鴨なんば

昔の日本では、右手と右足、左手と左足をそれぞれ一緒に出す「なんば歩き」というのが普通の歩き方だったらしい。現代では一般的な、右手と左足、左手と右足を一緒に出す歩き方をしていなかったということだ。初めて聞いたときは、少し驚いた。今では一般的な歩き方が、昔は一般的ではなかったのだ。
歩き方ですら、今と昔では大きな違いがある。ということは、他にも今では考えられないが、昔は一般的だったことがあるのじゃないだろうか。

蕎麦を目の前にした蕎麦好きな江戸っ子。
「こいつは美味そうな蕎麦だね」
とツユを付けてツルツルっと鼻で啜る。今では口で食べることが一般的な蕎麦だが、昔は鼻で食べることが一般的。蕎麦を鼻に入れてツルっと一息で吸い込むのが、粋な江戸っ子の証だ。

「ちょいと仕事に出てくるよ」
いつも通り仕事に出かける大工の八兵衛。
「あんた、ちょいと忘れ物だよ」
とおかみさんが手に持ってくるのは海苔巻きだ。
「おっといけねえ。これがねえと格好がつかねえや」
八兵衛は受け取った海苔巻きを頭に載せる。丁髷の正体は海苔巻きだった。
後ろにまとめた髪の毛を前に持ってきて剃った頭に載せていたわけじゃない。昼飯にもなる海苔巻きを載せれば、髪の毛を載せるより実用的だ。お洒落な人は握り寿司を載せたっていい。

「ああ、くしゃみがでそうだ。へっ、へっ、へっ」
とくしゃみする寸前の岡っ引きの平次。しかし、「くしょん」と音が出るのは尻からだ。今では口や鼻でするくしゃみだが、昔は尻ですのが一般的。詳しい仕組みは良く分からない。

握り寿司を頭頂部に頂き、鼻で蕎麦を啜り、尻でくしゃみをする。江戸時代にそんな祖先達がいたことを誇りに思いたい。

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