スマイルを下さい

今更な感じはあるが、ファストフード店のレジのお姉さんに「スマイル下さい」と言いたい。このつらいご時世だからこそ、スマイルで心を癒やされたい。
しかし、相手はその様な事を言う輩には慣れているはず。迂闊に「スマイル下さい」に臨むと返り討ちにあいそうだ。

「スマイル下さい」
「スマイルですね。悲しい時のスマイルと嬉しい時のスマイルがございますが」
「え、ええっと、悲しい時のスマイルで」
「悲しい時のスマイルには、親友の葬式帰りに励まされて無理して笑うスマイル、ネロとパトラッシュが天国で幸せに暮らしている事を想像した時のスマイル、自分の身に降りかかる不幸の連続が逆に面白くなってしまった狂ったスマイルとございます。どれになさいますか」
この店員どうかしている。

「スマイル下さい」
「スマイルはホットとアイスどちらになさいますか。Sの方にはホット、Mの方には蔑んだ感じのよく冷えたアイスをお勧めしております」
こんな店員なら大丈夫だ。是非アイスでお願いします。

「スマイル下さい」
「只今、スマイルはセットがお得となっております。私のスマイルに、店長の馬鹿笑いが付いてとってもお得ですよ」
いや、あなたのスマイルだけが欲しいんだ。店長の馬鹿笑いなんぞいらん。

「スマイル下さい」
「私どもスタッフのスマイルよりお客様のスマイル。ハンバーガー店の店員、若林こずえでございます」
いや、意味が分からない。

「スマイル下さい」
「ごめんなさい。あなたにはあげられそうもないの……」
一週間は立ち直れそうもない。

「スマイル下さい」
「スマイルの代わりにヌマイルあげます」
なんだよ、ヌマイルって。

スマイルを頼むのもなかなか難しい。

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