彼氏彼女の手錠

ニュースなどで捜査員に連行される容疑者の映像を見ると、手錠をされているであろう部分にはモザイクがかけられている。何故モザイクがかけられているのだろう。テレビで放送できない事情でもあるのだろうか。

「さあ、覚悟は決まったか。行くぞ」
捜査員が容疑者の住むアパートから容疑者を連れて出て行くと、待ち構えていた報道陣が一斉にカメラを向ける。しかし次の瞬間、報道陣の中で誰かが大声を上げる。
「おい、これは駄目だ。モザイクをかけろと局に伝えろ」
容疑者にはめられた手錠には毛が生えている.勿論、青少年の育成に有害でテレビでは映せない毛だ。うっかりポロリと放送してしまおうものならPTAから抗議の電話が殺到する。

「何故来たか分かっているな」
捜査員は容疑者に向かって言った。
「知らねーよ」
「ほら、手錠をかけるから手を出せ」
手錠を取り出す捜査員。
「ちょっと待て。その手錠はなんだ」
捜査員が取り出したのは、モヤモヤした何か。
「知らないのか、本物の手錠はこうだぞ」
テレビに映し出される手錠にモザイクがかけられていると思われる映像、実はモザイクなどかかっていなかった。あのモザイクの正体は手錠そのものだ。容疑者の手にもやっとした物がかけられる。手首に絡みつく何か。

「何故来たか分かっているな」
「知らねーよ」
「ほら、手錠をかけるから手を出せ」
「出さねーよ」
容疑者に構わず手錠を取り出す捜査員。
「この手錠はなあ、お前を逮捕するにあたって、お前のおっかさんに作ってもらった手錠だ」
「えっ」
「お前の実家まで行って、頼んで作ってもらったんだ。おっかさん、泣きながら作ってたぞ」
「ううっ。おっかあ、すまねえ」
母さんの手作り手錠。容疑者は泣きながら両手を差し出す。

「何故来たか分かっているな」
「知らねーよ」
「ほら、手錠をかけるから手を出せ」
手錠取り出す捜査員。
「ちょっと待て。その手錠はなんだ」
捜査員が出した手錠は、輪と輪を結ぶ鎖がハムスターになっている。一匹のハムスターが両手で片方のリングにつかまり、両足でもう片方のリングにつかまっている。つかまった手錠から落ちないように必死だ。心なしか、プルプルと震えているようにみえる。
「これは、ハムスターのハムちゃんだ」
「えっ……」
「ハムちゃんは、交通課の山田さんのところの兄妹が可愛がって育てているペットだ」
「はあ」
「今回はその子供達に黙って持ってきた。お前が暴れるとハムちゃんが下に落ちる仕組みだ」
「……」
「ハムちゃんが死ぬだけじゃない。子供達もさぞ悲しむことだろう。まあ、こういう仕組みになっていることは一般の人には秘密なんだがな」
どんな凶悪犯もこの手錠をかけられると大人しくなる。

色々な事情でテレビで映せない手錠。個人的には毛が生えている手錠が一番あ怪しいと思う。

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