゃあ良いのか分かんねぇまま
時間だけが流れたよ…

心なしか風受けの紙も涙で重くなってる気がした
そんな夜だったぜ

……………………………………….

〜あぁ 悲しいけれど「サヨナラ」言わずにいられない 風はゆっくり動き始めた〜

………………………………………..

壊れて砕け散るグラス最後の声「あんた、ありがとう」はアイツの生涯で最高に優しくて美しい歌声だった事は、この俺が何があっても証明できるぜ!

③「グラス」

俺がグラスを亡くして一人ぼっちになった悲しみで悶々としてたある日、体調を崩して寝込みがちだった爺さんが、久々に婆さんに支えられて縁がわに出てきたんだ

爺さんは風に歌ってる俺をまじまじと見つめながら誰にともなく言ったんだ

「風は何時だって吹いてるんだ忘れちゃなんねぇよ…」

それから暫く婆さんと並んで若い頃の思い出話を語り合ってた、ホントに時を忘れて語り合ってる、そんな感じだった。そしてそのまま旅立ったんだ…

空に舞い上がる時、爺さんは俺を「チリン」と鳴らして行ったもんだから婆さんは勿論気付いたんだけど、もたれかかった爺さんの頭を撫でながら、ずっと爺さんに昔話を呟いていたっけ

正直言ってよぅ、俺を風鈴にしてくれたのは爺さんなんだ。その恩人の最後のBGMに成れたなんて、風鈴冥利に尽きるってもんだぜ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから暫くして突然だったよ。雨戸が閉まって真っ暗になっちまって、婆さんも居なくなっちまった

何が何だかさっぱりわかんねぇまま、長い月日が流れたようだ…

それからはずっと雨戸を閉めきった暗い縁側に一人ぼっちだ。戸の隙間から刺す西陽が埃を真っ直ぐな線にしてる

最近はそれだけでも季節が見えるんだぜ…

夢かうつつか埃の中でグラスの声が聞こえる「お〜い!」って呼び掛けたいが風が吹かねぇから…声が出ねぇんだよ

強くなれたなら、って思うよ…風なしで生きれたら!グラス無しで生きられたら!ってな…でもやっぱり、会いてぇ!幻でも声が聞きてぇよ

やっと思い知ったぜ…俺達は自分からアクションはおこせねぇ!何かのアクションに対するリアクションだけだ。自力じゃ音ひとつ鳴れやしねぇ!そもそも自力なんてありゃしねぇのよ

ひょっとして地球は宇宙の風に揺れてる風鈴みてぇなもんじゃねぇのかい?
ひょっとして人間は地球の風に揺れてる風鈴みてぇなもんじゃねぇのかい?

今じゃ俺は錆びついちまってよぅ、瘡蓋だらけみてぇになっちまった…でもな、錆びたら錆びたなりの音がするんだぜ!爺さんが言ってたように風は何時だって吹いてる、たまに雨戸を揺らしてるから分かるんだ

そこに風があるなら、いつかは必ず俺の所にも吹くはずだ!そして俺には何時でも鳴れる音が今でも有る。だから、いつか必ず鳴り上がってみせるぜ!

俺にとっては爺さんの言ってた事だけが真実だ!もしそれが嘘だったとしても、どっちみち真っ暗闇に一人って事は変わらねぇ!だから後悔なんてするはずもねえ!

俺は何時だって鳴れるんだ、歌えるんだ!俺は何時だって…何時だって…🎐

④「ラストショー」


その日は突然だったよ!雨戸が開いて風が吹いたんだ

ヘルメットを被った見知らぬ男と、前よりも小ちゃくなった婆さんが土足のまま入って来て話し始めた

二人の話しを聞いて全てが分かったんだ…

爺さんが旅立った後、この家の向い側に息子夫婦が家を新築して、婆さんもそこで暮らしているらしいんだが、こんど爺さんの七回忌も終え心の整理も着いたから、この家を取り壊す事になったんだとさ

👷🏻‍♂️じゃあ、明日から始めますね
👵🏻はいっ、宜しくお願いします

🎐リーン、リーン

👷🏻‍♂️ほぅ、良い音のする風鈴ですね。これも処分して宜しいですか?
👵🏻はいっ、全て処分でお願いします

去りぎわに婆さんは俺を指でチョンと鳴らして

👵🏻貴方は一足先に、お爺さんとグラスちゃん達の所へお帰りなさい。私もすぐに行きますからね、空の上にも風は吹いてるんだから…

俺はまるで飼い主に甘える犬のしっぽの様に、婆さんにリンリンリン〜!と返事したよ

🎐...🎐...🎐...

と言う事で、今夜が最後の晴れ舞台だ!明日の朝までの「ラストショー」だ!

今まで俺の愚痴話しに付き合ってくれて、皆んなには本当感謝してるよ!聞いてくれる人が居るって思えたからここまで頑張って来れたんだ!

風鈴はさぁ、普段は見向きもされなくて良いんだよ。気付かれようと思いながら鳴ってる風鈴なんて、アマチュアさ。本当に良い音は人の無意識に語りかけるもんなんだ!

ほら、見てみなよ!夕飯を囲む家族の笑顔を。開け放った窓から聴くともなく聴こえて来る俺の歌を聴きながら飯を頬張る家族の姿をさ!

これでもう十分だ、十分に歌ったぜ…風鈴になれて、この家に来れて本当に良かった

ほら夜の街叩く雨も、まるで拍手の様に聴こえる
グラス!お前にも聴こえるだろぅ?

明日はきっと暑くなるぜ、あの頃のように…
そしたら永遠の風に舞い上がるんだ!

リン、リン、リ〜ン…🎐

〜完〜



#創作大賞2023 #ファンタジー小説部門

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