機動戦士ガムダム

口の中にいつまでも残る食べ物が嫌いだ。だからガムや飴を食べることはほとんどない。特にガムは嫌だ。ガムを噛んでいると、たまに間違って舌を噛んで痛い思いをする。舌を噛むリスクまで負って食べる程うまい物でもないので、最近は全くガムを食べていない。焼肉屋などでガムを渡されても、後で捨ててしまう。しかし、いくら嫌いだからといっても、捨てるときは少し勿体無いなあと思う。ガムが嫌いな人でも食べる方法はないものだろうか。

「本日も『発見!郷土料理うまい物』、生放送でお送りいたしております。今日の郷土料理は立山の郷土料理です」
ここは毎週火曜日の夜6時から始まる人気番組「発見!郷土料理うまい物」の収録現場。今日は立山の麓にある村の一軒にお邪魔しての放送だ。そして、レポーターの傍らに座っているのはこの家のおばあちゃんだ。
「おばあちゃん、ここの郷土料理は何ですか」
「この村の名物は、ガム料理ですじゃ」
「えっ、ガム、ですか」
「ああ。ガム料理じゃ」
岩魚料理が名物だと聞いていたレポーター。どこで食い違ったのか。しかし、これは生放送。ここで慌てるわけにはいかない。
「ええと、それは珍しいですね。ガム料理というのは昔からあるんですか」
「ああ。この村では昔からガム作りが盛んでのう。江戸の時代は将軍に献上したと記録にも残ってるんじゃ。でも最近では手作りガムも少なくなってのう。昔はどこの家庭でも作ってたんじゃ」
「そうなんですか。そのガムというのは、何度も口の中で噛んで味わうあのガムですか」
「ああ。そのガムじゃが。昔のガムの味は今と違って醤油や味噌だったがの」
嫌な予感がするレポーター。でもここまで来てしまったからには後には引けない。自分もプロのレポーターなのだ。
「ええっと、ガム料理というのはどんなものがあるんですか」
「ガム飯、ガム鍋、ガム汁をよく食べるのう。あとガム飯じゃ」
ぎょっとするレポーター。何故ガム飯を二回言ったのか、そんなことを気にしている場合ではない。
「ああっ。ええっと。おばあちゃん。今日はどのガム料理をご紹介していただけるんですか」
「これじゃ。まずこのガム寿司。まあ食いなされ」
皿に乗せられて出てきたのは、握った酢飯の上に板ガムがネタとして乗ったガム寿司だ。覚悟を決めてそれを食べるレポーター。口に放り込んだ瞬間、意外な顔になる。
「ガムが新鮮だからですかねえ、酢飯と合いますね。おおっ、ガムがぷりぷり、しこしこして」
「うまいじゃろう。うまいじゃろう。こっちのガムしゃぶもどうじゃ」
一緒に出された熱いだし汁に板ガムをしゃぶしゃぶとやり、ポン酢に浸して口に放り込む。
「これはまたねっとりともちもちして」
「どうじゃ、ガム料理は」
その時、部屋の襖がガラリと開き中年の女性が入ってきた。
「ああ、お邪魔しております。『発見!郷土料理うまい物』の収録で……」
レポーターがそこまで言うと、中年の女性は慌てて言った。
「おばあちゃん、何してるの。また東京から来た人に適当なこと言って。ああっ、うちのおばあちゃんがすみません。みなさん、あちらの部屋に岩魚を使った郷土料理が用意できましたので、どうぞ」
唖然とするレポーターを見ながらおばあちゃんは、ほくそ笑んだ。

何だか自分でもよく分からないエピソードだが、ガムの無限の可能性を示唆するエピソードだと思う。

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